第1話

「やってしまった……」

 あれから一週間。

 リヨンから一切連絡はなかった。

 そりゃそうだろう。あんな直前まで行ってひよった男にもう用なんてないはずだ。

「ぐぬぬ……」

 後悔はある。断言できる。

 リヨンは気が合うゲーム仲間で、顔が可愛くて、スタイルが良くて……いや待て違う。

 違うんだけど……。

「ひよったなぁ……」

 別に女性経験がないからとか、そういう理由じゃないんだ。

 いやまぁ俺に女性経験はないんだけど、そうじゃない。

「明らかに……地雷系だったよなぁ……」

 ホテルにたどり着く前から俺はもうビビってたところがある。

 会った瞬間その顔と服を見てパッと浮かんだ単語がそれだった。


 ――地雷系


 踏み抜いてはいけない女性を指して言うスラングだ。

 愛され願望が強くすぐに精神を病んで周囲に影響を及ぼすメンヘラ。束縛が激しく愛が重いヤンデレなど……。

概ねこの辺りの要素を詰め込んだ言葉。

 手を出したらまずいタイプの女の人だと瞬時に思ったし、実際にその手前までいったらビビるのも無理はない……とは思う。

いやでも……。

「別にリヨンは、悪い子じゃないのになぁ……」

 見た目だけでビビったことが今となっては恥ずかしいのだ。

「地雷系って言ってもそもそも、リヨンはそんな雰囲気じゃないというか……中身のことは知ってるつもりだったんだけどな……」

 見た目でジャッジ出来るほどに確立されたファッションではある。

 地雷系とは本来、内面は魅力的だが手を出すと後悔する相手を指す単語だった。

 一方ですでに地雷系女子という言葉が存在するくらいには、容姿だけでその特徴に当てはまるかどうかのジャッジが出来る言葉にもなっている。

 泣きはらしたような涙袋に、色素の薄い雰囲気感を演出するメイク。

 黒を基調としてフリルやリボンのあしらわれた可愛らしいワンピース。

 リヨンの容姿は総合して、踏み抜いてはいけない相手であるということを示すには十分なものだった。

 考えれば考えるほどもったいないことを――違う。

その見た目に惑わされたことに対して、申し訳ないことをした気になってくるのだ。

 だってリヨンは、見た目ではなく中身から知り合ったんだから。

 俺はリヨンに一度も、踏み抜いてはいけないなんて感情を抱いたことがなかったのだから。

 ただまぁ……。

「本名すら知らないまま、っていうのもなぁ……」

 相手からすれば何ともなかったかもしれないが、俺は初めてで……いやもうこんなことを考えるのすら情けないんだけど……。

「でも……リヨンが頭から離れないんだよな……」

 考えれば考えるほどドツボにハマっていく。

 罪悪感と、後悔と、そして何より……。

「リヨンと連絡が取れていないことが、結構キてる……」

 気の合う友達を失った喪失感が大きい。

 自分から連絡を取ればという思いと、もはやそれすら申し訳ないという葛藤。

 そんな思考をずっとグルグルさせ続けて何もできない、悶々とした日々を過ごしたのだった。


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