第14話

「そういえば例のコラボカフェ、どうだったでござるか」


 ゲーム内のボイチャ機能を通じて、いかにもオタクらしい口調の男の声が俺の耳に入ってくる。

 リヨンと同じくゲームを介して知り合った貴重な友人、焼き魚定食氏だ。

 声しかわからないので何とも言えないが、気のいいぽっちゃり体型の男を想像させる、そんな感じの声だった。とにかく陽気で話しやすさはある男友達だ。


「コラボカフェは普通に楽しんできたよ。ただ一回で全部は無理だった」

「なんと……! 一人で行ったのですか!」

「いや、さすがに一人じゃ行きづらくてリヨンに頼んだんだけ――」

「リヨン氏と!? まさかアキ殿、女子と行ったでござるか!?」

「そうだけど……」


 カフェのあとが衝撃過ぎてこの程度だと驚かれる認識すらなかった。

 いやまぁ、ちょっと反応がオーバーなのは否めないんだけど。


「むむ……これは由々しき事態ですな。それで、リヨン氏とその後は……?! 女子とデートに行ったとあらばその後責任を取るのは必然! もう婚姻は済ませたでござるか?!」

「そんなわけないだろ!」


 暴走する焼き魚定食に突っ込む。

 まあこれも平常運転といえば言えばそうなんだけど……。


「むぅ……ではデートはどうだったでござるか」

「いや……一応いい感じだった……と思う……」


 まさかその先にまで進みかけたことは言えないが、でもまぁいい感じと言える程度には雰囲気は良かった……と思う。

 二回目もこなしているし、次もどこかでと話しているところだしな。


「ふむふむ。アキ殿、よく聞いて下され」

「なんだよ」

「良いですかなアキ殿。人生にはモテ期があると言います。この機会を不意にしては次がいつになるかわかりませんぞ。リヨン氏は某も知っている良い子のはず! このままGOでござるよ!」


 ガンガン来るなぁ。


「それは相手次第だろうし、まあまずは友達としてでいいというか……」

「本当に?」

「え?」

「本当にそう思ってるでござるか! 考えてみるでござる! もしリヨン氏が他の男に落とされたらと……! ああダメでござる。某、自分ごとでなくともNTRは地雷だったでござる!」

「自分が言い出したんだろ!?」


 相変わらず忙しいやつだった。

 俺の思考が追いつく前にどんどん勝手に進んでいく。


「それにしてもまさかあのアキ殿が女子と良縁で結ばれそうとは」

「色々ツッコみたいけど……そもそも俺、そんな女っ気なさそうか?」

「はい。それはもう」


 即答だった。


「なんでだ……」

「んー……溢れ出る童貞オーラがあるでござる。良い意味で」

「なんでもいい意味ってつければ解決すると思うなよ」


 画面越しに焼き魚定食のアイコンを睨みつける。


「いやいや! 本当に良い意味で、なんというか、女子に迫られようと貫き通しそうな鋼の意志をひしひしと感じるでござる」


 鋭い……。

 変に反応しないでおこう。


「ああ、もどかしい! アキ殿! 某ともオフで会いましょうぞ!」

「え……」

「リヨン氏とお会いしたのであればアキ殿はオフのつながりも抵抗ないご様子! 是非に!」

「そっちも抵抗ないのか」

「普段は会わないでござるが、アキ殿なら良いでござる!」

「なんでだ……まあいいんだけど」

「では日にちを決めましょうぞ!」


 勢いに押されるままに会う日を決めていくことになる。

 もちろん嫌ではないし、むしろどんな相手か、会ってみたい気持ちが強い。

 そのまま直近の予定を押さえて、俺は人生二度目のオフ会ということになったのだった。


「にしても……焼き魚定食……リアルでなんて呼べばいいんだろうな……」

 そんなとりとめもないことを考えながら、約束の日を待つことになったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る