第23話
「あはは。ごめんね? 見えた?」
スカートは辞めておこうと思った理世だが、そもそもリヨンとしてのスタンスで会う以上、選択肢がほとんどなかった。
結果、いつも通りそこそこ短いスカートは、四つん這いだと際どいラインまでめくれ上がるんだが……。
「いや、ちゃんと目を反らした」
「アキくん、そういうとこ誠実だよね。というか私、もう下着は全部見せちゃったのか」
茶化してその場をごまかそうとして出てきた言葉。
だというのに……。
「あれ……今さらめっちゃ恥ずい……あれ?」
顔が赤くなるのが自分でもわかるくらい熱くなっていく。
必死に手で隠そうとしてみたり、パタパタ顔を仰ぐがその動作ですらドツボにハマっていくきっかけにしかならない。
「うぅ……忘れてぇ……」
一人で焦る理世だが、彰人のほうも別に対応に慣れているわけではない。
むしろこのシチュエーションで助けて欲しいのは逆に、彰人の方かもしれないくらいだ。
助けを求めて目をさまよわせる彰人。
理世も同じく何か話のきっかけを見つけようと部屋を見渡して……。
「あ……」
「ん?」
別に何の変哲もないポスター。
白い衣装に身を包んだ、清楚なアイドルが踊っている。
よく見れば下の方は一年分のカレンダーが付いていて、これだけなら彰人の趣味かもらっただけで実用性をとっただけなのか、いまいち判断がつかない代物。
とはいえこの時点で、これを見つけた理世にそこまで深く考える余裕はない。
「えっと……ステラ、好きなの?」
アイドル、前田理世がセンターを務める人気グループ。
その名前がステラだ。
「ああ。結構聞く」
「へえー」
さっきとは別の意味で焦りだす理世だが、幸いさっきまでのバタバタのおかげで彰人が気づくことはない。
理世がまずいと思ったのは当然、ポスターに写る人物が、今ここに居る自分と同一人物だったからだ。
だが彰人にバレることもなく、というより、彰人はアイドルの姿を知っていながら、三回目になった今日に至っても気づいていないということが発覚した。
理世からすれば安心する一方で少し拍子抜け感もある。
変装に近いメイクや服装、髪型の変化は意図しているとはいえ……。
「リヨンも聞くのか?」
「え、えっと……そうかも?」
「まあ有名だもんな」
その程度で切り上げられる。
これはこれで理世にとっては本来都合がいいはずなんだが、妙な対抗意識のようなものが芽生えないでもない、複雑な状況だった。
そんなリヨンの葛藤に気づくことなく彰人がゲームを引っ張り出してくる。
「あ、これとかどうだ? 定番だと思うけど」
「お、いいね!」
理世の変な対抗意識は、こうして彰人の提案したゲームによってあっさりかき消された。
「結構前のシリーズもあるけど……どれならやってる?」
「もちろん、全部」
格闘ゲームに近い作りながら、体力制ではなく相手を場外に吹き飛ばせば勝ちというゲーム。
シリーズで人気を博し、最新ゲーム機にも対応。世界大会も開かれる人気ゲームだ。
「じゃあ最新作でいいか」
「ふふ。これなら負けないから」
「リヨンが強いのはわかってるけど、俺もこれはそこそこ自信がある」
「へえ」
一回目のときは集中できるような環境じゃなかった、という思いが彰人にある。
もっともあのときはこのゲームは置いていなかったのだが、あらゆるゲームで負け越した記憶が蘇っていた。
今回は言い訳出来ない状況だ。負けられない戦いと意気込む。
と同時に、隣にいる理世の下着姿が思い起こされて思考を乱されているのだが……。
「どしたの?」
「いや、集中する」
「いいね」
理世に気取られることなく意識を戻す彰人。
結局その後、二人でゲームに夢中になりすぎて、食事も買い込んだおやつでごまかしながら日が暮れるまでやり込み続けることになったのだった。
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