第21話

「っらしゃいませー……あ」

「あ」


 コンビニに入った途端店員と目が合う。

 小柄で、髪の色がコロコロ変わるしピアスが耳を含めいろんなところにちらほら見える。来るたびに会ういつもの店員さんだった。


「どーも」


 気だるそうな態度は別に嫌なわけじゃない、というのがわかるくらいには何度も顔を合わせている相手だ。

 軽く会釈して買い物かごを取る。


「知り合いなの?」

「うん。よく使うせいで顔を覚えられたというか覚え合った」

「へぇ……今時そんな感じで店員と仲良くなることあるんだ」

 俺もそう思う……んだけど、なんとなく話しやすいオーラがあるというか……。

 見た目はピアスやら髪のせいでいかついんだが、オーラは小動物のようなのだ。

「まあとりあえず飲み物とお菓子買って行こう」

「うんー!」


 二人で目につくものを適当に詰め込んでいく。

 お茶やらジュースやら、チョコレートにポテトチップス……絶対今日中に全部消化されないだろう量だ。

 まああれば使う機会を作ればいいだろう。

 そんなこんなで色々かごに詰め込んでから……。


「あ、ごめんちょっとお金下ろさせて!」

「いや、これは俺が買うけど」

「んーん。一緒がいい! だから待ってて」


 なんかいちいち可愛い……。今回は口には出さなかったが、その姿勢も、口調も、仕草も、可愛らしい。

 寧々で慣れていなかったら危なかったくらいだ。

 リヨンがどうかはともかく、見た目からしてそういうのを狙ってできるあざとさを持っているオーラが寧々と一致している。

 まあだからこれが、別に好意とイコールではないことを知れていたし、すぐに勘違いせずに済んでいるんだけど。


「お金下ろしてくるのはいいけど、会計は先にしとくよ」

「ごめんねー! すぐやってくるから!」


 そう言って一度別れ、店員のもとに向かう。

 一人しかいないから例のダウナーな女の子だ。名札に宮川と書いてあるのは前も気づいていたが、あえて自己紹介をし合っていない。そんな仲だ。


「あ、おにいさんどうも」


 気だるそうな口調に反して手際よく、几帳面に袋に品物を詰めていく。

 袋はゴミに使うので毎回買っているし、もはやこのあたりの確認はいちいちされなくなっていた。

 そんな宮川さんから……。


「今日はいつもの子じゃないんすね」

「え……?」


 突然すぎてびっくりした。

 とはいえこれもまぁ、いつもこんな調子と言えばそうなんだが……。


「ほらあの……結構可愛い感じの……いやでも服は一緒っすね。そういう趣味っすか?」


 世間話にしてはグイグイくるから身構えたが、でもまぁなんとなく嫌な気分にならないというか、付き合ってしまう雰囲気がある。


「二人ともそういう関係ってわけじゃないから。片方は親戚だしな」


 宮川さんが言ってるのは寧々のことだろう。

 確かにここに来るとき一緒に来るケースは多かった。いや、寧々がそれだけうちに来ていたということか……。


「ふーん。いいっすね。じゃあ今日が本命っすか?」

「いや……そういうわけじゃないんだけど……」

「ふーん」


 そんな会話をしているうちにあっという間にレジ打ちが終わる。

 会計を済ませているうちにリヨンが追い付いてきた。


「ごめんねー。いくらだった?」

「ああ、これっす」


 ちょうどよくレシートを差し出してくる宮川さんが言う。


「わ、ありがとうございますー。お家着いたらすぐ渡すね!」

「ああ。じゃあ、また」

「うぃー。またっすー」


 相変わらず気だるそうな宮川さんと別れ、リヨンとともにアパートに戻ったのだった。


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