第18話【理世視点】
「うぇ!? これほんとに……?」
アキからの突然の誘いに前田理世は困惑していた。
「これってそういう……いやでもアキくんだし……いやでも家デートってことでしょ!?」
一線を超える意志なのか、それともただ家で遊びたいという男友達的な要素なのか……。
おそらく後者ではある。
ただいずれにしても、困惑以上の喜びもある事実を、本人も自覚していた。
「と、とにかくすぐ返事しなくちゃ!」
ほぼ即答で行くと答えて日程まで詰める。
そのうえで改めて、家に誘われた意味を考えるが……。
「どっちもあり得る」
関係を進めるための誘いか、それともただ文面通りか……。
冷静に確率を考えるなら、おそらく二対八くらい……と理世は予想する。
「いやでも、万が一、二の方を引いたら……」
クローゼットを開いて服を眺めながら考える。
家に行くなら自然と無防備になる瞬間を考えないといけない。
あまり胸元が空いていても胸チラが発生するし、スカートじゃ油断したら下着が見える。
どの角度から撮られてもいいようにコーディネートされる機会が多いからこそこの辺りは普段も意識して構築できるようになっていた。
「おうちデートで全く隙がないのもどうかと思うし……いやでも、アキくんがその気かどうかは隙がない方がわかりやすいし……」
色々考え込んで、ああでもないこうでもないと服を引っ張り出してはベッドの上に並べていく。
「どうしよーいっそ身体目的ならエッチなので行くのにー」
ヤケになってそんなことを叫び始める。一人暮らしだ。多少叫んだところで誰も聞かれはしない。
だからこそ独り言が増えているという悩みがあるのだが、それは今はいいだろう。
「次こっちから仕掛けたら流石に引かれるじゃすまないし……うぅぅ……」
初手で責め過ぎた反動。
そもそも今となって思えば……。
「私、なんであんなこと出来たわけ……」
今の理世に同じことをしろと言っても、間違いなく無理だろう。
一度断られたから、という心理的なハードルを度外視してもそうだ。
またホテルに誘うまでの流れを考えみようとするが……。
「無理無理無理無理!」
誰もいないのに首をブンブン振って全力で否定する理世。
顔ももう、真っ赤になっていた。
「うー……」
おそらく人よりはませた幼少期を通っては来ている。
大人たちのやり取りを身近で感じてきたからこそ、自分ももう、いつまでも純潔を守っていられるとも、そもそも守る意味もないとも考えてきたわけだ。
別に悪い意味ではなく、年齢を考えた時に、人並みのお付き合いをしていけばそういうことに発展するのは仕方ないと思っていた。
そしてそれはどうせなら、自分で選びたくて……。
「ああ、だからアキくんだったのかな」
自分のことながらよくわからない部分がある。
仕事は頑張ってきたと思うし、今だってそうだ。
この感情も裏切りと言われればそれまでだろう。
でも……。
「罪悪感がないくらいの相手で……それでも初めて、自分が選んだ相手だったんだ……」
仕事の付き合いでもない。
向こうからやって来てくれるファンでもない。
全く別の世界で知り合って、自分が会うことを選んだ異性。
別にあの時点なら、身体だけの関係なら何の裏切りにもならないくらいの、そのくらいの相手だと思っていたのだ。
「今のこれはちょっと……まあでもまだ何かしてるわけじゃなくただの男友達だし……」
服装の変化のおかげか理世自身の中で明確に線引きがある。
アイドルである前田理世ではなく、ゲーム仲間であるリヨンとしての付き合い。
そのうえで、自身の忙しさを思えば、チャンスもそう多くないと思っていた。
だからこそ、そういう目的で会っていなかった彰人に対して多少なりとも執着心が芽生えているのだ。
もちろん、気の合うゲーム仲間と遊んでいたいという気持ちがメインではあるが。
「最近割と時間があるんだけど……いつ忙しくなるかはわからないし……」
覚えがいいおかげで曲もダンスもすぐに身に着ける理世は、準備期間の猶予が比較的長くなる傾向にある。
さらに元々学生アイドルということもありグループとしてもスケジュールはゆとりを持って管理されているのだ。
それでも人気を保てるだけの実力を持っているとも言えた。
「それはそれ、これはこれ……というか別に、今の段階で悩むことじゃないじゃん」
色々考え込んだ結果、シンプルな結論に行きつく。
「今の関係に合わせよ」
きっとゲームを一緒にやって、ちょっと何か食べて、その先があったらその時に考える。
「そもそも、選ぶほどの服がない!」
普段着……の定義は理世の場合曖昧だが、少なくともリヨンとしての服のレパートリーは多くない。
いや、正確に言えば結構な数なのだが、その差異がほとんどないことを理世がしっかり客観視しているわけだ。
「下着だけはちゃんと上下揃えて行こう……」
念のため、念のため……と唱えながら準備を進める理世。
結論は出た。
だが結局この後も理世は、どれを選んでも大差がないと自覚する服の微妙な差異を気にして、衣装選びは深夜にまで及んだのだった。
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