第9話
「アキくん……?」
「ああごめん……その……なんと説明すればいいかわからないんだけど……色々経験がありそうだから頼った結果よさそうなところを教えてもらった……という感じ……だと思う」
「なんで自分のことなのに自信なさげなの」
笑いながらリヨンが言う。
自分でもおかしな話だとは思うんだがニュアンスは伝わっただろう。
「でも親戚かー。私は歳の近い相手いなかったからいいなあ……。どんな人なの?」
「どんな……」
説明が難しい問題が続く。
端的に寧々の紹介文を頭に思い浮かべても、良い方向に伝わる気がしないのだ。
月に一、二回、男に振られる度にうちに来る妹のような存在……ダメすぎる。どこをとってもダメだろう。
妹という特にネガティブでない単語ですらどこかいかがわしく聞こえるほどだ。
「なんか複雑な感じ……?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……ああそうだ! リヨンと服の系統は同じだから好みも同じかもしれない」
「え?」
「ん?」
「あ! 女の子だったのか!」
そこからか。
確かに猫カフェはともかくイグアナがいるお店という情報しかないならどちらかわからないのも無理はないか。
「ふーん。アキくん、そんな仲いい女の子がいるんだ」
「まあ……でも妹みたいな感じだから」
「……それ、身体目的の男の常套句だって知ってる?」
しまった。
そういえば寧々もそんなことを言っていたんだった。
「ふふ。まぁアキくんはそういうタイプじゃないのわかるんだけど……でもほんとに仲いいんだね、わざわざ相談するくらいってことは」
幸いリヨンはそれ以上気にする様子もなく軽い調子で話を進めてくれた。
乗っからせてもらおう。
「たまにうちに来るんだけど、昨日来てたから」
「なるほどねー。というか私と同じ系統の服……?」
リヨンが視線を下げて自分の恰好を確認して……。
「これ?」
「もうちょっとピンクが多い」
「……だいたいわかった。待って。ほんとにアキくん、妹って言い切れる距離感なんだよね?」
怪訝そうな顔をされる。
言わんとすることはわかる。実際に前回、そういうこと《・・・・・・》になりかけたのだから説得力もある。
ただ……。
「俺は対象になってないらしいから。もうちょっとイケメンだったらとか言ってた」
「えー、アキくん優しいオーラがあっていいのに!」
それは褒めてるんだろうか……?
「まあそういうわけだから、特に俺は何もないんだけど……」
「好みはそれぞれだもんね。あと親戚だとやりにくいかー」
その要素は大いにあるだろう。
気まずくなったあとのリスクが大きすぎる……。
「でも仲はいいわけか。あ、ちょうど着いた」
「ほんとだ」
駅からの道のりはやっぱりあっという間だ。
調べたところ混むこともあるようだったので一応予約もしてある。時間もちょうどいいだろう。
「入ろう」
「ワクワクするねー」
ビルのエレベーターに入って上を目指す。
雑居ビルの狭いエレベーターだが、二人なら狭さは感じない……ものの、少し距離が近くなる感じもあって緊張する。
「……アキくん、ここまで手つないでたのに今さらなんでちょっと距離とるの?」
「これは……」
「この反応だとほんとに親戚の子と何もないんだろうなぁって思っちゃうね」
リヨンが笑う。
「いや、リヨンが相手だからだと思うけど……」
俺の言葉にリヨンが一瞬目を丸くして、返す言葉を探していたが……。
「あ……」
ちょうどエレベーターが目的の階に到着する。
「行こっか……」
「ああ……」
ちょっとぎこちない感じになりながら、受付に向かう。
受付では注意事項と説明を聞いて、まずは猫カフェエリアに入ることになったのだった。
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