京都
マグワイアが仕事部屋の棚を覗いていた。ショーンが案内していた。
「へぇー。いっぱい色んな漫画がある。」
身を乗り出してマグワイアが並んだ本を見ていた。
「僕が今までに描いた漫画です。」傍に立ってショーンが説明した。
「へぇー。」感心したように打って見た。棚板に数冊並んでいた。「コルマス・ファンタジア」と題が打たれていた。
「まだそんなに描いてないです。」自分の足を浮かしてショーンが言った。
「いや、大したもんじゃないですか。私だったら一ページも描けませんからね。」
そして別の段の方を見た。
「これは?」
「そっちは日本の漫画です。 」ショーンが目線を上げて言った。
自分のとは別に並んで置いてあった。
「いつでも取り出せるように置いてあるんです。」笑って言った。
「ほぉほぉ。いっぱいありますねー 」マグワイアが頷いて言った。 「私漫画って一冊も読んだこと無いんですけど、」苦笑するように弁明して笑った。
日本語で題名が書いてあるものもあった。
「んっ?」「これはー」目に星があって後ろに苺やりぼんがとんだピンクと黄色の表紙の本を、マグワイアが不思議そうに取り出した。ショーンが見てはにかんで笑って下を見、「それは少女漫画です。」「少女漫画?」マグワイアが屈んだ姿勢を振り向けて聞いた。「女の子が読むものなんですけど、僕は少年漫画も少女漫画も大好きで、」ショーンが背伸びしては下ろし、言った。「よく読むんです。」
「へぇー。 あれ、んっ?後ろに花が咲いてますよ。」顔を近付けて聞いた。
「それは実際に咲いている訳ではなくて、ヒロインの心の心理描写なんです。」ショーンが背を戻して言った。
「あぁー。ああ、」マグワイアが感心したように相槌を取った。「なるほど。そうなんですか。」
ショーンが追って答えた。
「日本ではよく使われるんです。」
書斎から戻ってソファで話をしていた。
「でも漫画やなんか描いてると気にされるでしょう?先を教えてくれとか、自分の事を描いてくれとか、」
「ご友人とかここに遊びに来た時に、……
「友人はいないんです。」
ショーンが言った。マグワイアは黙ってそれ以上聞かなかった。
話を変えるようにマグワイアが言った。
「例の編集者さんの事件、あなたは警察に聴取とかされなかったんですか?」
「されましたよ。」
ショーンが上を向いて言った。
「僕はその時間、この家で他のスタッフの人と新しい連載の打ち合わせをしていたので、説明したら直ぐに帰してもらいましたけど。」
「ふーん、」頷きながらマグワイアが話の続きをした。ソファから身を起こして聞いた。
「日本語の漫画が置いてありましたけど日本語お分かりになるんですか?」
ショーンが首を振って、
「いいえ、ただイギリスでは翻訳されてないものを取り寄せてるだけです。中身だけでも見たくて——」
「ふんふん。」マグワイアが分かるというように縦に首を振って頷いた。
「私も京都には行ったことありましてね、楽しかったですよー。行きました?京都。」
ショーンが首を振った。
「僕はまだ日本には行ったことないんです。」
「あーそうですか。そうだったんですか。是非行かれた方がいいですよ、清水寺。醍醐寺。竹の小径———… ショーンが苦笑いして言った。「僕日本の漫画は大好きなんですけど、日本の古い文化はあんまり知らないんです。」「そうなんですか?」マグワイアが回顧して言った。「ご飯は美味しいし—道もキレイだったし、人は親切だし、仕事で行ったんですがね、」
「何の仕事でいらっしゃったんですか?」
「刑事です。」
それを聞くとショーンの顔が一瞬暗く曇った。
マグワイアは説明した。
「何も事件があった訳じゃないんです。日本との合同話談会で私も行きましてね。意見交換のようなもので——、それで京都を————………どうされました?」
ショーンが驚いてマグワイアを見たまま閉ざしていた口を開いた。
「だって、刑事してるって言わなかったから、」
「そうですか?ぁあ、あなたから聞かれなかったし、ほら、自分からいって——— 刑事だって言って泊めてくれなかったら嫌だなって……」マグワイアがおどけて笑った。ショーンが自分の指を指でさわっていた。
「何回かここに来ているんですよ。例の編集者の件で、 」
マグワイアが人差し指を振って言った。
「この家の前も通り過ぎました。」
「この付近も調べました。」
ショーンがマグワイアを見た。
「あなたの事も見かけました。」
閉じていた指を開いてマグワイアが言った。
「実は私、その事件の担当なんです。」
ショーンにマグワイアは自分の胸を触って言った。
「雨は金曜まで止みません。まだ3日以上は泊めて頂きます。」
マグワイアは立ち上がって2階の客室へ歩いて行った。
立ち退いていくマグワイアにショーンはソファに座ったまま無言でいた。
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