1—6 操舵者 後編

 事実、僕は空中戦艦の有人操舵モードを起動している。

 そしてそれは、僕が空中戦艦の操舵者としての資格を持つ人間だという証拠だ。

 

 ここでイーシアさんへの疑問がひとつ浮かぶ。


「……イーシアさんは、僕の魔力のことを知ってたの?」

「もちろんよ! レンくん、廃墟から落ちても無事だったでしょ? あれはレンくんが無意識に魔力を使った結果。それを見て、私はレンくんがレンくんだって分かったのよ」


 ああ、なるほど、そういうことね。どうしてイーシアさんが僕に優しくしてくれるのか、ようやく理解できたよ。

 僕は空中戦艦を操作できる強い魔力を持った特別な人間。だからイーシアさんは、僕を過保護なまでに守ろうとしてくれたんだね。

 だとしたら、イーシアさんは意外と現金な人だ。


 それなのに、僕を見つめるイーシアさんの瞳は、やっぱり優しさに溢れてる。


――もしかしてだけど、イーシアさんは僕が生まれた場所がどこなのか、知ってたりして。 


 ふとそんなことを思い、でもなぜか答えを知るのが怖くなり、僕は頭を振った。

 脳ミソばかりを動かすのはやめよう。

 意識的に感情を優先してみれば、とても純粋な気持ちが湧き上がってくる。


――せっかく空中戦艦を操作できるなら、操作してみたいかも。


 一応、僕だって男の子だ。伝説の空中戦艦が操作できるとなれば、テンションも上がる。

 そんな純粋な気持ち、イーシアさんにはお見通しらしい。

 なぜかイーシアさんまでテンションを上げて、僕の手を握りながら声を張り上げた。


「レンくん! 空中戦艦、動かしてみましょうよ!」


 あまりにも僕の気持ちのど真ん中を突かれて、僕は子供みたいに「うん」と答えちゃう。

 おかげでイーシアさんのテンションはさらに爆発した。


「フフフ、レンくんと一緒に空中戦艦を動かせる日が来るなんて、夢みたいだわ! さあレンくん! 空中戦艦の動かし方、私がレンくんにみっちり教えてあげる!」


 こうしてはじまった空中戦艦の動かし方講座は、思ったよりふわっとした感じで進められる。


「さて、レンくんに問題よ! 空中戦艦を動かすのに必要なものはなんだと思う?」

「う~ん、知識と技術?」

「ちょっと曖昧すぎる答えね。いい、よく聞いてちょうだい。空中戦艦を動かすのに必要なもの、それは、イメージよ!」

「僕の答え以上に曖昧な答えだよ!?」


 そんなツッコミも、テンションが高いイーシアさんには届かない。

 腕を組んだイーシアさんは滔々と語る。


「イメージは精神によって形作られるもの。そして精神と魔力は同一の存在。だから魔力を動力とする空中戦艦は、操舵者のイメージ通りに動くの。前に進もうとイメージすれば、前に進む。高度を上げようと思えば高度が上がる。宙返りしようとイメージすれば、宙返りする」

「ええ!? こんなに大きな空中戦艦が、宙返り!?」

「イメージに限界がない限り、空中戦艦にも限界はないわ。まあ、無理な動きをしようと思えば、それだけ必要な魔力の量も増えちゃうんだけど」


 どうにも空中戦艦が伝説になるはずだよ。


「ほらほら、さっそく動かしてみましょうよ!」


 ノリノリなイーシアさんは止まらない。

 僕も僕で空中戦艦を操作したい気持ちはノリノリなので、言われた通りイメージしてみよう。


――まずは前進かな。空中戦艦が前に進むイメージ。


 感覚としては、ちょっと重くなった自分の体を前に進めるのと変わりない。

 変わりはないはずなのに、僕の体は動かず、周りの景色が動き出す。


 間違いない。イメージよりゆっくりではあるけれど、空中戦艦が前進をはじめたんだ。


「すごいわレンくん! 空中戦艦、前に進んでるわよ!」


 イーシアさんに褒められて、僕は素直に嬉しい気持ちに。

 だから次は空中戦艦が前進したまま高度を上げていく様子をイメージ。

 すると、眼下に広がっていた廃墟が少しずつ遠ざかっていく。


「今度は上昇ね! うまいわ!」


 なんか思ってたよりうまくいってるよ。

 体内から熱が逃げていく感じは続いてるけど、疲れるほどじゃない。きっと僕の魔力はまだまだ余裕があるんだね。

 よし、どんどんイメージしていこう。


 イメージするたび、空中戦艦はイメージ通りに動き、イーシアさんはテンションを上げる。


「右旋回! 左旋回! 次は降下までしちゃうの!? こんなに早く空中戦艦を動かせるようになるなんて、まさかレンくん、天才!?」


 ここまで褒められると、ちょっと照れてくるよ。

 でも、なんか楽しくなってきた。こんなに楽しい気持ちになったの、いつ以来かな? 

 このまま、勢いで主砲とかも撃ってみちゃおうかな?


 なんて、さすがに贅沢なお願いだよね。

 と思っていたけど、テンション爆発中のイーシアさんは僕の手を取り言った。


「次は戦闘訓練、やってみましょう!」


 お菓子作りでもするみたいな軽いノリに、僕は声を張り上げる。


「ちょ、ちょっと待って!? 僕なんかにいきなり大砲を撃たせて、大丈夫なの?」

「大丈夫に決まってるじゃない! むしろ、私はレンくんに大砲を撃ってもらいたい!」

「は、はぁ……」

「とはいっても、サンラッド上空じゃ廃墟を崩しちゃって危ないわね。場所を移動しましょう。さあさあ、移動開始よ!」

「うん、分かった」


 何もかもがノリと勢いな気がするけど、そういうのも悪くない。

 僕はイーシアさんの案内に従って、空中戦艦を南の方角に前進させた。

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