第10話

「可愛いー!」


 入った途端リヨンが猫に夢中になってくれたおかげで一気にきまずい雰囲気は払拭された……んだが……。


「あれ?」


 猫と触れ合うためのカフェ……なのだが、リヨンが近づいていくと猫が逃げる。


「おーい。……あれー?」


 そんなに広くない空間だ。そこに十匹くらいの猫が出勤してくれているんだが……。


「あ、この子なら……ってちょっと待って!?」


 一向に相手にされる気配がない。

 猫じゃらしも持って、なんなら受付で追加料金を払っておやつまでもらったというのに、だ。


「アキくん! この子たち人間嫌いなのか……な? あれ? アキくんの周りにいっぱい!?」

「あはは……」


 そう。

 リヨンが近づいて逃げ出した猫たちは、ぐるっと施設を一周して俺の周りで落ち着いていた。

 俺が座っているソファの手すりやら上やら足元に集まってくつろいでいる。

 手を伸ばしても……。


「おお、可愛い」

「ずるい!」


 逃げないどころか少しすり寄ってきたのでそのまま撫でてやる。


「おお……」


 近くにいた猫もねだるように近づいてきて、身体にすり寄って来ていた。


「待って。なんでアキくんだけ!?」


 ショックを受けて固まるリヨンだが、近づいたら猫が逃げると思っているんだろう。羨ましそうにしながらもその場から動けず固まっていた。

 そうこうしているうちに猫のほうは俺の膝の上で腹を見せて、撫でろとねだってくるようになっていた。


「どうして?! アキくんのなでなでがそんなにいいってこと?!」

「たまたま機嫌がいいだけだと思うけど……ほら」


 俺が呼びかけても一瞬ためらったリヨンだが、ついに我慢しきれず近づいてくる。

 五匹ほどいた猫のうち半分はすぐ立ち上がって離れていったが、二匹は近くに残ってくれた。

 俺の膝でくつろぐ猫も、若干警戒しながらもリヨンが手を伸ばしても拒否しない程度にはなっている。


「触れるか?」

「うん……わぁー! 可愛い! この子におやつ全部あげる!」


 わかりやすくテンションが上がっていた。

 俺の膝にいる猫を可愛がっているわけだからかなりリヨンも近くにくるというか……なんなら猫に夢中すぎて俺の股間にそのまま顔を近づけてきているくらいだ。

 本人が意識してるわけじゃないだろうけど……なんか髪の毛、いい匂いがする……。

 ただ本人は本当に夢中のようで……。


「わー! この子! 撫でまわしても全然怒らなくなったー!」


 俺の膝の猫を撫でまわすリヨン。

 ちょこちょこ俺にも手があたるし、当たる場所があまりよろしくないんだが……藪蛇になるから耐えるしかない。

 隣に残った猫を撫でて精神を落ち着ける。


「よかったな。触れる子がいて」

「うん! おやつ無駄になっちゃうところだったからね―」


 カップに入ったおやつをスプーンに乗せて猫にあげるリヨン。

 猫をめでる美少女、という絵になる構図だった。


「それにしても」

「ん?」


 おやつがなくなって、ようやく顔を上げたリヨンがこちらを見る。

 膝にいた猫が逃げていくが、おやつがなくなったからかもうリヨンも笑顔で見送っていた。

 そして……。


「私、結構際どい場所触ってた?」

「……」


 どうしてわざわざ言ってくるんだ……。


「うわぁああ。違うんだよアキくん?! 私別にそういう女ってわけじゃなくて……その……本当はもっとこう……」

「わかった! 落ち着けって! 猫も人も驚いてるから」


 テンパったせいで周りの注目を集めるリヨン。

 当然近くにいた猫は全員どっかに消えていた。


「うぅ……でもアキくん、誤解しないでね?」

「猫に夢中だったなら仕方ないから……次のエリア行こう」

「うん」


 若干居たたまれなくなったのと、そもそも猫のおやつもなくなっていたのでそそくさと次のエリアに向かったのだった。

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