噂話
マグワイアは仕事部屋にいた。
書物机で執筆するショーンの横に立って漫画を描く様子を見ていた。
「漫画を描いてるとこ見るの初めてです。」「へぇーそうやってやるんですか。」
ショーンは下書きにペンを入れていた。
描いているのを見てマグワイアが言った。
「単純な質問なんですけどこの顔とか服とか服のしわだったりとかこれどうやって描くんですか?」
ショーンは描きながら言った。
「僕も最初は上手く出来なかったんですけど、好きな漫画の好きなシーンを何度も何度も真似して描いてる内に、描けるようになったんです。」笑ってマグワイアを見上げて話した。
見たマグワイアが頷いたあと、「これ全部一人で描くんですか?」マグワイアが漫画全体を差して聞いた。「私のイメージだと作家さんってたくさんのアシスタントさんが付いて何人もの人で作ってると思ってました。」
ショーンは何となく口に指を遣って答えた。
「大物の作家ならそういうのも付くと思うんですけど、僕はまだ駆け出しだし、それに、自分の物語は全部自分で描いていたいんです。」
「成る程ね、」
マグワイアが頷いて、紙に向いて「今はどんなシーンを描いてるんですか?」用紙を覗き込んだ。
「武族に拐われた姫を救出に行ってるんです。」「救、っ………………」マグワイアが言葉を失った。反応を見てショーンが顔をクシャッとして下を向いた。
「これは?」机の上に散らばっている丸い玉がいくつも重なった用紙を手に持ってマグワイアが言った。聞かれたものを見てショーンが答えた。「スクリーントーンです。」「スクリーントーン?」ショーンはそっちに顎を引いて説明した。「欧米の漫画ではあまり使われないんですけど、僕は好きで、よく使ってます。」マグワイアが戸惑っていると、ショーンが頷いて、貸して、というように手を出し、用紙を受け取って自分の原稿用紙の四角の中にその薄い用紙を貼って、主人公の周りだけをカッターで切り取り、その主人公の部分を剥がすと、主人公の周りがキラキラと輝くようになった。「うわぁーキレイになった。」「へぇーこうやって使うんですか。なるほどねー。」ショーンが笑って下を見た。男がショーンを見つめていた。
頭にオーブを付けた勇者が気配を察していた。
「誰だっ!!」
後ろをバッ!!と振り向いた。「お前はっ!」
男が歩いて来た。長髪の髪を垂らして長い肩の甲冑をつけた戦士がニヤけて言った。
「お前の心は見え透いている。どんな計謀をたてても無駄だ。」
窓の外で雨はますます強くなっていた。
翌日電話でマグワイアが喋っていた。
「えぇ。えぇ。何?ー?」
「ったく!」電話越しに大声を出してぶつぶつ呟いて電話を切り、ショーンのところへ戻って来た。
ショーンの側へ来て、それから後ろから言った。
「えー。あのー。」「復旧までまだかかるようで、」言い辛そうに言い出した。「————トンネル通れないそうです。 そのっ…… 言い出しにくいんですがあのっ、…それで、もう一晩、もう暫く泊めて頂く事は出来ませんか?」
ソファに座って後ろに話を聞いていたショーンは言った。「いいですよ。」
マグワイアは素早くお辞儀して、「ありがとうございます。」と言った。「本当にご迷惑おかけします。私本当に助かります。」何度も謝って礼を言った。
する事もないのでソファに座って話していた。
「ずっとここで漫画描いてらっしゃる?」
「えぇ。」
ショーンは前に手を組んで頷いた。
マグワイアが背もたれに身体を戻して聞いた。
「やっぱりあれなんですか、締切とか大変なんですか?よく漫画家さんや作家さんって締切に追われて大変って言いますよねー。」
「僕はそんなには—— 割と原稿を描くの早いんです。」首を僅かに振ってからショーンが言った。
「あーそうですか。 」
「やっぱり世間のネタとか事件とか参考にされてるんですか?」
「いぇ… 。」ショーンが笑っていった。「僕はあまり世の中の出来事は参考にしないんです。」
「自分で空想する?」
「えぇ。」
ショーンが頷いて返事した。
「ふぅーん…。 そぅ…そぅ… そういえばこの近くで男性が殺される事件がありましたよねー。1ヶ月位前、新聞で読みました。ご存知でした?」身を乗り出して言った。
「はい。」ショーンが小さく頷いた。
「むごたらしい殺し方しますよねー。山道を歩くような服装じゃ無かったみたいだし、ご存知でしたか?」
「知ってます。」ショーンは顔色を変えずに言った。
「そぅ、… この近くの山林です。雨の日だった。人の居ない時間だった。」
「…………。」
「あの人どうしてあんな所ウロウロしてたんでしょうねぇ、」
「よく知ってますよ。」
ショーンが顔を向き直して言った。
「その人、僕の編集者だったんです………。」
「えっ、」
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