3—3 任務:都市遺跡での探し物 後編
服屋の奥に見つけた、壁に垂れる大きな布。この布の先に、謎の空間が広がっているとイーシアさんは言う。
謎の空間には一体何があるのか。いつもの癖で、僕はまず頭を動かした。
一方で僕の隣にやってきたシェノは、何の躊躇もなく布をめくった。
「ちょっと入ってみようか」
アヴェルス片手に、布の向こう側に消えていくシェノ。
メイティとミードンもシェノの後を追っていく。
僕は慌てて思考を停止させ、置いていかれまいと布を持ち上げ先に進んだ。
布をくぐった先にあったのは、小さなランプと布団、机に椅子、謎の装飾品が並んだ棚が置かれた、こぢんまりとした部屋だった。
「隠し部屋!?」
『サンラッドにも、まだ私の知らない場所があったのね』
「たしかにマモノはいなさそうだけど、いかにも怪しい部屋って感じ。最近まで人がいた形跡もあるし」
シェノの言う通り、真新しさの残る怪しい部屋だ。
特に、壁に描かれた〝欠けた月に太陽が重なるマーク〟は独特のおどろおどろしさがある。
正直に言えば、ちょっと怖い。
それでもメイティは部屋を物色し、無表情のまま言った。
「あったのです」
「にゃ!」
頭にミードンを乗せたメイティの視線の先には、真っ黒なカバンがひとつ。
カバンに刻まれた数字を読んで、シェノの表情はパッと明るくなる。
「049……これ! これこれ! わたしたちの探してたモノ!」
よりにもよって怪しい部屋で探し物を見つけてしまった。
怪しい部屋で見つけた怪しいカバンに、メイティは慎重に手を伸ばす。
「開けてみるのです」
皮の軋む音を鳴らし、ゆっくりと持ち上げられるカバンの蓋。
そうして開かれたカバンの中には、手の平サイズの紫がかった鉱石が転がっていた。
鉱石の正体は、なんとなくだけど僕にも分かる。
「普通の鉱石じゃなさそうだね。魔鉱石かな?」
「これは特定の魔力に反応するタイプの魔鉱石だと推測できるのです。おそらく、これが『虚無』での探し物の在り処を教えてくれる道具なのです」
詳しく語るメイティに、シェノもうなずいていた。
メイティの推測が正しければ、僕たちにとって重要なアイテムになる魔鉱石の発見だ。すごく怪しいけど。
魔鉱石の他にカバンの中身はないかと、シェノはカバンを持ち上げた。
そのとき、何かがひらりとカバンから飛び出す。
「うん? 紙切れが落ちたよ?」
拾い上げた紙切れに僕たちは寄り集まった。
「なんか書いてある」
「にゃ?」
「数字の羅列……メイティはこの数字の意味、分かる?」
「とりあえず私に聞くの、やめるのです」
プイッと顔を背けたメイティ。
おかげでミードンの尻尾が僕の頬に当たる。
結局、僕たちには数字の意味が分からなかった。
こういうときに頼りになるのが空中戦艦――イーシアさんだ。
驚いたことに上空からでも紙切れの数字が読めたらしく、イーシアさんはおもむろに答えた。
『それはきっと座標ね。ちょっと待ってちょうだい、検索してみるわ』
流れるようにそう言って数秒後、イーシアさんはテンション高めで言葉を続ける。
『検索してみたら、『虚無』にある縦穴がヒットしたわ!』
「間違いないのです。この魔鉱石と紙切れが、私たちの探している何かの手がかりなのです」
メイティは確信したらしい。
「ということは……」
「今日の任務かんりょー!」
無事に終わった手がかり探し。
魔鉱石と紙切れを手に怪しい部屋からはそそくさと退散し、僕たちはそのまま建物の外に出た。
建物の外、空中戦艦の真下には騎士団が続々と集まり、だんだんと賑やかに。
みんな、旧文明時代の格好をしたシェノとメイティに釘付けだ。
騎士団が全員揃えば、シェノは魔鉱石と紙切れを見せびらかした。
「みんな! これが今日の目的のモノ!」
掲げられた魔鉱石と紙切れを見て、騎士団の反応は芳しくない。
「俺はもうちょっと豪華な品を期待してたんだがな」
「正直、俺も」
次々と騎士たちの不満の声が上がる。
これにはさすがのシェノも口を尖らせた。
「ちょっと? せっかく任務半分完了したのに、文句ばっか?」
シェノの抗議を聞いて、騎士団は明るく笑う。
「いやいやいや! 文句なんかねえです! なあ!」
「ああ、文句なんかない! むしろ、シェノ様とメイティさんのかわいい格好が見られて、俺たち満足です!」
「ほうほう、いいこと言うじゃん」
気を良くしたシェノは胸を張り、ドヤ顔をする。
騎士たちはそんなシェノのドヤ顔に大喜び。
任務が完全に終わると、空中戦艦からの迎えを待つ間、シェノと騎士たちはずっと楽しげに会話を続けていた。
「シェノ様! 面白いモン見つけてきましたよ! ほら!」
「おお~! 何この人形、かっこいい!」
「俺も見つけてきたッス! これ!」
「あ! これって腹黒王女が言ってた文房具の遺物! ちょっと気になってたんだよね!」
みんな、ホントに仲がいいみたいだ。
ただ、僕は一部の騎士たちの会話を聞き逃さない。
「レンさんも結構なかわいさだよな」
「同感。ボーイッシュな女の子、いいよなぁ。キュンとする」
どうやら騎士たちの中では、僕は完全に女の子ということになっているらしい。
ともかく、これで都市遺跡サンラッドでの探し物は終わりだ。
サンラッドでの探し物だなんて、やっていることは廃品回収と同じなのに、今日はとても楽しかった。
もしかすると、こんなに楽しかったのは故郷の村を出てからはじめてかもしれない。
できればもう少しだけ、この楽しい時間が続けばいいのに。
そうは思ったって、もうおウチに帰る時間だ。
僕たちは無人輸送機に迎えられ、サンラッド上空にいる空中戦艦に戻っていった。
ちなみに、僕が集めた服でおしゃれをしたイーシアさんに、騎士団のみんながどよめいたのはまた別のお話。
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