第6章 やっぱり最強の空中戦艦は過保護すぎる!

6—1 空中戦艦 vs 超巨大ドラゴン 前編

 鳥よりも速く、放たれた矢よりも速く。

 想像できる限りの速さをイメージして、空中戦艦は空を切り裂くように飛ぶ。

 そしてシェノたちを見下ろす巨大なドラゴン――ゲブラーに、僕は空中戦艦をぶつけた。


 艦首にドラゴンが突き刺さろうと、警報が鳴り響き赤いランプが点滅しようと、知ったことじゃない。 

 僕はスピードを緩めることなく、艦首にドラゴンが突き刺さったままの空中戦艦を飛ばし続けた。


「うおおおりゃあああ!」

「レンくん! このままだと山にぶつかるわ!」

「にゃあ!」


 イーシアさんとミードンの叫びを聞いて、それでも僕は空中戦艦の速度を緩めない。

 数秒もしないうち、空中戦艦は艦首に突き刺さったゲブラーを山に叩きつけた。


 それでも空中戦艦の勢いは止まらず、ゲブラーの巨大なドラゴンの体は山に食い込んでいく。

 完全にゲブラーの動きを封じることに成功した。今がチャンスだ。


「少し大人しくしててもらうよ!」


 イメージしたのは、全速力で後退する空中戦艦の姿。

 空中戦艦はイメージに従い、ゲブラーを山に置き去りにしながら後退をはじめる。

 後退しながら、僕は主砲や副砲を動かし、狙いを定め、魔力を込めた。


 準備が終われば、すぐに発射。

 撃ち出された数本の青い光線はゲブラーに殺到し、山をも呑み込む火球を作り出す。

 巨大なドラゴンの体は、一瞬にして火球の中に消えていった。


 徐々に遠ざかる火球を眺めて、イーシアさんとミードンは目を丸くする。


「レンくん、意外と激しいところがあるのね。ちょっとびっくりしちゃったわ」

「にゃ~ん……」


 こうでもしないとゲブラーを行動不能なまでに追い込むことはできないだろうから、仕方がない。

 とにもかくにも、これでゲブラーはしばらく動けないはず。


「今のうちにタキトゥスの針を回収しよう!」

「ええ、そうね! すぐに無人輸送機をシェノちゃんたちのところに向かわせましょう!」


 高速で後退する空中戦艦は、それほど時間をかけずにシェノたちの上空へ。

 ガラス板にアップで映し出されたシェノたちは、僕たちを見上げ手を振っていた。

 僕は一安心しながら、ミードンの首輪にぶら下がる魔道具の鈴に話しかける。


「メイティ、シェノ、聞こえる?」


 言葉は無事に届いみたい。メイティはポケットから出した鈴をシェノに渡した。

 そしてすぐに、僕の持つ鈴からシェノの快活な声が聞こえてくる。


『レン! やっぱり来てくれた! やるじゃん!』


 文句のひとつでも飛んでくるかと思ってたけど、褒められちゃった。

 おかげで僕は言葉が続かない。

 沈黙の末、なぜか僕は謝罪を口にしていた。


「ごめん。僕のせいでメイティの命を危険に晒して、しかも6人の騎士たちの命を――」

『その話、長くなりそうだから後で聞く』

「え?」

『ここは戦場、でしょ。ゆっくりしてる暇はないから、早く本題、行こ!』


 さすが闘う貴人――ううん、闘う美少女のシェノだよ。

 彼女の頼もしさに、僕も心を切り替えた。


「そ、そうだね。ええと、ゲブラーを倒すのにタキトゥスの針が必要なんだ! タキトゥスの針がどこにあるのか、知ってる?」

「もちろん。近くにある教会跡にあるけど」

「じゃあ、これから無人輸送機を送るから、それで空中戦艦にタキトゥスの針を持ってきてほしいんだ」

「りょーかい! 任せて! すぐに持っていくから!」


 左手を僕に掲げて、シェノはメイティと目を合わせる。

 同時に、イーシアさんが飛ばした無人輸送機が彼女たちのそばに着陸した。

 無人輸送機にシェノたちが乗り込むのを確認していると、イーシアさんは僕の肩を叩く。


「大変よレンくん。ゲブラーが動き出したわ」


 消滅した山の方を見てみれば、大樹のような煙の中で巨大な翼がはためいていた。

 できることなら、タキトゥスの針を回収するまでゲブラーには大人しくしていてほしかったのだけど。


――シェノたちを守らなきゃ!


 僕は空中戦艦の全兵装をゲブラーに向け、イメージと魔力をフル稼働させた。

 そのとき、ゲブラーのかき乱されたような声が僕の脳内に混ざり込む。


「神の子よ! なぜだ!? お前ほどの力の持ち主が、なぜ弱者どもを救う!? 強者には強者の報いを! 弱者には弱者の報いを! この世界の理に、なぜお前は従わない!?」


 声を裏返したゲブラーは、きっと僕の行動の意味が心の底から分からないみたい。

 だったら、教えてあげよう。


「ゲブラーの言う世界の理に従わない理由なんて、簡単だよ」

「なに!?」

「絶対的な強者や弱者なんて、この世界に存在しないんだ。みんな、強い面もあれば弱い面もあるんだ。ゲブラーだってそう。だから僕は、ゲブラーにとっての世界の理には従わない」

「何を言い出す!? 俺に弱者の要素など存在しない! 俺は絶対的な強者だ!」

「もし本気でそう言っているなら、ゲブラーに未来はないかもね」

「なんだと!?」

「イーシアさんが教えてくれたんだ。誰だって弱い面がある。それを認めてはじめて、前に進めるんだって。だから、自分の弱さも受け入れられないようなゲブラーは、一歩も前になんて進めない! 一歩も前に進めないようなゲブラーに、未来なんてないよ!」


 言いたいことを全部言い切って、僕は呼吸を整える。

 ゲブラーの返答はなかった。

 代わりにイーシアさんの柔らかい体が僕を包み込み、大袈裟なまでに嬉しそうな声が僕の鼓膜を震わせる。


「フフフ、レンくんが立派に育ってくれて、私は嬉しいわ! やっぱりレンくんは世界で一番かわいくてかっこいい天才さんね!」


 褒め方が直球すぎて、しかも柔らかい胸が僕の後頭部を包み込んで、すごく照れるよ。


 とはいえ、のんきにしてる場合でもないみたい。

 黙り込んでいたゲブラーは、堰を切ったように叫ぶ。


「ふざけるなああぁぁ! 神の子よ、お前もただの弱者だ! お前が弱者であること、この俺が証明してやろう!」


 怒りの声とともに、ゲブラーは振り払った煙を置いてけぼりにして突撃をはじめた。

 超巨大ドラゴンの突撃に備えるため、僕は空中戦艦のシールドを強める。


 続いて迎撃のための兵装の準備も開始。ゲブラーの進行方向を狙った主砲は、空中戦艦の少し右舷側に傾いた。

 その傾きを見て、イーシアさんは体を乗り出す。


「大変! ゲブラーの狙いはシェノちゃんたちよ!」

「にゃ~!?」

「そういうことか……!」


 イーシアさんに言われて、僕も気がついた。

 右舷後方には、今まさに地上を離れた、シェノとメイティを乗せた無人輸送機がいるんだ。


 きっとゲブラーは僕にこう言いたいんだろう。お前は誰も守ることのできない弱者だと。


「……やらせない!」


——絶対にシェノたちを傷付けさせはしない!


 決意を見せるためにも、僕は一斉に主砲を発射した。

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