第8話

「え? 全然いいよ! 楽しそうだし」


 ニコッと笑いながらこちらを振り返るリヨン。

 もうすでに俺の手を引いて歩き出そうとしている……。

 というか、さらっと手を握られていた。


「ならよかった」


 相手があまりにさらっと、あっさりそんなことをするから、こちらが動揺するわけにはいかないという謎のプレッシャーがある。


「にしてもアキくん、こういうの好きなんだねー」

「ああ」

「ふふ。いいと思う。ペットとかいるの?」

「いや、一人暮らしだし飼うにはちょっと」

「え! 一人暮らしなんだ!? 一緒だ」


 駅からの道をどんどん歩きながら進んでいく。

 栄えた駅ではあるが、主要な遊ぶエリアがちょっと歩いた先にあるという構造上、十分くらいはこういう時間が生まれる。

 まあ話しながらならあっという間だということも前回学んだから、今回もそうなると思うんだけど。


「一緒ってことは、リヨンも……?」

「うん。今度遊びに来る?」

「え……」


 思いがけない誘いにドキッとさせられる。

 こちらの反応のせいか、それとも勢いで言ったせいか、またリヨンが慌ててこんなことを言い出す。


「あ、その……別に変な意味じゃなく! ほんとに! ほら、うちなら一緒にゲームも出来る……って前そう言って行ったんだった……」


 一人でドツボにハマっていくリヨン。

 いや、リヨンがこうしてくれるおかげで俺が何とか平常心でいられるんだろうな……。自分より焦っている相手がいると冷静になれるというか……。


「ちょっとアキくん! ニヤニヤしないで! 私だけテンパって恥ずいでしょ!」


 照れ隠しに軽く肩を叩かれる。

 顔を背けようとしながらも、つないだ手は離さないせいで逃げられない。

 可愛らしい感じになっていた。


「もう……。ところでアキくんって、こういうお店よく行くの?」


 すぐに気を取り直した様子でこちらに問いかけてくるリヨン。

 俺の方が背が高いおかげで、この距離だといちいち上目遣いなのがちょっとドキドキさせられる。

 いや今はちゃんと会話に集中しよう。


「ん? いや、実はお店も仲いい親戚に教えてもらった」

「へー! その人はこういうの好きなんだ!」

「そういうわけじゃないと思うというか……」


 どう説明するべきか悩ましい。

 寧々は別にこういうところが好きだから教えてきたわけじゃなく、デートコースのおすすめとして言ってきたんだろう。

 しかも本人の好みではなく、俺とその状況に合わせて……と考えると思ったよりも色々計算されていてすごいな。今度改めてお礼しないと……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る