第15話

「全然見当たらないな……」


 リヨンの時とは違い、そこまで人が多くない駅だ。

 待ち合わせをしているであろう人間はちらほら見えるが、焼き魚定食氏らしい人影は見当たらない。

 と思っていたんだが……。


「お、こっちこっちー」

「え……?」


 近くにいた男性に声を掛けられてそちらを見る。

 明らかに目が合っていた。

 人違いかと思って周囲を見るが、対象はどうやら俺しかいない。


「えっと……」


 近づいてきたその男に対応すると……。


「あ、そうか。……ごほん。アキ殿! 某でござる! 焼き魚定食でござるよ!」

「は……?」


 声と顔が合わなすぎる。

 金髪のイケメンからござるの違和感。

 細身ながら筋肉質で身長も高いのだが、威圧感を感じさせない爽やかさがある。ちょっと外国人っぽい顔な気もするけど、確か話していた限り純日本人と言っていたはずだ。

 でもそのくらい、鼻が高かったり、色白だったり、雰囲気だったりに、俺とは違うオーラが溢れていた。


「驚くのも無理ないよな。でも本物だから」

「ええ……焼き魚定食氏のイメージが……というか普通に喋れたんだな」

「当たり前だろ!? 日常であれじゃやばいやつじゃねえか!」


 違和感がすごい。

 口調まで普通ならただのイケメンなのだ。


「ネット上でもあれは結構やばいと思うぞ」

「あれ……? でも目立っていいだろ! ゲームでくらい、なりたい自分でいたいじゃねえか」


 爽やかな顔のせいで謎の説得力があるが、言ってることは多分おかしい。

 そもそも……。


「あれ……なりたい自分なのか……?」

「ゲーマーでオタクってのはああいうのだという刷り込みがあってな。リアルだと付き合ってくれるやついなかったし、ああしないとこっちの世界では相手にしてもらえないと思ってたんだよ。気づいたら引っ込みがつかなくなってた」

「……」


 イケメンなりの苦労みたいなものだろうか。

 全く共感できないしなんならちょっと腹立たしさすらあるが、それもこれもこの顔の前にはとなってしまうくらい、整った顔をしていた。

 リヨンにも驚かされたが、同じレベルだ。

 二人が並んだら前回の俺のように周囲から変な注目を浴びることはないだろう。最も、注目は集めるんだろうけどな、別の意味で。


「おーい。ぼーっとしてないでどっか行こうぜ。流石に男二人でカフェもなってのも同意だし、今日はちょっと身体動かそうぜ」

「焼き魚定食氏のイメージと違いすぎてもはやどこにでも連れて行ってくれって気分だ……」

「よーし。ちょっと駅から歩くけどボウリング行くぞ。あと、さすがにリアルで焼き魚定食は長すぎるだろ。大吾だ」

「大吾……」


 まあそうか。焼き魚定食氏と呼ぶわけにもいかないし呼びやすい名前を教えてもらえたのはよかった。


「アキは本名なのか?」

「いや、本名は彰人。どっちでもいいぞ」

「まあそれくらいならアキでいいだろ。俺も違和感が出るし、このくらいの差だととっさにゲームやってても本名が出ちまう気がする」

「あー……」


 それは確かに。

 まあそういうわけで、ひとまず歩いてボウリングを目指すことになる。


「この駅、地元なんだっけ?」

「ああ。今はもう都心に引っ越しちゃったけど、実家はこっちなんだよな。何でもあって便利な駅だろ?」

「それはよく知ってる」


 大都会の駅ではないが、駅周辺にないものを挙げた方が早い程度には何でもあるのだ。むしろ土地がある分、広い商業施設やモールなんかもある分都内より買い物は便利なときすらある。

 遊ぶにも買い物するにもちょこちょこ使う駅だった。


「にしても、いてもたってもいられなくなって来ちゃったけど、よく会おうと思ったなぁ、俺に」


 焼き魚定食改め大吾が言う。


「やっぱ自覚はあるのか」

「そりゃまあ、変なキャラだと思ってやってはいるからな」

「別に口調がなんであれ中身がまともそうなのはわかってたから……かなぁ」

「お、そうか……なんか照れるな」


 顔がいいせいでどんな表情も様になるのがずるい。というか当初のイメージと違いすぎてもうどうしたらいいかわからないくらいだ。

 なんだかんだそんなやり取りをしながら、駅前の通りを外れて少し先に進み、目的のボウリングにやってきた。


「とりあえず三ゲームパックでいいか」

「ああ」


 慣れた様子で大吾が用紙に記入して受付を済ませに行く。


「よく来るのか?」

「いや、たまーにだよ。アキは先に靴借りてていいから」


 絶対に通い慣れてる様子だ……。

 ボウリングはまぁ罰ゲームでも付けなきゃ基本、自分との闘いになりがちだしそれはそれでいいんだけど。

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