第6話
「あーあー。今のはちょっと冗談っぽく触っとけば良かったのに」
ニヤニヤとこちらを見てくる寧々。
これで身体目的だなんだと文句を言いに来るのはちょっと、男の方がかわいそうになるくらいだ。
本当に揉んでおけば……いやいや冷静になれ。ちょっと惜しかったとか思ったらその時点で寧々の思うつぼだ。
「ま、お兄が変に女慣れしちゃうのも嫌だしこれでいっか」
「そう思っといてくれ……」
本当に勘弁してほしい。
手を出されないとわかっているからこそやっているんだろうけど……。
「じゃ、デートの報告楽しみにしてるから。もう明日土曜日だし、行っちゃえばいいじゃん!」
「そんなすぐに無理だろ」
「聞いてみた?」
「それは……」
まずどこに行くかの提案からなのにいきなりそれはと思っていたんだが……。
「お兄がメッセージ送るまで、寧々帰らないから」
机に座り、両手で頬杖をついて、くつろぐ姿勢を前面に見せてくる寧々。
そろそろ帰らせないと暗くなる……いやもうそういう歳でもないんだろうけど……。
「わかったよ」
いずれにしてもやらないといけないことには変わりがないわけだしな……。
寧々から送られてきたURLをそのままリヨンに送る。
『もしよかったらこことかどうかな
明日明後日は土日だし、俺はどっちでも行ける
突然だし無理なら別日でいいから』
文章を作って、何度か確認して、改めて……。
「送ったぞ」
「おお! 返事は!?」
「そんな早く来るわけ……」
――ピコン
「来た……」
「ふふ。これはガチで脈ありじゃん、お兄」
「いや……」
寧々の言葉はいったん忘れて、内容を確認する。
『行く!明日、駅前で待ち合わせでいいかな?』
テンポが速い……。
「その顔、オッケーだったんだ?」
「まあ……」
「いいじゃん! まあとにかく楽しんできたら大丈夫だから! お兄は変にもてなそうとかそういうこと考えないほうがいいよ! 自然体が落ち着いていい……ってあれ? それじゃ落とせないか、寧々みたいになっちゃうし」
この際別にそれでもいいというか、元々の関係値に戻れるならそれでいいんだが……。
「どうしたらいいと思う?」
期待していないと言えば嘘になる。
一応確認しておくと……。
「んー。おっぱい揉んでいいって言われたら揉む、くらいかな?」
「……」
役に立つ助言は得られなかった。
いやまぁ十分寧々には助けられたわけだが……。
「そんなシチュエーションになるわけな……いだろ」
危ない。
途中で前回のことを思い出して言葉が途切れそうになったが何とか言い切った。
流石にあんなことになったとまでは寧々に言えないからな。
「んー? まあお兄が本気なら、ちょっとくらい攻めてもいいと思うよって」
「はいはい」
一応誤魔化せたようだ。
「ところでお兄」
「ん?」
「明日着ていく服、ちゃんとあるの? 寧々が選んであげよっか?」
「いや、遠慮しとく」
「えー……一回寧々好みになってよー」
「寧々の好みに合わせても仕方ないだろ?!」
そもそも選ぶほどのレパートリーがない。
寧々のタイプを見てきた限り、服は買ってこないと好みにならないだろう。
「んー、まあいいや。デート頑張ってね、お兄」
「ありがと」
デート、という言葉はあまり意識しないようにしたいが、否定することは難しいと自分でももう思う。
腹を括ろう。
「あーあー、これでお兄も彼女持ちになっちゃうのかなぁ」
「いや……少なくとも明日いきなりってことはないと思うけど……」
流石に展開が早すぎる気がする……という思いと、そういう手順的なことを考え出すと前回のことがあるせいでわけがわからなくなるという気持ちが入り乱れる。
「ま、どうあれ報告してね! 寧々も明日はデートだから」
「は? さっき別れたって……」
「別の相手に決まってんじゃーん。寧々は一度捨てた相手とはもう連絡取らないし」
なんですでに別の相手がいるのかとか、色々ツッコミたいことはあるんだが……。
「ならお互い明日の準備もあるし、そろそろ帰れ」
「はーい。でもお兄、寧々のこといつまでも子ども扱いしすぎだと思うんだよなー。今どき暗くなる前に帰れなんて言われることないのに」
文句は言いながらも口調は柔らかで笑っているあたり悪いとは思っていないんだろう。
「妹みたいな相手の扱いはいつまでもこうな気がする」
この距離感をキープしておきたいという気持ちがあるとも言う。
そしてそれは……。
「ふふっ。そだねー。じゃ、また明日連絡してね!」
寧々の方もきっと同じなのだろうと、そう思える反応だった。
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