4—4 タキトゥスの針

 通路からやってくるマモノの数は、まるで雪崩のよう。たぶん、マモノの壁は分厚くなってるはず。


「障壁が壊される可能性はないだろうけど……」


 念には念を入れた方がいい。

 僕はシェノがアヴェルスから放った大量の水の針をイメージした。

 結果、イメージした通りの水の針が、どこからともなく大量に飛び出してくる。


 大量の水の針は障壁を抜け、牙を剥き出しにするマモノたちを容易く貫いていく。

 生気を失った失ったマモノたちの死骸が積まれていけば、光の障壁とマモノたちの死骸の壁で、通路はいよいよ封鎖状態。


「フフフ、これでしばらくは安全ね。天才魔導師レンくん、大活躍!」


 にっこりイーシアさんに褒められて、僕は一安心だ。


 一方、マモノの群れを僕に任せたシェノは、巨大なマモノへの攻撃を続けていた。

 シェノの攻撃が巨大なマモノのうなじに集中したとき、シェノはついに叫ぶ。


「弱点、見つけた!」


 そう口にした次の瞬間、アヴェルスが地面に向かって水を吹き出した。

 吹き出した水は地面を削る勢い。この勢いに乗って、シェノは天井まで跳躍する。

 跳躍したシェノは体を回転させ、天井を足で蹴ると、今度は巨大なマモノへ向かって真っ逆さまに。

 水の刃をまとったアヴェルスは少しの狂いもなく、巨大なマモノのうなじを狙っていた。


「これで終わり!」


 巨大なマモノのうなじに突き刺さるアヴェルス。空間に轟く断末魔。

 すぐに沈黙が訪れれば、巨大なマモノは力なく倒れ、もう二度と動くことはなかった。


 地面に着地したシェノはアヴェルスを掲げる。


「みんな、やったよ!」

『おおー!』


 一人も欠けることなく手にした勝利に、騎士たちも大喜びだ。

 戦いを終えて、シェノは巨大なマモノの亡骸を眺める。


「うわぁ……じっくり見ると、このマモノ気持ち悪い……うう……」


 シェノは鳥肌を立てているけど、鳥肌を立てているのは僕も同じ。だって、大きなネズミの体に、大きな虫の脚だもんね。うん、気持ち悪くて当然だよ。


 そんな気持ち悪い巨大なマモノを、シェノたちは倒したんだ。

 イーシアさんと僕はシェノのもとに駆け寄る。


「お疲れ様! シェノちゃん、カッコよかったわ!」

「うん、さすが闘う貴人だよ」

「闘う美少女、ね。フフン、もっと褒めてくれてもいいからね」


 腰に手を当て、鼻高々に胸を張るシェノ。


 僕たちがシェノを褒める間、メイティは輝く魔鉱石を手に空間をウロウロしていた。

 数分して、抑揚のない嬉しい報告が聞こえてくる。


「これなのです。これがわたしたちの探し物なのです」


 そう言うメイティの前にあったのは、メイティと同じくらいの大きさの謎の物体。


「何これ? 石の棒?」

「なんだろう、不思議な力を感じるよ」


 説明しにくいけど、質量を持った花の香りのような、そんな何かを石の棒から感じる。

 誘われるように思わず石の棒に手を伸ばせば、イーシアさんが顔色を変えた。


「それ、まさか……!」

「イーシアさん、これを知ってるの?」

「ええ、もちろんよ。だってこれ、運命の18時間を引き起こしたものの欠片だもの」


 あまりの言葉に、僕たちは反応すらできなかった。

 旧文明時代を崩壊させた災厄を、この石の棒が引き起こした?

 当然、メイティは首をかしげる。


「それは本当なのです?」

「間違いないわ。これは惑星の魔力を高密度に圧縮した『タキトゥスの針』の欠片よ」

「信じられないよ。こんなものが、運命の18時間を引き起こしたの?」

「詳しいことは省くけど、その通りだわ」


 意味が分からない。

 ただ、こんなにも真剣な表情のイーシアさんははじめて見た。それだけが、イーシアさんの言葉に真実味を持たせている。


 もしイーシアさんの言う通りなら、僕たちは世界崩壊の目前に立っているようなもの。

 シェノは頭を抱える。


「運命の18時間を引き起こしたものの欠片って……あの腹黒王女、またとんでもないもの押しつけて……!」


 いろいろな恨みが言葉に含まれている気がする。

 大きなため息をついたシェノは、諦めたように言い放った。


「ともかく、さっさと帰ろ」

「そうね。でも、油断しちゃダメよ。おウチに帰るまでが洞窟探検なんだから」

「遠足?」


 のんきなイーシアさん。でもイーシアさんの言う通り、まだ油断はできないよね。


 なんて思っている直後だった。ミードンを抱いたメイティのすぐ隣で、巨大なマモノの亡骸が膨らみはじめ、肥大化する体内からは光が漏れる。


「にゃっ!?」

「まずいのです」


 何が起こるかは分からない。ただ、悪いことが起きようとしているのは分かる。


「メイティ!」

「僕が助ける!」


 とっさに僕は駆け、メイティとミードンのそばで障壁を発動した。

 発動したと同時、巨大なマモノの亡骸は破裂、凄まじい衝撃が空間を揺らす。


 衝撃によって、僕とメイティ、ミードンの足元に広がる地面は崩壊、僕たちは暗闇にのまれていった。

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