1—2 空中戦艦(巨乳)

 勢いで乗り込んでしまった乗り物は、空中戦艦シェパーズクルークに着艦した。

 乗り物のドアが開けば、僕は唾を飲み込み、外に出る。


「これが、空中戦艦シェパーズクルーク……!」


 硬い床を踏みしめ、淡い光に照らされた灰色の空間に包まれ、僕は落ち着きなくクルクルと艦内を見渡した。

 1100年前に作られたとは思えないくらい、艦内はピカピカだ。


 けれども、1100年間も人間の命を守っていたとは思えないくらい、無機質でもある。

 石と木、魔法で形作られた今の文明とは、どこを見ても遠く離れた存在ばかり。


 伝説の空中戦艦にやってきて、僕は憧れと期待と不安に襲われた。


「人って、いるのかな? いるとしたら、旧文明時代の人? でも、1100年間も生きられる人なんていないだろうし、だとしたら誰が空中戦艦を動かしてるの?」


 ひとつ疑問が浮かべば、次々と疑問が浮かんでくる。


 人がいないとしたら、何がいる? 機械仕掛けの人形? 精霊? 天使? 天使さんたちが、容赦無く廃墟を爆破した? それはそれで怖くない?

 葉巻をくわえた過激派天使たちの姿を思い浮かべ、僕は体を強張らせる。


 いや、でも旧文明時代の医療なら、もしかしたらすごい長寿さんがいるかも。となれば、渋くてかっこいい、歴戦の兵士みたいな人がいたりして。

 過激派天使なのか、歴戦の兵士なのか、気になる。


 と、僕が思考をぐるぐるさせる一方で、足元でくつろいでいた野良ネコさんがおもむろに鳴いた。


「にゃ~!」


 どうしたのだろうと思うと、野良ネコさんはどこか一点を見つめている。

 野良ネコさんの視線の先を確認すれば、そこにはひとりの女性が。


 女性は、長い髪を揺らし、優しげな垂れ目で僕を見つめる、少し年上くらいのお姉さんだ。

 ゆったりとした服装の胸元を大きく膨らませた彼女は、まるでお母さんのような雰囲気。


 過激派天使でなければ、歴戦の兵士でもない、意外な人物の登場である。

 僕が言葉を失っていると、お姉さんは笑顔で口を開いた。


「良かったわ! 無事だったみたいね!」


 そう言って笑顔で駆け寄るお姉さんは、躊躇なく僕に抱きついた。

 いきなり抱きつかれて、僕の顔はお姉さんの豊満な胸の中に押し込まれる。 

 柔らかな感触に押しつぶされて、僕の顔は熱くなるばかりだ。


 お姉さんは気にせず、僕の頭を撫でて言葉を続けた。


「マモノに襲われて大変だったわね。でも、もう大丈夫よ。今日から私がレンくんを守ってあげるから」


 あたたかさといい匂いと柔らかさに包まれて、僕は困惑しながらほんわか気分に。

 ただ、やっぱり気になった。


「うん? あの、なんで僕の名前を?」

「フフフ、空中戦艦に見抜けないことなんてないわ」

「え?」


 よく分からない答えに、僕はお姉さんの胸に顔を押し込まれたまま混乱中。

 対してお姉さんは、小さく笑って僕から離れると、人さし指を立てながら自己紹介した。


「私の名前はイーシア。空中戦艦シェパーズクルークのプロテクター・オートマタよ。プロテクター・オートマタっていうのは、分かりやすく言えば、空中戦艦を統括する、空中戦艦の意思そのものみたいな存在ね」

「ほへ?」

「まだ分からないって顔ね。いいのいいの! 細かいことは気にしないでいいわ!」

「はぁ」


 このお姉さん――イーシアさんが、空中戦艦の意思そのもの? 主砲をどっかんどっかん撃ちまくって廃墟の建物を瓦礫に変えたのが、この優しそうなイーシアさん?

 伝説の空中戦艦に乗っていたのは優しいお姉さんで、過激派天使や歴戦の兵士はどこにもいなくて、イーシアさんが空中戦艦の意思そのもので、僕の名前を知っていて。


 ますます分からなくなってきた。混乱しすぎて、今すぐにでも頭を抱えたい気分だ。

 そんな僕の頭を優しく撫でたイーシアさんは、そのまま僕の手を取った。


「さあ! レンくんに空中戦艦を案内してあげるわ!」

「あわわ! いきなり引っ張らないで――痛い!」

「あらあら、ごめんなさい。強く引っ張りすぎちゃったかしら」

「いや、そんなことは……」


 痛みを感じた右脇腹を押さえ、僕は愛想笑いを浮かべる。

 ところがイーシアさんは、僕の服を問答無用で捲し上げた。


「ほえ!?」

「どれどれ……大変! レンくん、怪我してたのね! すぐに治療してあげるわ!」

「僕、傷が治りやすい体質なんだ。このくらいのすり傷なら、放っておけば大丈夫だよ」

「大丈夫じゃないわ! すぐ治ると思って放っておいたら、その一瞬にバイ菌が体に入って、レンくんの体を蝕んでいって……うん、すぐに最高の治療を施すべきね」

「そんな大袈裟な」

「にゃ~」

「ほら! ネコちゃんも心配してる! すぐ治療するから、来てちょうだい!」


 謎の圧力がすごいよ。


 抵抗もできず、僕はイーシアさんに連れられ、空中戦艦艦内を歩く。

 壁に埋め込まれた照明に浮かぶ廊下は、一切の装飾がなく、影ひとつない。

 生物や自然といった雰囲気から離れ、ただただ洗練された艦内の光景に、僕は目を丸くするばかり。


 そうやっているうち、僕はとある部屋に連れてこられた。

 棚や籠、鏡が並び、湯気に包まれた部屋に繋がるここは、もしかして――


「イーシアさん、ここって更衣室だよね?」

「ええ、その通りよ。ここはお風呂場の更衣室。治療の前に傷口を洗っておかないといけないから。さあ、服を脱ぎましょうか」

「へふ!?」


 ちょっと待って! イーシアさん、僕の服のボタンを外さないで! そのまま服を脱がさないで! うわわ、ズボンまで下ろさないで! ああ! このままだと、裸にされる……!

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