3—2 任務:都市遺跡での探し物 中編
イーシアさんのおかげでマモノと出くわすことは一度もなかった。
けれども目的のカバンと出くわすことも、まだなかった。
シェノは近場にいた騎士団の部隊に尋ねる。
「そっちの成果は?」
「ないッス。すっからかんッス」
「あちらでクッキー隊が大量のカバンが並べられた部屋を見つけたそうですが、そこにも目的のモノはなかったそうで」
「そっか」
騎士団の答えを聞いて、シェノは唇を噛む。
しかしすぐにニタリと笑って、騎士団の一人に声をかけた。
「ねえ、あんたはなんで旧文明時代のアクセサリーなんかポケットに入れてるわけ?」
「え? あ! こ、これは! その……遺物の調査ッス!」
「ウソ。どうせ家族へのお土産でしょ」
「……はい、そうッス」
「フッフッフ、わたしにウソをついた君には、罰を与える!」
「はっ! どんな処罰も受ける覚悟はあるッス!」
「じゃあ、最高のお土産で家族を喜ばせる! それが罰!」
「シェ、シェノ様あぁぁ!」
感激する騎士団の一人。彼以外の騎士団もまた、誇らしげな瞳をシェノに向けていた。
これが騎士団の日常なのかな。
だとしたら、みんな強い絆で繋がっているみたいだ。
満足げな笑みを浮かべたシェノは、カバンを探して三階への階段を登る。
僕たちも階段を登り切り三階にやってくると、目の前には瓦礫の山が。
「行き止まりなのです」
「でもこれ、瓦礫で道が塞がってるだけだよね」
「にゃー!」
「じゃ、瓦礫をどけっよか」
久しぶりにアヴェルスを構えたシェノは、ちょっと楽しそうに詠唱を口にする。
「アヴェルス! 惑星の加護を! 水の刃を!」
『シェノちゃん! 待ってちょうだい! その瓦礫を崩すと溜まってる雨水が――』
無線機から忠告が聞こえた頃には、アヴェルスから水の刃が飛び出した。
水の刃は瓦礫の山を粉々に切り刻み、道を開く。
おかげで、瓦礫の山に支えられていた大きな布切れが地面に落ち、布切れに溜まっていた大量の雨水が僕たちを襲った。
頭からまともに雨水をかぶった僕たちは、全身びしょ濡れ。
『遅かったわね』
イーシアさんの残念そうな声が聞こえて、僕たちは顔を見合わせるしかない。
ひどい目にあったけど、カバン探しは続く。
僕は濡れた服を絞り、メイティとミードンは体を振って水気を飛ばした。
シェノは鎧の中に手を突っ込む。
「びちゃびちゃで気持ち悪い。下着脱いじゃおっと」
「シェ、シェノ!?」
鎧の中から出てきたシェノの手には、濡れた下着が握られていた。
つまり、今のシェノはブラもパンツもなしで鎧を着ていることになる。
シェノの胸元や腰回り、脚の付け根からのぞく、水が滴った素肌。
色々と想像して、僕は前だけを見ることにした。
髪から水滴を垂らしながらしばらく歩くと、他と比べて少し広めの部屋が目に入る。
「ここは?」
「洋服屋っぽいのです」
「にゃ!」
「ちょうどいいじゃん。濡れた服、着替えよ」
そそくさと洋服屋に駆け込み、新しい服を選びはじめるシェノとメイティ。
――良かった、下着なしの鎧姿でうろつくほどシェノも非常識な人じゃないみたいだ。
安心した僕はすぐ近くにあった服を手に取り、濡れた服と取り換える。
十数分して、鎧の下にトレーニング着のような動きやすそうな格好のシェノと、青い髪飾りが映える明るい色のワンピースを着たメイティが現れた。
旧文明時代の服装に身を包み、雰囲気の変わった二人に、僕は思わず息を呑む。
闘う貴人とその軍師も、こうしてみればかわいらしい女の子だ。
少しだけ惚けて、僕は頭を振り、やるべきことを口にする。
「着替えも終わったし、カバン探しを再開――」
「あの服とかレンに似合いそうじゃない?」
唐突なシェノの言葉に、僕はまばたきを繰り返した。
すぐにメイティが反論する。
「シェノ様、何を言っているのです」
「そ、そうだよ! 今はカバンを探すのが――」
「レンみたいなのには、こういう服が似合うのです」
「ほえ?」
想像と違った展開に、僕のまばたきは増えるばかり。
ここでいよいよイーシアさんが口を開いた。
『二人とも、どの服がレンくんに似合ってるかなんて、そんなことはどうでもいい話よ』
「うん、今はカバンを――」
『だってレンくんは、どんな服だって似合うもの!』
ダメだ、もうこれは、カバン探しが中断されるやつだ。
僕が諦めると、カバン探しは本当に中断する。
シェノは棚に並んでいた服を僕に渡し、そのまま僕を小さな部屋に押し込んだ。
「よし! レン! これ着て!」
「あの――」
拒否権はないらしいので、僕は小さな部屋のカーテンを閉め、渡された服に着替える。
そして鏡に映ったのは、フリフリの装飾がついたトップスに膝上のスカート、そしてニーハイソックスを履いた僕。
これ、完全に女の子の服だよね。はじめてのスカート、スースーして落ち着かないよ。
これでカーテンを開けるの恥ずかしいけど、仕方がない。
スカートを押さえながら、おそるおそるカーテンを開けてみれば、シェノとメイティ、ミードン、イーシアさんの感想が飛び交った。
「ほら! レンにはかわいい系が似合うじゃん!」
「ちょっと子供っぽすぎるのです」
「にゃにゃ~」
『レンくん、とってもかわいいわ! 大人気アイドルが舞い降りたみたいよ!』
な、なんだろう……恥ずかしいような嬉しいような……。
全身が熱くなるのを感じて、僕はとっさにカーテンを閉めようとする。
けれども、メイティはカーテンを掴み、次の服を渡してきた。
「次はこれを着るのです。髪も下ろすのです」
「ええと――」
よく分からないけど、指示通りにしよう。
今度の服装は、濃い色のロングスカートに白のボウタイブラウスという、メイティらしいシンプルなファッションだ。もちろん結んだ髪は解いておいた。
相変わらずの女の子の服だけど、さっきよりは落ち着いてて悪くない。
そっとカーテンを開ければ、メイティたちの感想の時間がはじまる。
「私の見立て通りなのです。ガラッと雰囲気が変わったのです」
「悪くないけど、レンの魅力ってこれじゃない気も」
「にゃ~にゃ」
『レンくん、大人っぽくてかっこいいわ! これが本物のクールビューティーね!』
誰も僕を男の子扱いしてないよね。まあ、褒めてくれるならいいけど。
ともかく、これで僕の着せ替えは終わり。
元の服装に着替えるため、僕はカーテンを閉める。閉めようとして、ミードンがそれを阻止する。
「にゃ~ん」
「え!? ミードンまで!?」
まさかまさかの、ミードンが次の服を用意していた。
一体どういうこと?
でも、ミードンのお願いは断れないよね。僕はカーテンを閉め、すぐに着替えた。
ミードンが用意してくれた服装は、短パンにシャツ、それにジャケットを羽織って、結んだ髪にキャップをかぶれば完成だ。
太ももが見えるくらいの短パンは女性用っぽいけど、全体的には男の子っぽい格好かな。
カーテンを開けば、ミードンたちは目を輝かせた。
「にゃ~、にゃにゃ~」
「か、かわいい……」
「これもアリかもなのです」
『レンくん、ボーイッシュな服装も素敵だわ! これでみんなをキュンとさせちゃうわね!』
あれ? 男の子の格好をしてるはずなのに、男の子っぽい女の子だと思われてる?
想定外の反応にちょっと混乱。
なんにせよ、ミードンが選んでくれた服は着やすくていい。
僕もこれは気に入ったかも。
「ま、まあ、この格好ならいいかな」
「おお~! ってことは、ミードンの勝ち!」
「にゃにゃ~!」
「今回は負けを認めてやるのです」
――いつ勝負になったの!?
喜ぶミードンと、なぜか悔しがるメイティに、もう僕は笑うしかない。
謎の着せ替え対決が終わると、イーシアさんはため息をついた。
『あ~あ、私もオシャレ、してみたかったわ』
建物上空から僕たちを見守ってくれているイーシアさんの、寂しそうなつぶやき。
それを聞いて、僕はすぐに無線機を手に取った。
「欲しい服があれば、持っていくよ」
『まあ! レンくんは本当に優しい子ね! なら、お言葉に甘えて――』
こうして僕はイーシアさんの望みを聞きながら服を集めていく。
冷静に考えると、空中戦艦が着たい服を集めるなんて不思議だ。
「これくらいでいいかな」
どっさりと服を抱えて、僕は服屋の奥へと歩を進めた。
「レン、どこ行くの?」
「さすがにこの短パンは恥ずかしいから、普通のズボンがないかなと思って」
「でもそっち、男物ばっかりだよ?」
「僕、男の子なんだけど!」
そんなに女の子に見えるのかな。
ここまで言われると、男物が自分に似合うのか不安になってきた。
いや、自分の好みが優先だ。さすがにこの短パンは恥ずかしい。
男物のズボンを探して、服屋のまだ見たことのない区画へ。
すると、自分に似合うズボンではなく、壁に垂れた大きな布を見つけた。
「あれ? これ、なんだろう?」
『その先に空洞があるみたいだわ。マモノはいなさそうね』
イーシアさんからの報告を聞いて、謎は深まるばかり。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます