6—2 空中戦艦 vs 超巨大ドラゴン 後編

 撃ち出された4本の光線は、うち2本が突撃するゲブラーの体に突き刺さる。

 それでもゲブラーは、外れた光線が作り出す火球を背に突撃を続行。


 ただし、さすがにゲブラーの勢いは削がれていた。

 だからこそ僕は、副砲や高角砲、魔銃を放ちながら空中戦艦を前進させる。


 光線をばら撒き前進した空中戦艦は、ゲブラーの首元に艦首をぶつけた。

 空中戦艦にぶつけられて、ゲブラーはようやく動きを止める。


――チャンスだね!


 装填が終わった主砲を即発射、至近距離での爆発に操舵室が揺れた。

 衝撃と警報が駆け巡る操舵室で、イーシアさんはぴょんと跳ねる。


「がんばれがんばれレンくん! 強いぞ強いぞレンくん!」


 子供を応援するお母さんかな?

 でも、なんだかすごくやる気が出てきたよ。


 爆発の中から再びゲブラーが飛び上がろうとしたって、そうはさせない。

 撃てる砲は全部撃つ。そして爆発に爆発を重ねる。空中戦艦がいくら揺れたって、シェノとメイティを守るためなら気にしない。

 そうやって僕はゲブラーの動きを完全に封じた。


 ドラゴンが爆炎の中に消えている隙に、僕は無人輸送機の無事を確認する。


「シェノとメイティ、大丈夫そうだね」


 悠々と森の上空を飛ぶ無人輸送機に一安心。


 と、そのときだった。視界が赤く煮えたぎる炎に支配された。

 どうやらゲブラーの炎攻撃が空中戦艦を覆い尽くしているらしい。

 凄まじい高温に包まれて、空中戦艦自体は無傷だけれど、シールドの表面はドロドロに溶けていく。


 操舵室には冷たい機械音イーシアさんの声が響いた。


『シールド損傷率80パーセント。シールドの再起動を推奨』


 そんなことを言われて、僕は空中戦艦を動かし炎を避けようとする。

 ちょっと動くだけで炎攻撃を避けられる、とは思わなかったけど、意外にも炎の中からは簡単に逃れられた。


 いいや、逃れられたんじゃない。これもゲブラーの狙い通りだったのだ。

 炎の中から飛び出して最初に目に入ったのは、ゲブラーが作り上げた、地上から突き出る無数の土の柱だ。

 土の柱はボロボロのシールドに突き刺さり、シールドが砕け散る。


『シールド消失。強制再起動を開始』


 冷たい声が聞こえて、外には炎攻撃を繰り出そうと口を開くゲブラーが見えて、焦りに襲われる僕。

 けれども、僕の隣にいるイーシアさんは優しく僕の手を握った。


「レンくんなら大丈夫よ! ゲブラーなんて敵じゃないわ! だって、レンくんは強くてかわいいんだもの!」


 こんな状況で恥ずかしいことを言われて、焦りは行方不明に。

 代わりにやってきたのは、謎の自信だった。


――シールドが消失したって知らない! こっちが先に攻撃すれば勝ちだよね!


 もう防御は捨てた。全部の魔力を兵装に込めてやる。


 兵装に大量の魔力を込めれば、砲口には凝縮された青い光が輝いた。

 シールド消失、敵の大技が発動寸前。この状況で回避ではなく攻撃を選んだ僕に、ゲブラーは虚を衝かれたらしい。

 ゲブラーは口を閉じ、土の柱で自らを守り、翼をはためかせ、大空に飛び立とうとする。


――逃がさないよ! 発射!


 イメージと同時に砲口から飛び出した光線は、土の柱を突き抜けゲブラーに直撃した。

 森の木々ごと焼き尽くす爆発に包まれて、ゲブラーは地上から離れられない。


 僕はゲブラーの反撃を完全に封じたんだ。

 隣に立つイーシアさんは、ミードンを抱っこしながら大喜び。


「その調子よ! さすがレンくんだわ!」

「にゃ~!」


 ここまでは順調だね。


 さて、シェノとメイティはどうなったか。

 無人輸送機は地上に降り立ち、二人は教会跡からタキトゥスの針を持ち出していた。

 シェノとメイティも順調みたいだ。


 ただし、油断はしちゃいけない。

 二人が無人輸送機に戻り空中戦艦に向かいはじめた頃。またもゲブラーに動きが。


 ゲブラーは無人輸送機を狙い、巨大なドラゴンの体を宙に持ち上げた。

 対抗して僕も主砲を発射するけれど、この攻撃はゲブラーが作り出した土の壁に阻まれる。


 再度の主砲発射まで数秒。この合間にゲブラーをシェノたちのもとに向かわせるわけにはいかない。


――主砲がダメなら、体当たりだよ!


 とっさに僕は空中戦艦を回転させた。

 時計の針のように回転した空中戦艦の艦尾は、凄まじい勢いで振り回される。

 そして、その勢いを維持したまま、空中戦艦の艦尾がゲブラーに激突した。


 まるで回し蹴り。

 ゲブラーは地上に叩き落とされ、土煙が辺りを覆う。

 激しい揺れによろけながら、イーシアさんは小さく笑った。


「フフ、ゲブラーったら、天才レンくんに勝てるわけないのに」


 そんなことを言われても、僕は後ろ頭をかくだけ。

 ただ、不思議と自信が溢れてくるのはたしかだ。おかげで戦いへの恐怖はほとんどない。


――イーシアさんと一緒なら勝てる!


 希望を胸に、僕はシェノとメイティを確認した。

 シェノとメイティを乗せた無人輸送機は、まっすぐとこちらへ向かってきている。

 勝利まではもう少しだ。


 もう少しなのに、ここで地上に倒れていたゲブラーが飛び上がる。

 彼の狙いは、間違いなく無人輸送機。だから僕はゲブラーに向けて主砲を発射する。

 とはいえ、ここまでの攻撃でゲブラーも学んだらしい。ゲブラーは巨大なドラゴンの体をひねらせ、主砲から撃ち出された光線を全て回避した。


――外した!? まずいよ!


 このままだと、主砲の装填が終わるまでに無人輸送機が攻撃されちゃう。

 事実、ゲブラーは無人輸送機を凝視し、口を開け、喉の奥に炎を宿らせていた。


 どうしよう、と焦ったそのときだ。無人輸送機の扉が開き、シェノがひらりと無人輸送機の上に乗っかった。

 マントとポニーテールを揺らしたシェノはアヴェルスを掲げ、詠唱を口にする。

 そうして、アヴェルスから放たれた水の刃がゲブラーの目を切り裂いた。


 視界を奪われて、ゲブラーは明後日の方向に炎を吐く。炎をかすめた無人輸送機は無傷だ。


――今だね!


 僕は装填を終えた主砲を発射した。

 光線は空を切り裂き、振り返ったゲブラーを爆発の中に追い込む。


 燃え盛る森と壮大な火球を背に、無人輸送機は空中戦艦の格納庫に滑り込んだ。


「シェノちゃんたち、到着したみたいね! ミードンちゃんと一緒に迎えに行ってくるわ!」

「にゃにゃ!」


 操舵室を去っていくイーシアさんとミードン。

 数分の間ゲブラーを監視していれば、イーシアさんとミードンが帰ってくる。


「お待たせ」

「にゃ~ん!」


 二人の声に続いて、シェノが勢いよく操舵室に飛び込んできた。


「レン、なんとかの針、持ってきたよ!」

「ありがとう、シェノ!」


 変わらず快活なシェノの表情に、僕も思わず頬が緩む。

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