4—2 闇に蠢くマモノたち
さて、洞窟の入り口に6人の騎士を残して、いよいよ洞窟の奥深くへ出発だ。
ランプで照らし出された洞窟の壁は、やっぱり真四角で、そしてモノクロ。
曲がり角は全てが直角で、洞窟を歩くというよりは、何かの建物内を歩いているみたい。
闇と直角の曲がり角のおかげで先に何があるかは確認できず、僕たちはシェノとメイティの後を追って、足音を響かせながら先に進むことしかできなかった。
肝心のメイティは、都市遺跡サンラッドで発見した手がかり――紫に輝く魔鉱石を手にしている。
イーシアさんはメイティの頭に乗るミードンをもふもふしながら尋ねた。
「その魔鉱石、どうやって使うのかしら?」
「これは、探し物に近づけば近づくほど強く輝く魔鉱石なのです。つまり、魔鉱石が強く輝く方向に行けば、探し物が見つかるのです」
「へ~、旧文明時代の魔力探知機みたいなものかしらね」
のんきな二人の会話の直後、僕たちの前に直角の別れ道が。
右の闇を見つめ、左の闇を見つめ、どちらに進むか悩むシェノは、最終的にじっとメイティを見つめる。
ここで早くもメイティの持つ魔鉱石が活躍した。
「魔鉱石の輝きは、右の道の方が強いのです」
「じゃ、そっち行こ」
目印となるナイフを別れ道に刺し、僕たちは魔鉱石の光を信じて右の道へ。
他に手がかりはないのだから、魔鉱石の言う通りにするしかない。
その後も何度か僕たちの前に別れ道が現れた。そのたびメイティは魔鉱石を掲げ、僕たちは魔鉱石が強く輝いた方向に進む。別れ道には必ずナイフを突き刺していった。
ここまでは順調な道のりだ。
「もっと危険な洞窟を想像してたけど、今のところ安全そうだよ」
「ええ、そうね。ただ、油断しちゃダメよ。どこにどんなマモノが住み着いてるか分からないんだから」
「そういえば、なんでマモノは『虚無』でも生きていけるの?」
「マモノは生物じゃないから、と言えばいいのかしら。マモノの正体は、マゾクが作り出した魔力の塊なのよ。だから食べ物も何もない『虚無』でも生きていけるの」
「そ……そうなんだ……」
「ちなみに私はレンくんさえいれば『虚無』でも宇宙でも生きていけるわよ!」
「マモノ以上のたくましさだね!」
さすが伝説の最強空中戦艦さんだよ。
と、ここでシェノが黙ったまま左手を上げ、僕たちを静止させた。
僕たちの会話と鎧の擦れる音以外は完全な静けさに包まれた洞窟で、シェノは静けさの向こうに耳を傾け、心なしか緊張した様子。
続けてアヴェルスを構え、小さな声で詠唱を口にした。
「アヴェルス、惑星の加護を、飛水針を」
これに応えて、アヴェルスの紋様と魔法石が輝きはじめる。
シェノがアヴェルスを薙ぎ払えば、槍先から数本の細く鋭い水の針が飛び出した。
水の針は一瞬にして暗闇の中に消え、少しして鈍い音が洞窟の先から聞こえてくる。
何事か、と黙り込む僕。
騎士の一人はランプを洞窟の先に投げ込んだ。
ランプの明かりが照らし出したのは、地面に横たわる、体に細かい穴をあけた4体のマモノたち。
虫のそれに似た6本の脚を持つネズミのようなマモノの亡骸を見て、シェノは小さな悲鳴を上げる。
「ふえっ! 虫みたいな脚が気持ち悪いヤツだ……うう……うう!」
アヴェルスを抱え、マモノの亡骸を必死で見ないようにしながら数歩退くシェノ。一瞬でマモノを処理した人とは思えない反応だ。
一方でメイティは表情ひとつ変えずに言う。
「やっぱりマモノが住み着いていたのです」
「しかもこいつ、ボスを中心に群れで生活するタイプのヤツだよ……」
メイティに続いたシェノの吐き捨てるような言葉は、僕に嫌な想像をさせた。
「それって、この先にもたくさんマモノがいて、マモノのボスまでいるってことだよね?」
「うん。ああ……鳥肌立ってきた……」
マモノの亡骸に背を向け首を縦に振るシェノの答えに、僕の体は重くなる。
魔力の使い方を覚え、空中戦艦も操れるようになった僕だけど、生身の状態でマモノと対峙するのはやっぱり怖い。
そんな僕の恐怖を察してか、イーシアさんは僕の手を強く握ってくれる。さらには心配そうな口調でメイティに語りかけた。
「マモノがたくさんいて、大丈夫なのかしら?」
少し体を乗り出してるあたり、イーシアさんは心の底から心配そう。
さすがに空中戦艦の攻撃もここまでは届かないから、イーシアさんが心配に思う気持ちもよく分かる。
対照的に、メイティは表情ひとつ変えず、シェノは明るい口調で言い切った。
「これは想定内の事態なのです。問題ないのです」
「イーシア、心配しすぎ。わたしたち騎士団なんだから、こんなのへっちゃらへっちゃら!」
二人の口調に油断や慢心は微塵もない。今の二人は確固とした自信に満ち溢れていた。
それは騎士団のみんなも同じこと。
いくつもの危機を乗り越えてきたであろうシェノたちを前に、僕の恐怖は和らいでいった。
ただ、イーシアさんはまだまだ心配そう。
もしかしてイーシアさんが心配なのは、僕のことなのかな? だとしたら、僕はイーシアさんに伝えておかないと。
「僕は大丈夫だよ。だって、信頼できるみんながいるから」
「……そ、そうよね! さすがに心配しすぎよね! さ、洞窟探検、続けましょ!」
ようやく笑顔を浮かべたイーシアさん。ただし、手は繋いだままだけど。
今まで以上に真剣な顔つきになったシェノたちは、先へと進んでいく。僕とイーシアさんも、彼女たちを頼りに歩を進める。
のんきにお話ししながらの洞窟探検は終わっちゃったみたいだ。
洞窟の奥に行けば行くほど、マモノの数は増えていった。当然、僕の心拍数も増えていくばかり。
マモノたちの小さな体や俊敏な動きは、洞窟では明らかに有利に働く。もしマモノの群れが僕たちに気づき、一斉に襲ってくれば、ひとたまりもない。
そのくらいのこと、シェノたちも分かっている。
シェノたちは静かに神経を研ぎ澄ませ、暗闇の中にいるマモノを探した。
どうやらシェノたちにはマモノのわずかな足音が聞こえるらしい。
暗闇の中にマモノたちを発見すれば、マモノたちがこちらに気づくよりも早く、彼女たちはマモノを処理していく。
僕はただ、騎士団の槍先から飛び出す魔法を眺め、マモノの亡骸を超えていくだけだった。
――マモノに関してはシェノたち騎士団にお任せしよう。
たぶんそれが正解だと思う。手助けしようにも、どうせ邪魔になるだけだろうからね。
マモノは騎士団に任せ、ただ洞窟を歩くだけの僕。
ちなみにイーシアさんは少しも僕から離れようとしない。
そのまま僕たちは、暗闇を切り分け、洞窟の奥へ奥へと進んで行った。
騎士団が何体ものマモノを倒し、いくつもの別れ道を超え、洞窟の入り口から随分と遠くまでやってきたなと誰もが思う頃。僕たちは唐突にひらけた空間に足を踏み入れた。
壁や天井が遠いのだろう、闇はさらに深くなる。
新たな空間に僕たちが歩みを止めると、ミードンはメイティをペコペコ叩きはじめた。
「にゃ~!」
「どうしたのです?」
「にゃ! にゃ!」
「これは……魔鉱石の輝きが強くなっているのです」
探し物の位置を教えてくれる魔鉱石は、もはや石というよりは光の塊そのもの。
イーシアさんは頬に手を当て、微笑んだ。
「探し物、すぐ近くみたいね」
「はいなのです。ただ――」
辺りを見渡し、メイティは口を閉ざす。
僕も辺りを見渡せば、メイティが口を閉ざした理由が分かった。
強い紫の輝きのおかげで、騎士たち全員の表情がはっきりと確認できる。闇の先を見つめる彼らの表情には、明確な警戒心が。
先頭に立つシェノは、すかさずアヴェルスを構え、騎士たちに言う。
「明かりを」
『了解しました』
リーダーに言われて、数人の騎士団が光の魔法を放った。
複数の光の魔法は暗闇を切り裂き、遠く離れた地面に落っこちる。落っこちると同時、強い光で空間を明るく照らし出した。
結果、僕は腰を抜かしそうになった。
空間の真ん中には、ここまで何体も倒しているマモノと見た目は変わらない、虫のような6本の脚に支えられた、ネズミのようなマモノが。
ただし、その大きさは今までのマモノとは比べ物にならない。
人間よりも大きな脚。壁のような胴体。見上げてようやく視界に入る顔。口から飛び出した大木のような牙。
「ウソでしょ……こんなに大きなマモノと戦うの……?」
「これがマモノのボスなのです」
「に、逃げた方がいいんじゃない?」
「もう遅いのです」
メイティの言う通り、もう僕たちは巨大なマモノのボスからは逃げられない。
なぜなら、シェノたちはすでに戦う気満々だから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます