エピローグ ふたなりゆーちゅーばー

 薄暗い室内で、私はとある動画を見ている。

『みんな~、性自認してる~?(挨拶) ばーちゃるふたなりユーチューバーのあらいむだよ~』

 PCから垂れ流される映像と音声を、無心で傍受している。

『今日はね~、とある大好きなゲームをプレイしたいと思いま~す』

 大好きな彼女は、壊れそうな私の精神を支えてくれている。天使のような恋人。

 しばらくすると、動画は終わった。何度も見たその動画は、何度見たって私の心をあたたかく落ち着かせてくれる。それはまるで、睡眠前のホットミルクみたいに。

 精神安定剤を摂取し終えた私は、仕事に取り掛かることにした。

 機器の用意をして、パソコンのインカメの前に立った。

 口を開き、おどけながら腕を振る。

『みんな~、性自認してる~?(挨拶) ばーちゃるふたなりユーチューバーのあらいむだよ~』

 私の愛しいあらいむちゃん。

 あまりにも愛しすぎて、私はいつしかあらいむちゃんそのものになってしまった。

 その時に邪魔者との一悶着こそあったが、そんなものは私達の愛の前には些細な問題。

『クリスマスをー、どうせ寂しく過ごしているみんなに~、あらいむサンタからの贈り物だよ~?』

 私には、ボクがいるけれどね。

 でもあらいむちゃんは、私だけじゃなくて、みんなにもやさしい天使だから。

 私はそんな彼を愛していて、だからこそ、今日も。

 ボクは他愛のないお話と下ネタでみんなを笑顔にするために、声を張る。

『めり~くりすま~す! ボクはみんなが素敵な性の6時間を過ごせるように祈ってるからね! ご報告、待ってます!』

 

 十数時間後、ようやく私はその動画の編集を終えた。動画自体は五分程度なのに、その編集に凄まじく時間がかかってしまう。

 そして徹夜で仕上げた動画を、大手動画投稿サイトへとアップロード。

 さらにその旨をSNSで告知する。

 すると数秒でいいねが飛んできて、数分後にはコメントがついている。

 【性自認!!!(挨拶)】【すこ】【更新お疲れ様です】【今週も笑った】【あれ、なんか前より女の子っぽい声になった? もう少しボーイッシュだったような……?】【メリクリ!(憤怒)】【応援してます(*´ω`*)】

 そうしたコメントの数々を眺めつつ、適度に返信をしていく。

 すると、不意に。

 【絶対に許さない。あたしはあなたをどこまでも追い詰める】

 脅迫。紛うことなき脅しのメッセージ。

 目にとまったのはそんなどす黒い文字列。私とボクの仲を裂こうとするアンチの嫉妬。

 見苦しい。

 こんな非生産的なことをしているくらいなら恋人でも探せばいいのに。

 私はまるで理解できないアンチの行動原理を不思議に思いながら、そのメッセージを送ってきたアカウントをブロックした。

 『あらいむのナニ』などという、わけのわからない名前のアカウントを。

 本当に意味がわからない。それはいつでも私のここにあるのに。

 だから。

「ねえ、そうだろう、来夢?」

 あの日から私と一つになった彼に、ボクはそう問いかけた。

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ふたなりVちゅーばーができるまで ふみのあや @huminoaya

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