日本の漫画

「いやーすみません。突然お邪魔したりして。」青年に貰ったタオルで自分のスーツを拭きながら入ってきた男が言った。

「いえ……… 」

 慎重に男を見ながら青年が言った。 「雨が降ってたのは分かってたんですけど急に強くなってきましてね。どうにもならなくなってしまったんですよ。」弾むように喋った。喋りながら男は家の中を見回した。

「広いお家ですねぇー。」見上げながら横歩きで歩いて言った。青年はまだ警戒して男に近寄らず、傍から見ていた。

 男は入れてくれた青年に対して、

「お若いですね。ここでお一人で?」 と手を差し向けて言った。

 青年は頷いた。「えぇ。」

「ご迷惑だったでしょう?夜分遅くだし、私本当に助かります。」

 青年は言葉を出さずに頷いた。

 男が急に身を乗り出してきて手を出した。

「初めまして、私アール・マグワイアと申します。本当に助かります。」

 青年はその男に手を返して返事した。

「ショーン・ケイシーです。」



 男は済まなそうに言った。

「起こしてしまいましたか?起きてらっしゃったんですか?」

 ショーンは頷いてから、「えぇ。」

 そしてショーンから聞いた。

「何してここにいらっしゃったんですか?」

「在宅のお仕事をされてるんですか?」

 マグワイアに聞かれてショーンは言った。

「漫画家をしてます。」

 マグワイアが驚いた顔をして、

「ぁあー。 漫画家さん。」と身を引いた。「漫画家さんにお会いするの私初めてです。へぇー。」目を広げてじろじろ見た。

 見られて顔を反対へ向けてショーンはソファに座った。

 男が見たところ青年は普通の黒いシャツを着てごく一般的な成人男性の態をしていた。珍しい赤みがかった金髪をしていた。

「随分遅くまでお仕事なさるんですねー。やっぱりあれですか?不規則な生活をしておられるんですか?」

「えぇ。大抵昼夜逆転です。」

 立ったままショーンの頭を差してマグワイアが言った。

「その髪、漫画の主人公みたいじゃないですか。ハンサムだし。」「染めてらっしゃるんですか?」

「生まれつきですよ。」言われてショーンははにかんで言った。

「今もお仕事中でした?」

「えぇ。でも別にいいですよ。丁度一区切りついたとこだったから。」


 ショーンはソファに座ったマグワイアにお茶を出した。

「こんな所で何してたんですか?」

 質問に答えずにマグワイアが言った。

「漫画家さん、って珍しいですよね、…子供向けのイラストとかですか?」

「いいえ。」首を振って、「少年向けの連載漫画です。」 ショーンが答えた。

「ふぅーん。」マグワイアが首を縦に振って頷いた。

「私ご免なさい。あんまりそういうのに詳しくなくって、売れっ子作家さんですか?」

 ショーンは一笑いして言った。

「駆け出しの未熟者ですよ。」

 室の中で二人黙った。

 顎に手を抑えたままマグワイアが口を開いた。

「不躾な質問かも知れませんがどうして漫画家になろうって思ったんですか? 珍しいですよね?私今までに会ったことありません。売れるまで大変な仕事だろうし。」

 斜め下へ向いて笑って、ショーンは喋り出した。

「日本の漫画に憧れてるんです。子供の時、「聖闘士星矢」とか、「ワンピース」とか、「魔法騎士」を見て ……」

「ぁー、私ポパイなら知ってます。」

「それはアメリカの古いコミックだと思います。」ショーンが冷めた顔で前を見て言った。

「そうだったんですか?あぁいうのとは違うんですか?」身を低めてマグワイアが言った。

「日本の漫画は欧米のとは違って……… 」ショーンが前をみたまま話し出した。

「もっと、夢があるんです。 まるで… 白黒なのに色があるみたいな。」

 マグワイアが頷いて聞いた。

「子供の頃、いつも夢みてたんです。自分もいつか、あんなのを描けるようになりたいって………—— 」言い掛けて顔を上げてショーンが話すのを止めた。

 興味深そうにマグワイアは聞いた。

「どんなお話を描いてるんですか?」身を乗り出してマグワイアは聞いた。

 ショーンは答えなかった。

 黙るショーンに、

「新人作家ですか?」

「新人という程でもなくて……… そんなに読んでくれる人はまだいません。雑誌自体も少ない部数で、…… イギリスではまだ漫画はそこまで一般的でなくて…… でもすっごく楽しいって言ってくださる方もいて———… 」笑って見上げた。心を開き掛かってる自分に気がついて、下を向いた。

 そのショーンを見て頷いた。

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