第52話


「……なんか言って」


 どんな表情で出てきていいかわからなくなったのか、何故かちょっと唇を不服そうに尖らせた理世が言う。

 普段の理世を思えば幼く見えるが、それでもこれはこれでかなり魅力的で……。


「可愛い」

「ほんとに?」

「うん」


 リヨンとしての姿も、アイドルとしての姿もかなりの完成度だが、それを可能にするにはここまでの素材がないといけないのかと改めて思い知ったほどだ。


「許されるならたまに見たい」

「うう……泊まりに来てくれたら……いいよ」


 限界を迎えたようで理世が顔を反らした。


「そんな恥ずかしがる必要ないと思うくらい可愛いんだけどな」

「――っ! も、もういいから! それ以上は……あっつい……身体熱くなっちゃう」


 パタパタと服の胸元をもって仰ぐ。

 目を反らすのが遅れて下着をつけてるのかどうか怪しいくらいまで、胸元が目に飛び込んできてしまった。


「アキくん……? あ……」


 俺の視線が不自然に外れたことで気が付いたらしい。

 服をバッと抱き込んで理世がこちらを軽く睨んでいた。

 俺が悪いんだろうか……いや悪いのか……。


「ごめん」

「いや……というか私、顔のことで頭一杯になってブラしてない!?」

「言わないでいいから!」


 じゃあさっきちらっと見えたのはほんとに……とか考えてしまう。

 なんとか話を変えよう。


「え、えっと……寝るのはソファでいいのか?」

「え?」


 軌道修正が無理やりすぎて戸惑わせたかと思ったが、そうではないらしい。

「ベッドで一緒じゃダメなの?」


 きょとん、とした表情でそんなことを言う。


「え……」


 今度は俺が驚く番だった。

 ただ理世に引く気はないようで……。


「ダメ?」


 上目遣いでそう言ってくる。

 例によって断ることは許されないずるい表情だった。



「あはは。思ったより狭くならないんだね」


 あの後、軽くゲームをしたり、歯磨きなんかをして寝る準備を進めて……今は二人、ベッドで横になっていた。

 狭くない、と理世は言うが……。


「ここまで密着すればな……」

「えへへ」


 仰向けになった俺に抱きつく形で、完全に身体が重なっていた。

 これなら確かに、一人用のベッドでも十分だろう。

 十分なんだけど……。


「色々当たってるんだけど……」

「当ててるからね?」


 あれだけ恥ずかしがっていたのに慣れてからはいつもの調子だった。

 ちなみに下着もあれからつけるタイミングはなかったから、今のこの感触は……やめよう。深く考えるのは。


「これで親戚の子にも、焼き魚定食氏の妹ちゃんにも勝ったかな」

「勝ち負けの問題なのか……」


 それでもまぁ、隣で満足そうに笑ってる当たりこれでいいのか。


「私はアキくんを縛り付けたりしないけど、アキくんの一番ではいさせてね」


 耳元でそうささやいて、ぎゅっと抱き着いて来る理世。

 結局曖昧な関係ながら、俺たちの在り方が定まったのかもしれなかった。

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