第65話 ことの終わり・神

 ―――そして気がつくと、神の世界に以下略。


 いつも通りに雲の高台からこちらを見下ろしていたエベクレナは、今回は真っ先にぴょんとそこから飛び降りて、深々と頭を下げてきた。


「今回は……というか、私が最初に話を持ちかけた直後にこの件に関する依頼を請けたわけですから、広い意味で言えば私たちの出会いも含めて今回の一件ってことになるのかもしれませんけど。とにかく、お疲れさまでした。繰り言になっちゃうかもしれないですけど、本当にご迷惑おかけした上に、いろいろお世話になっちゃって……申し訳ありません、本当に」


「いやエベクレナさまが謝ることじゃ全然ないですから。俺としては、不遜な言い方になってたら申し訳ないですけど、むしろ光栄というか……俺なんかでもちょっとでも神々のお役に立てたのかもって思えて、嬉しかったですから」


「え、そ、そうですか? 神々といっても今回いやってほど見苦しいというか、情けないというかな醜態晒しまくっちゃってたと思うんですが……あのどーしようもない元邪神除いても」


「神々の世界の、問題予防対策の脆弱性、ってやつですか? むしろ俺は、それでかえって神々の方々のことを尊敬しましたけど」


「え、へ……えぇ!?」


「だって、本当に、基本的に単純な善意だけで、お互いのことを傷つけもせず、ほとんど問題も起こさず、何千年も世界を正しく運行してきたわけでしょう? それって、本当に、ものすごくすごいことだと俺は思うんですけど。そりゃ、平和に慣れすぎているとか考えが甘いとかそういうことは言えますけど、俺はむしろそれが当たり前の世界を創ることができているってことが、ものすごくすごい気がしますよ」


「え、ぇえぇ……」


「問題予防対策はもちろん大切ですけど。問題が起きた時に誰が一番悪いかっていったら、そりゃ問題を起こした人なわけですし。過剰に気にする必要はないと思いますけどね。俺としては、冒険者としてちゃんと依頼を請けて仕事をしただけですし、それにもいろいろ助力していただいてますし、神々から報酬も渡されてるしで、むしろ感謝してるくらいなんですけど、神々の方々には」


「いやいやいや、それはさすがに心広すぎというか、ほめ過ぎというか……や、その、正直言っちゃうとすんごい嬉しいんですけどね!? 申し訳ない感が多々……というか! 報酬って、私これからそれについて説明するつもりだったんですけど!」


「え? いやだって、もう『幸運』やら『生き延びる力』やら『小さな奇跡』やら、すごい代物をいくつももらってますよね?」


「いやそれは必要経費というか、業務執行に必要なものを支給しただけですから! 今回はこちらの不手際で人次元にんじげんの人たちにご迷惑おかけしちゃったわけですから、きっちりお詫びとお礼の品ぐらい渡しますよ! そうでないとこっちも面子が立たないですし!」


「はぁ……」


 律儀だなぁ、と苦笑したいような想いはあるものの、ロワにとっても、エベクレナたちのそういう誠実さこそが最も好感を抱けるところのひとつだというのも間違いのない事実ではあるので、微笑を浮かべてうなずいた。


「わかりました。で、そのお詫びとお礼の品、というのは……?」


「はい、それについてはですね。ロワくんのご意見をうかがいたいと思うわけでして」


「俺の意見、ですか?」


「はい、というのも渡せる品物というのが――」






「………それでは、これでよろしいでしょうか?」


「あ、はい、その、なんというか、すいません。お礼の品だというのに、あれこれ注文つけたりして……」


「いえいえ! こっちからお願いしたわけですし! せっかく贈り物するというのに、喜ばれない代物渡すとか最悪ですからね! しかもものがものですから、ちゃんと相手が求めてるものを渡さないと!」


「そ、そうですね……あの、これって全員にこういう……質疑応答というか、こんな感じのことを、するんですか?」


「えーとですね、まずロワくんのパーティの面々には私たち……これまでロワくんに会いに来た、私の仲間内って言っていいメンツが応対します。曲がりなりにも加護を与えてる相手なわけですからね。ヒュノくんについても、ロワくんと話したあとちゃんとお話しますよ。まぁ、神次元しんじげん人次元にんじげんの間で話をするわけですから、どうしても自由に会話をする、というわけにはいきませんけど……」


「あ……はい。そうですよね」


 こんな風に、ごく当たり前に会話をするということが、神々の世界の根幹を揺るがすかもしれない大事(の可能性がある)というほどの扱いを受ける事態だということは、ロワもしっかり自覚している。普通の人間は、神々を前にすれば、ひたすらに身も心も平伏して、崇め拝むしかできなくなってしまうのが当たり前だということも。


「ロワくんたちと一緒に旅をした、英雄の人たちについては、彼らに加護を与えてる人たちが直接話をすることになってます。えっと、戦士の人が戦いと慈愛の神ヴォニティアカリマさん、拳士の人が獣と狩りの神ムフィコフィクノムさん……で、前にも話に出ましたけど、エルフ女が円環と精霊の神エミヒャルマヒさんで、魔術師女が術と魔の神ロヴァナケトゥさん、って組み合わせだそうで」


「そ、そうですか」


「……それで、今回の一件で、それ以外でどこが一番被害を被ったかっていうと、強いていうならゾヌという国家そのものってことになるんですよね。英雄の人たちを数兆というお金払って雇ったわけですから。まぁそれができるくらい普段から金を貯め込んでいる、ともいえるんですけど……でもまぁ迷惑をかけたのは確かなので。協議の結果、『失われた技術』ってものを、いくつか授けるってことになりました」


「『失われた技術』……ですか」


「まぁ技術っていってもそこまで大したものじゃないというか、農業での豆知識的な小技とか製鉄業でのワンアイデアとか、そんなもんなんですけどね。でも人次元にんじげんにかつて存在したんだけど、受け継がれずに途絶えてしまった知識だ、っていうのは間違いないです。使いようによってはそれなりにお金になる代物で……それを、『秘するべからず』って縛りをつけた上で、国家首脳陣やら各ギルド幹部やらに、一方的な神託と詳しい情報を記した書類込みでお渡ししました」


「あ、なるほど。それなりに金になるのは確かだけど、いつまでも抱え込んでがっぽり利益を貪ることはできないようにしたんですね。技術の情報を公開せざるをえないから」


「はい。情報を渡した人たちが欲をかかなければ、消費した分のお金を取り戻してちょっと利益が出るくらいには儲かる、と算段がつけられたものだけを渡したので、とりあえず問題はないと思うんですけど……一応そこらへんの塩梅がどうなるかってことは、担当の人がチェックすることになってます。ゾっさんとかもやることになるんじゃないかなー、って話してました。ゾっさんあちこちの土地でいくつも担当地域とか持ってたりするんですけど、ゾヌ近辺が一番メインではあるらしいので」


「そうですか……」


「あとは……そうですね、邪鬼の尖兵に対処した人たちだとか、被害を受けた人たちだとかに、これもやっぱり一方的な神託と一緒に、ちょっとした『幸運』とかを配ったりするぐらいですかね。ぶっちゃけ、直接的な被害というか、死にそうな目に遭ったって人たちが、ロワくんたちしかいないので。他の人はそのくらいでいいんじゃない? って結論になりました」


「なるほど。……あと、ちょっと気になったんですけど。邪鬼ウィペギュロクは、どうなりました? というか、ウィペギュロクが迷惑をかけた人たちというか、転生の許可を出しちゃった人たちや企みに気づかなかった人たちとかの扱いも込みで、この一件が神々の世界でどう決着したのか、できればうかがっておきたいんですけど」


「あー……そうですね、やっぱり気になりますよねー……。……ええと、まずウィペギュロクですけど。彼については基本、ロワくんの提案がそのまま通った感じです。一番迷惑をかけた相手がそう言ってくれてるんだからそれでいいんじゃない、みたいな。毎晩夢の中で召喚して事情聴取しつつ、人次元にんじげんにおける神次元しんじげんの動かせるパシリとして使う、的な。現在は事実上、大陸のどこにでも瞬間移動できるので、どこ担当の人でも使いやすいですしね」


「ウィペギュロクの空間制御能力は、自分で創った能力強化用の術法があってこそですよね。あのあと考えたんですけど、万一ウィペギュロクと同じような能力と魔力波長の持ち主がその術法を手に入れたら、異常なくらいの……それこそウィペギュロクくらいの能力を手に入れられちゃう、ってことなんですよね? そこらへん、問題にならなかったですか?」


「そうですねー……ぶっちゃけ、それがあるとないとではウィペギュロクの使い勝手が劇的に違うので。一応その術法をウィペギュロク以外に使った人がいるかどうか、ってのはチェックする態勢作ってくれてるそうですけど。まぁほぼウィペギュロク以外の誰も使いようがない術法ではあるわけですし、ウィペギュロクの去就がどうなるか決まるまではお目こぼしする、っていう方向みたいです」


「……去就については、まだ定まってない、ってことですか」


「はい。まぁ今現在、彼を人次元にんじげんの存在として扱うべきなのか、神次元しんじげんの存在として扱うべきなのかってところもまだはっきりしてない状態ですからね。技術部の人たちとしても、ロワくん同様、まだデータ集めの段階ってことみたいで」


「そうですか……」


「はい。法律上どう扱うべきなのかってことについては……法務部の人たちも始末部の人たちも、今すっごい忙しいみたいですからねぇ……。朝から晩までひたすら会議会議会議っていう、すんごいハードスケジュールこなしてるみたいで。私たちフェド大陸の神の眷族が、フェド大陸に転生することの是非やら、現在の判例の枠内ではなにを採用するべきなのかとか、新しい判例を作り出すべきなのか、もしそうならどの法律をどう解釈するのがベストなのかとか、そういうクッソややこしいことをえんえんと……」


「た、大変ですね……」


 想像しただけでロワも背筋が寒くなる。その方々にしてみれば、あいまいにすませることができればなんの問題も起きなかったところを、一柱の邪神がその隙をついてきたことで、細部まできっちり改めて細かく定義をし直さなければならなくなったわけだ。ウィペギュロクはさぞ恨まれ憎まれているに違いない。


「そうですねー、聞いた話ですけど、めっちゃくちゃ恨まれてるみたいです。クソ野郎がぁぁ死ね! 悶え苦しみながら死ね! ってぐらいに。でもまぁ、法務部とか始末部って、普段はクソ暇なことこの上ない部署ですからねー。適当にさぼっててもちゃんと神音かねもらえる部署の代表ですから。だからけっこう人気というかやりたがる人いるんですけど、法律関連とかに造詣の深い知的エリートで、かついざという時にはちゃんと仕事をしてくれる、っていうことがわかってる人しか入れないところなんで。働いた分の神音かねはちゃんともらえるわけですし、問題はないと思いますよ?」


「でも、その……始末部、の方々は、給与が削減されちゃってるわけですよね?」


「あー……そうですねー。でも今回の一件でどこが一番責任を取るべきかってなると、ウィペギュロクを除けば、始末部の人たちですからね。そこがちゃんと詳しく調べてくれていて、前例があるからってゴーサイン出さずにきちんと状況を吟味してくれてれば、今回の一件は起こらなかったでしょうから。まぁ、一度転生の許可が下りた神の眷族を、いつまでも神次元しんじげんに置いておくっていうのは、魂の管理的にすごくよろしくないことらしくって、始末部の人たちが一番避けたいことでもあるそうなんで、ある程度情状酌量の余地はあるでしょうけど……」


「…………」


「あ、でも、給与カットっていっても、今後二百年ぐらい一割カット、ってぐらいなんで! 普通に暮らしてる人ならそこまで影響ないですし、気にすることないですよホント! 実労働に伴った神音かねはちゃんと支払われるわけですから、むしろ今回の一件のおかげで懐が一気に温かくなった、って人も多いんじゃないですかね! 普段始末部の人ってほとんど仕事がないから、もっと神音かねがほしいって時にできるような仕事もないそうなんで!」


「そ、そう、ですか。……お気遣い、ありがとうございます」


 気を使わせてしまったな、と頭を下げると、エベクレナは「いえいえいえそんなお気遣いってほどのことは!」と勢いよく頭を振った。そんな仕草もこの方はやたらと可愛らしく美しいが、むしろ美しいからこそその立ち居振る舞いの、容貌に対するそぐわなさが際立つ――のだが、その一生懸命さはエベクレナの一番の魅力でもある気がするので、ロワとしては気にはならなかった。それよりも話を進めよう、と言葉を続ける。


「それで、ウィペギュロクは使い走りとして働かされているそうですけど。なにか問題は、本当に起きたりしてないんでしょうか? 正直、俺もとっさに考えて提案してしまったことなので、神々の世界において悪影響があるかどうか、みたいなことを考えてる余裕がまるでなくて……」


「ぁ、ぁあはいはいそうですね! えっとですね! えっと……ええと。えっと……ウィペギュロクが神次元しんじげんにおいて、悪影響があるかどうか、というのは、まだ、まるでわかっていない状態です。だって、その存在そのものの性質も、まだまともにわかってないんですから。技術部の人たちが地道にデータ採りからやってるって、言ったでしょ?」


「あ……はい」


「その性質も、そもそも人次元にんじげんに置いておいていい代物なのかも、まだまるでわかっていません。まぁ『人次元にんじげんの中で神次元しんじげんの意思を代行する存在』って代物については、一応前例があることもあって、限定した用途に一時的な措置として行うならよし、って判例があるんですけど。彼の行いについては……どう罰を下すべきなのか、どころか下すべき妥当な罰とはなにか、罰を与えるべき罪があるのかってことさえも、決めきれていないんです」


「そう、ですか」


「……動きが鈍いにもほどがあるってお思いでしょうけど、前例のないことですし、少なくとも人ひとりの人生がかかってる話なんで。拙速を選んで取り返しがつかない事態になるよりはいいんじゃないかな、って私としては思うんですけど……」


「はい。そうですね、それでいいと思います。だからこそ、ウィペギュロクを人次元にんじげんで自由に動かせる状態で留め置いたんですよね?」


「はい……まぁ自由というか、行為自体にはそれなりに縛りを課してはいるんですけどね。人格的にあんまり信用できない相手なのも確かですし。法務部の人たちが、資料をひっくり返して法律的に妥当な処置を探し出してくれたそうで……今現在、ウィペギュロクは、行動に『誓約』を立てた状態になってます」


「『誓約』ですか」


 それについてはロワもそれなりに知っている。神に立てる誓いの言葉だ。それを破った時の代償をあらかじめ定め、誓いを果たすための力と成すもの。代償を重くすればするほど、得られる力は大きくなるというが、そもそも神に誓いを立てるなんてことをしておきながら気軽に破れるわけがないので、なんとしても果たすべき使命がある時、それを神に見守っていてもらうために、それなりに高位の司祭を相手に行うのが一般的だ。


「破った時の代償が『苦痛』でして。ウィペギュロクが神次元しんじげんからの指令を無視したり、人次元にんじげんの人を傷つけたり迷惑をかけた場合、指と爪の間に針を突っ込まれたぐらいの痛みが全身を走る、っていうことになってます」


「そ……れは、相当ですね」


「ですよね……私、これ最初に聞いた時、これ考えた人絶対、嗜虐趣味か異常なほどにクソ真面目かどっちかだって思いました」


「ああ、ウィペギュロクのやったことを心の底から許せないと思っている、みたいな……確かにそっちの方かもしれないですね」


「一応ウィペギュロク本人にも了解は得たらしいんですけど。まぁあの人の性格じゃ、目の前のアメを我慢させられてる状態で、契約書の内容吟味したりとかできなかったでしょうけどね」


「アメ……ああ、あの」


 内容の説明がなにを言ってるのかさっぱりわからなかった謎の道具、と内心で言葉にするロワに、エベクレナは予想通り慌てふためき、全力で無理やりに話題を変えた。


「えっええとまぁ、あの人も現在のところは素直に神次元しんじげんの言うこと聞いてくれてるみたいですし! まぁまだ『誓約』立ててから半日ぐらいしか経ってないんですから当然ですけど! とりあえずなにか問題が生じたら改めてお知らせしますので! ええとそれよりもですね! ……そのっ、今回は本当にお疲れさまでしたっ! 心の底から大感謝ですっ!」


 そう言って深々と頭を下げるエベクレナに、ロワはきょとんと目を瞬かせる。


「え、あの……感謝、というと?」


「いやだって、シチュ的に1クール目の終わり、エピローグ前の大盛り上がりってところだったじゃないですか今回? だから私たちとしては、みんなでロワくんたちの様子をうかがいながら、大丈夫なのこれ大丈夫なの!? って狂乱しまくりだったんですけど」


「そ……それは、ご迷惑をおかけしまして……」


「いえそんな気にする必要皆無ですから! 私たち一ファンはどこまでいっても、推しの、眩い星々の生きざまを遠くから見つめて涙する塵芥なわけですし! むしろ本当に頑張ってるみなさんの姿見て、感涙しまくり情緒ぶん投げられまくりでしたし! まぁだからこそ辛いというか情緒が乱高下するあまり真面目に死ぬんじゃこれとか思いましたが、私たちにできるのは推しの戦いを見届けて、そしてここぞという時に全力で加神音かきぃんすること! とお互いに励まし合って乗り切りましたので!」


「そ、そうですか……」


「それでですね! 今回は本当に! パーティメンバー全員にロワくんとの絡みがある、どころかロワくんがぶっちぎりでパーティメンバーと心の交流しまくってくださいましたので! 私としては本当に、ほんっとーに感無量状態でしたから! 感謝と感動の気持ちをお伝えせねば、と!」


「そ、そう、ですか」


 正直、そういう感じのことを言われるんじゃないかなー、とは、最初にカティフと心話状態に陥った時から、なんとなく思っていた。


 不可抗力というかやむをえない仕儀というか、あの状況ではできる限り仲間たちと同調を深めなくてはならなかったし、全員と心話状態にまで至ることができたのは僥倖としか言いようのないことではあるのだが。同時になんとなく、これエベクレナさまたちに喜ばれるんじゃないかなー、と思わずにはいられなくもあったのだ。


 まぁだからといってそれが困るというわけではないし、むしろエベクレナたちに喜んでもらえてよかったな、とも思うのだが。


「くぅっ……推し活を普通に受け容れて、喜んでもらえてよかったとか思ってくれちゃう、推しの心の清らかさ純真さマジ天元突破……! 国宝、世界遺産、いや世界を浄化する天の至宝……! ねぇこんないい子いると思います? いるんですよここに一人な! いい子すぎてマジ泣けてきますよほんとに……!」


「だ、大丈夫ですか?」


「いえ大丈夫です、健康です。終始ときめきで動悸激しくなりまくりで不整脈のごとしですが、精神的には極めて好調です」


「いやそれ大丈夫というか、普通に考えて病気なのでは?」


「いやでもだってね!? あのシチュでときめくなという方が無理だと思うんですよ私! 私本気で別に総盾主義とかいうわけでもないんですよ、むしろ断固として一棒一穴主義を貫く所存というか、順列組み合わせ固定厨ですから! でも今回は本気で感動したというか、世界のみんなが推しを愛してくれているというのがね、もうこれ泣くしか……! カティくんもジルくんもネテくんもヒュノくんも、みんなロワくんのこと大好きすぎかぁ!? と! 私神に甘やかされすぎかぁ!? と!! これ普通にギュマっちゃんにも言われましたからね!」


「は、はぁ……?」


「いやだって今回本当誰も彼もがロワくんのことをね、『今一番大切な相手』とか『自分の一番の理解者』とか『ただ一人素直に応援できる相手』とか思ってくれちゃってるんですもん、もうこれ本当私箱推しになっていいんじゃ? 私の最推しを愛してくれているみんなを全力で推していいんじゃ? と真面目に考えちゃうレベルでしたよ! まぁさすがにこうも厚遇されてる状況下でぬけぬけとそんなことを言いだすわけにもいきませんけどもね、心は真面目に本気で箱推ししちゃいたい気持ち満載でした!」


「そ、そうですか……」


「みんながね、大好きなみんながね、私の最推しのために命懸けて頑張って、最推しを無事送り出すことに全身全霊を注ぎ込んじゃうところとかね、本当にね……!! もう愛としか。愛としか!! 仲間たちの絆が、魂の触れ合いがっ!!! もうこれで世界救えないとか嘘だろ、全員が無事帰れないとか嘘だろ!!! って、どんだけ全力で神音かね加神音かきぃんしてもまだ足りない勢いでねっ! ………」


 本気で涙ぐみながら、満面の笑顔になったりうっとりとしたり力いっぱい語ってみせたり、という感じで全力で感情を投げつけてくるエベクレナの、熱い想いの爆発は、ロワに時間の感覚がまだ残っている間だけでも、一長刻クヤンは続いた気がする。

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