第24話

「ん……?」


 深夜。

 リヨンとゲームをやりすぎたねと反省しながら駅まで歩いて送って、一通り片づけやらなにやらをして眠りに着こうとベッドに入ってしばらく経っただろう。

 多分もう日付は変わっているだろうタイミングだ。

 薄い扉の向こうから何か物音が聞こえるとは思っていたんだが……。



――ピンポーン



「え……?」


 インターホンが鳴った。


「理世が忘れ物を取りに来た……にしては遅すぎるよな?」


 携帯に連絡も入っていない。

 あいにく一人暮らしのアパートだ。インターホンの向こうの様子をモニターで確認することもできないが……。


「怖いなこの時間は……」



――ピンポーン



 だが無視するにも微妙だろう。気になって仕方ない。

 足音を殺しながら、なんとか玄関扉の前にたどり着く。

 ここまでくれば一応、扉に設置されたドアスコープから覗けるんだが……。


「あれ……宮川さん?」


 扉の前にいたのはよく知ってる顔だった。

 いつもコンビニで世間話をする店員だ。

 とはいえこんな時間に……? と思いつつ、一応扉を開けると……。


「あ、よかったっす。居てくれて」

「えっと……」

「すみません。自分この時間までバイトだったんで」


 遅くなった理由は理解できたがなんでわざわざここに来たのかわからない。

 俺の表情で何かを察したのか……。


「ああ、これ、忘れたんじゃないかと思って持ってきたんすよ」

「これ……え?」


 レジ袋に入れられてるのは……。


「――っ!?」

「使う予定、なかったんすか?」

「待て待て!?」


 レジ袋から透けた先には数字が書いてあった。

 小数点を挟んで〇一とか書かれている。

 間違いなくアレだった。ゴム的なアレだ。


「何でこんなものを?!」

「先輩、ちょっと近所迷惑かもっす」


 自分のことを完全に棚に上げて宮川さんが言ってくる。

 でもまぁ、時間を考えると外で叫べないか。


「えっと……一旦入るか?」

「いいんすか? お邪魔します」

「あー……」


 入れてよかったんだろうかという思いがよぎったが後の祭り。

 仕方ないな……。

 こうしてコンビニ以外で見るのは初めてだが、服装はシンプルでジーンズにパーカー姿。コンビニの制服の時にはなかったチョーカーから鎖が伸びてるのが目立つくらいで、いつもの宮川さんだ。

 それなりに話したこともある相手だしおかしなことにはならないだろう……というより、すでにおかしなことにはなっているしこれ以上はないと思いたい。


「で、なんでわざわざこんなものを……」


 部屋に戻って、とりあえず宮川さんを座らせて言う。

 宮川さんはいつも通り無表情ながら、キョロキョロ当たりを見渡してこう言った。


「お楽しみになるならこのくらいかなと思って気を利かせたつもりだったんすけど……もう帰ってたんすね」

「……」


 何からツッコめばいいかわからず言葉を失っていると宮川さんが唐突にこんなことを言い出す。


「沙羅っす」

「沙羅……名前か」

「それと、自分、先輩と同じ学園っす」

「え……?」


 こんな目立つ子いたか!?


「学園じゃピアスも外してるっす。ここまでは見られないっすけど」


 口を開けてこちらに見せつけてくる宮川さん――あらため沙羅。


「え……」

「スプタンと舌ピ……エロくないっすか?」


 ニッと笑う沙羅。

 見せられた舌はヘビのように二股に分かれてそれぞれにピアスが付けられていた。

 俺の趣味はともかく、沙羅が笑った顔は初めて見たからか、それがちょっと魅力的に見えたというのはあるが……。


「エロいかどうかはよくわかんないな……」


 苦笑い気味にそう返した瞬間だった。

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