第5話

「いやでもそもそもゲーム仲間でそうなってたら相手が出会い目的みたいだよね」

「そうではなかったと思うんだけど……」

「んー。で、あっちからも連絡ないの?」

「あー……それがほんとにさっき――」


 俺が携帯を指してそう言いかけた途端……。


「すぐ返す! 待たせちゃダメでしょ! ほら! 私ちょっと向こう向いてるから!」

「え……」

「ほら早く! 終わったら言って!」


 変なとこは律儀なんだよなぁ。

 先延ばしに出来たと思ったのに逆にタイムリミットが早まったらしい。

 まあいずれは必要になったか……。


「まだ?!」

「まだ開いてすらいない!」


 寧々が痺れを切らす前に何とかしよう。

 そもそも肝心の内容は……。


『久しぶり……かな?

 アキくんさえよければまた一緒にゲームしたり遊んだりしたいから、

 連絡待ってます』


「おお……」

「どうしたの? お兄」


 しっかり俺に背を向けたまま、背中越しに寧々が声をかけてくる。


「いや、やっと中身を見た」

「遅い! 一秒でも早く返してあげて!」


 寧々に言われるまでもなくその必要性は感じていた。

 文面しか見えずとも、どんな気持ちで送ってきたか察しがつく。

 すぐに文面を考える。いや……考えるまでもないな。


『俺もまた会いたい』


 まず真っ先にこれを送る。

 次の文面を考えてる間にすぐ既読マークがついた。


「ずっと見てたのか……」

「お、ちゃんと返したの?」

「ああ。ありがとな」

「いえいえー。で、で、どんな感じ!?」

「えっと……」


 寧々と話しながらも携帯を確認すると、すぐ返事が来ていた。


『良かったー! 次はどこ行こっか!』


「次の予定を決めてるとこ」

「え、進展はや。やばいじゃん。デートでしょ!?」

「まあ……そう言われるとそうなるのか……?」


 冷静に考えると前回もそうだったのかと思うと何か顔が熱く……いやそもそもそれ以上のことをしたんだった……。

 そんなことを考えていると寧々は何か考える素振りを見せて……。


「ふぅん。そんないい相手なんだ?」

「何でそう思った……いや言わないでいい」


 何を言われるか想像できたので止めたんだが……。


「お兄の顔見たらわかる」


 言われてしまった。

 人に言われると余計意識してしまう。


「で、どこ行くの? お兄のセンスが問われるよ」

「え……」

「その前はどこ行ったの?」

「なんかゲームのコラボカフェがあるから行こうって向こうに決めてもらって――」

「じゃあ次はお兄がエスコートしなきゃねー」


 ニヤニヤしながら寧々が言う。

 その勢いのまま俺に背中からのしかかるようにこちらに来た。

 ちょっと重い……というと絶対怒られるから言わないし、柔らかいものが当たっている官職についても一旦考えないことにする。

 寧々が相手ならこのくらいの理性は働く。 


「エスコートなぁ……」

「カフェ巡りとかしておいでよ」

「ハードルが……」


 そんなデートらしいデート……と思うし、そもそもカフェについての知識がゼロなんだ。

 巡れるほど知識も余裕もない。

 俺の顔を肩越しに確認して、寧々がちょっと考えてこんな提案をしてくれる。


「んー……確かにお兄の場合、勝手にイベントが発生した方がいいか。猫カフェとかは?」

「あー……」

「ほら、こことかイグアナとも触れ合えるって!」

「待て待て。猫どこ行ったんだ!?」


 ちょっと気になってしまうのも悔しい。

 寧々が携帯の画面をこちらに見せてくる。


「へぇー。猫のエリアとちょっと変わった動物のエリアでわかれてるんだー。見て見て! ミーアキャットだって! 可愛いー!」

「可愛いけど……イグアナとミーアキャットって一緒にいられるんだな……」


 写真ではライトの下で背伸びをするミーアキャットと、のんびりくつろぐ大きなイグアナが並んでいた。

 そのほかにも巨大なリクガメやら、ウサギやモルモット、ハリネズミなんかがいるらしい。


「お兄、こういうの好きでしょ」


 ニヤッとこちらを見て寧々が言う。

 間違いなく好きだ。もうすでに興味があるし、何なら一人でもちょっと行ってみたい気持ちすらある。


「俺は好きだけど、これ……女子的にどうなんだ?」


 イグアナにテンションが上がるのは少数派では、と思ったが……。


「寧々はありー。というか、気になってる相手ならこういう自分が好きなとこに連れていかれて盛り上がってるの見たら、可愛いって思っちゃう」

「可愛い……いいのかその評価で……」

「あ、お兄、可愛いを舐めてるでしょ」


 寧々が背中から離れ、わざわざ正面に正座をして喋り始める。


「いいですか、お兄。女子の可愛いは、最上級の誉め言葉だから」

「なんか安売りされてるイメージがある」

「それは女の子同士でしょ! あれは挨拶だから! いただきますとかごちそうさまと一緒!」


 それはそれでどうなんだ……。


「今はそうじゃなくて! 女子が男子に言う可愛いの話! これはもう言わせたら勝ちだから! 寧々も可愛いと思った相手は沼るから!」

「沼る……」

「かっこいいだとね、かっこよくないとこ見た瞬間冷めるの。でも可愛いなら、何したって可愛いになっちゃうんだよ! あれはズルだから!」


 寧々が熱弁する。

 なるほど……。言わんとすることはわかるが、なんとなく感覚がついていかないというか……。


「まあとにかくお兄は今回ここ行けばいいよ。絶対うまく行くから」

「そうなのか……?」

「そうそう! 寧々が保証する! うまく行かなかったら慰めてあげるから! ちょっとくらいおっぱい揉んでも怒らないよ。なんなら景気づけに揉んでおく?」

「揉むか!」

「あはは」


 胸を持ち上げながらそんなことを言い出す寧々の頭を軽くこづいておいた。

 なまじ胸があるだけよくない。非常に……。

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