第25話

「え?」

「先輩」


 気付いたらなぜかベッドに押し倒されて、両肩を押さえられた状態で馬乗りになられていた。

 だめだ。終始ペースを握られっぱなしというか、色々ありすぎて全然展開についていけない。


「沙羅……?」

「いいっすね。名前呼び。ゾクゾクするっす」


 舌なめずりをしながら沙羅が言う。


「先輩は覚えてないかもしれないっすけど、自分、先輩に助けられたことがあるんすよ」


 助け……?


「駅に行くバスの中で、まだこんないかつくなってないときだったんで痴漢に狙われて……でも先輩、さりげなく間に入って遠ざけてくれましたよね?」

「そんなことあったっけ……」


 そもそもこの話が今のこの状況とどう関係しているのかと、ベッドに転がされたまま沙羅を見上げて考える。

 本当に急展開過ぎて頭が付いていかない。


「あったんすよ」


 厳密にどのシーンかが思い出せないが、なんかそんなこともあったような気がする。

 別に後輩を助けようとしたわけじゃなかったと思う。なんとなく混んでて憂鬱な気分だったところにおっさんがいて、よくないことをしていたから妨害したとか、その程度だと思うんだが……。


「あれ……結構怖かったっす。学生のうちは我慢しようと思ってたっすけど、ピアスも増やしてちょっと威圧するようになったの、あれからっす」

「……」


 迂闊になにか言いづらいエピソードだった。

 同情するにしてもツッコミを入れるにしても。

 そんな感じで戸惑っていると、押し倒した体勢のまま、沙羅が俺の方に倒れ掛かってくる。


「――っ!?」


 密着して色々当たってるというか、もう距離が近すぎて何も考えられない。

 そんな俺に畳みかけてくるように沙羅が言う。


「先輩、別に二人とも付き合ってないんすよね?」

「え?」

「先輩の好みはおおよそ理解したっすけど……自分もだめっすか?」

「いや好みって言う話じゃないし、自分もって……」

「先輩の守備範囲、結構広いっすよね? それに自分、別に二番目でも三番目でも、都合のいい女でいいんで」

「待て待て!?」


 なんとかのしかかられてた沙羅の肩を持って身体を離す。


「なんか勘違いしてると思う!」

「そうっすか? 家に入れ替わり立ち代わり可愛い女の子を連れ込んでたと思ってたんすけど」


そう言われるとそれは否定できないんだが、そうじゃない。


「二人とも健全な関係だし、昼に言った通り片方は親戚だから」

「それはわかったっすけど……でもあの親戚の子、いい身体してるじゃないっすか。家に二人でいたらムラムラしないんすか?」


 いい身体……。

 女子から聞く機会がなかった単語だ。


「ムラムラはしない……というか、そういう相手じゃないというか……」

「じゃあ、自分もだめっすか」


 そう言うとあっさり俺の上から離れていく沙羅。

 物分かりがいいのか悪いのか……と思っていたらまた爆弾発言を落とされた。

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