1—3 空中戦艦と一緒にお風呂に入る話
さすがのイーシアさんも僕のパンツを下げることだけはせず(それ以外は全部脱がされた)、パンツ一丁の僕にタオルを渡してくれた。
まあ、ずっとお風呂なんて入ってなかったし、いい機会かな。
僕はイーシアさんに隠れてタオルを腰に巻き、パンツを脱いだ。
そしてそのまま、イーシアさんにバレないようにお風呂場へ向かったのだけど。
「準備完了ね! さ、一緒にお風呂の時間よ!」
お風呂場の入り口には、体にタオルを巻いただけのイーシアさんが待ち構えていた。
綺麗な肩に長い足、透き通った色白の肌、タオルからのぞく胸の膨らみ。
たった一枚のタオルの下には、イーシアさんの裸が。
自分の視線の行き先に気づいて、僕はイーシアさんから目を背ける。
イーシアさんは微笑んで、僕の背中を押しながらお風呂場へ。
どうしよう、初対面のお姉さん(空中戦艦)と一緒にお風呂に入ることになっちゃった。
「あの……ええと……」
「大丈夫、恥ずかしがらないで。優しくしてあげるから」
「は、はい」
もうその言葉が僕の恥ずかしさを爆発させて、僕の顔は真っ赤だ。
鼓動ばかりが早くなる中で、僕はシャワーの前の椅子に座らされた。
僕の背後にはイーシアさんがしゃがみ込み、シャワーを手にする。
鏡に映るイーシアさんは、濡れたタオルが体に密着し、胸やお尻のラインが裸同然にはっきりと浮き上がっていた。
ダメだ、僕には刺激が強すぎる。
鏡からも目を背け、床ばかり見ていれば、イーシアさんの声が鼓膜を震わせた。
「怪我しているところにお湯、かけるわ。痛かったら教えてちょうだい」
言葉の通り、右脇腹のすり傷にお湯がかけられる。
シェワーの水圧は弱めで、痛みは感じない。むしろ、ちょっと気持ちいいくらい。
優しく右脇腹を洗うイーシアさんは、少しテンションを上げて言った。
「レンくん、せっかくだから頭や背中も洗っちゃいましょう!」
「え? あ、うん」
勢いで答えちゃったけど、初対面のお姉さん(空中戦艦)に頭や体を洗ってもらうのってどうなんだろう。
と思うのと同時、なんだかイーシアさんは上機嫌だし、まあいいかとも思っちゃう。
結果、僕の髪は泡に包まれた。
僕の髪を洗うイーシアさんは、楽しそうに口を開く。
「フフフ、レンくんの髪は長くてキレイね。お顔もかわいいし、女の子みたい」
「よく言われるよ。故郷の村でも、みんなには女の子扱いされてたし」
「女の子扱いされるの、レンくん的にはどうなのかしら?」
「特に気にしてない、かな」
「そう。じゃあ、レンくんにお化粧してあげてもいいわよね」
「どうしてそうなるの!?」
「あら、嫌なの? 残念、かわいくなると思ったのに。まあ、このままでも充分かわいいから、いいんだけどね」
さっきから恥ずかしくなるようなことばかり言われてるよ。
ただ、なんでだろう、僕の心はあったかくなるばかり。まるでお母さんと一緒にいるみたい。
頭を洗ってもらい、背中を流してもらえば、僕たちは浴槽へ。
タオル一枚のイーシアさんが気になって気づかなかったけど、お風呂場はとても広い。もしかしたら故郷の家よりも広いかもしれない。
床やシャワー、浴槽の構造は見たことないものばかり。魔法を使わずに温かくなるお湯も不思議だ。
未知の空間で浸かるお風呂は、でも変わらず気持ちがいい。
「はぁ、癒される~」
「随分お疲れだったみたいね」
「ここ1ヶ月、ひどい毎日だったからね。王国軍をクビになって、仕事を探そうにも仕事の探し方すらわからなくて、お金が尽きて、廃品回収しようと思えばマモノに殺されかけて――」
愚痴っている最中、イーシアさんは再び僕を強く抱きしめた。
タオル一枚で隔てられたイーシアさんの柔らかい体に、僕は包まれる。
イーシアさんは声を震わせ、絞り出すように言った。
「ごめんね、もうレンくんを辛い目に遭わせはしないから」
「い、イーシアさん?」
「大丈夫、私がレンくんを守ってあげる」
「……どうしてイーシアさんは、会ったばかりの僕に、そんなに優しくしてくれるの?」
「私がそうしたいから、よ」
やっぱり、意味が分からないよ。
意味が分からないけど、お母さんのような優しさに、僕は安心してしまう。
変だよね、さっき会ったばかりのお姉さん(空中戦艦)の胸の中で、安心するなんて。
うん、甘えてばかりもいられない。早く地上に戻って、いつもの生活を続けよう。
そう思いお風呂から出ようとしたときだ。イーシアさんが頬を膨らませた。
「こら、レンくん、まだお風呂を出るのは早いわ。ほら、肩までお湯に使って、30秒数えるわよ。はい、1、2、3……」
あれ? そのセリフ、お母さんみたいというより、ただのお母さんだよね。
もしかしてイーシアさん、もう僕のお母さんになっちゃった? 伝説の空中戦艦の意思そのものが、僕のお母さんになっちゃった?
自分が生まれた場所と本当の両親を見つける前に、空中戦艦がお母さんになっちゃうなんて、訳が分からないよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます