第48話
「あの家なんだけど、一応時間差で入ろっか。これ合鍵だからオートロックの解除はこれで。部屋番号は――」
何駅か電車で移動して目的地付近まで辿り着き、立派過ぎるマンションを前に理世からそんな説明を受ける。
ファミレスにいたときまではともかく、なんかこうなると本当に別世界の住人のように思えてくるな。
「ちゃんと聞いてる?」
「ああごめん。ちょっとぼーっとしてた」
「もー。でもごめんね? ほんとはこんな気使わせたくないんだけど、一応何があるかわからないし何かあるとアキくんに迷惑かかっちゃうから」
理世の言い分は十分理解できるし、俺も理世に迷惑がかかるのは本意じゃないからいい。
それに今のリヨンの姿を見てアイドルを想像できる人間はこれまでも稀だったんだと思う。沙羅がちょっとおかしかっただけで。あとはこの距離で話さない限り気づかないレベルでこれは、立派な変装だ。
だから念には念をという意味合いが強いんだろう、と思っていたんだが……。
「へへへ……合鍵、渡しちゃった」
はにかむ理世が可愛い。
じゃなくて……。
「部屋に入ったら返すつもりだったけど」
「え!? なんでそんなひどいことするの!?」
ひどいのか……?
まあでも、これも理世なりにやりたいことの一つなんだな……。
「理世がいいならまあ、いいけど」
「ふふ。さらっと理世呼びになってる……へへ」
顔が緩む理世を見ていると間違った変化じゃないのはわかるからいいんだけど……。
「とりあえず入るか……」
「うんっ! そんな時間空けなくてもいいから! すぐ来てね」
「わかった」
パタパタと理世が駆け出して行く。
広いエントランスを抜けて姿が見えなくなっていくのを見送る。
「……これだけ見ると文字通り、住んでる世界が違うな」
目の前から消えると余計そんな気持ちが強くなるが……。
「これ、返さないでいいのはありがたいかもしれないな」
持たされた合鍵を見つめて思う。
オンラインだけのつながりは、本当にあっさり断たれることが分かった状況で、この繋がりは結構大きな意味を持つ気がしていた。
まあもっとも、リヨンはもういなくならないとは思うんだけど。
「そろそろ行くか」
ちょうどよく理世からもメッセージで「もういいよ」と連絡が来ていた。
こんな仰々しいセキュリティの建物に入る経験なんて早々ないので少し緊張しながらも、特段問題はなくエレベーターで指定された階まで行くと……。
「あ、アキくんこっちこっちー!」
「待っててくれてたのか」
「一回部屋には戻ったけどね?」
エレベーターを降りてすぐ、理世が出迎えてくれていた。
「行こ行こ!」
すぐに俺の腕を取って歩き出す理世。
「ここはいいのか?」
「建物の中は基本大丈夫だから! 少なくともいいカメラで盗撮されたりの心配は少ないしこの格好ならいいかなって」
まあ確かにこのファッションのときはそうか。
「まあ、いいならいいのか」
「うんうん。どんどん行こー!」
勢いだけはいいが流石にマンションの廊下なんてそう大した距離もなく、あっさり目的地にたどり着く。
見える範囲だからだろう。鍵もかけていない扉に理世が手をかけて……。
「ようこそ! アキくん」
「おじゃまします」
扉を開けた瞬間間取り全てが一望できる我が家とは違い、ちゃんと廊下がある。
おそらく一番奥がリビング。そのほかにもいくつか扉がある辺り、一人暮らしにはかなり広い家だということが伺える。
玄関もかなり広い。
だというのに脱ぎっぱなしの靴が一足も放置されていない整頓された綺麗な家だった。
「初めてこんないい家に入った」
「あはは。一人だから物が少なくて、生活感は出さないようにレイアウトできちゃうからね」
「なるほど……」
まあそれだけじゃなくて、これは性格もあるだろうけどな。
そういう部分もこれまで知れなかった新鮮な部分かもしれない。
「まあまあとりあえず入ってー。洗面所は入ってすぐ左……って私が先に行けばいいんだ」
テンション高めの理世について中に入っていく。
手洗いを済ませ最初に見た一番奥の扉を開ける。
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