第53話 戦士咆哮
『ヒュノぉ!!!』
絶叫、そして鞘走りの音――それから一瞬ちかりとなにかが光ったような感覚。そのあと、五体のカティフを今にも皆殺しにしようとしていた五体の邪神の眷族の体がぱっくりと裂け、ずるり、と上に載っていた肉が滑り落ちる。
やったのだ、と確信し、五体のカティフは揃って息をついた。なんとかなった。やるべきことはできた。自分のしたことはただの囮役でしかないが、それでも自分に課された仕事を、自分なりにできることでやり終えられた。
いいところは全部年下の仲間どもに持っていかれたが、それでも自分ぐらいは自分を褒めてやってもいいだろう、と安堵と共に胸を押さえ――
硬直する。斬り裂かれた肉の向こうに、うぞり、と肉が蠢くのが見えた。
それも五体すべてに。死体が痙攣するようなものかと一瞬思うが、すぐに自分で否定する。あれは生きたものの動き方だ。
体が緊急事態に反応しようとする前の数瞬で、カティフの感覚と頭はめまぐるしく回転し、結論を出す。『五体の邪神の眷族』と考えられていた敵は、五体ではなかったのだ。
従者時代から何度もやられていた手だ。敵兵を倒したと思うやいなやの横合いからの襲撃。魔物を倒したと思ったら、魔物が体内に入れて護っていた子は生きていて、油断したところに襲いかかってくる。
五体の眷族の中には、それぞれ別の眷族が潜んでいた。外殻の眷族が死ぬまでまるで反応を示さないそいつらは、おそらく邪鬼が万一の時の保険として仕掛けた罠。眷属を殺して安堵した敵を屠る毒針。たぶん、外装となる眷属がどれだけ傷つこうとも、そいつらにはまるで影響がないように、術法で小細工ぐらいはしているはずだ。
そこまで考えたところで――内側の眷属たちが、もぞり、と鎌首を持ち上げた。
まずい。体がまるで反応できていない。完全に不意をつかれた。相手の攻撃に対応できない。つまり、このままでは自分は、やられる。
何倍にも引き延ばされた一瞬の中で、カティフは懸命に突破口を探してあがく。今から逃げられるか? 無理だ、どう考えても向こうがこちらの首を斬る方が早い。新手を自力で倒せるか? できる限りの準備をして対峙した最初の眷族でさえどうにもならなかったのに、不意打ちされた状態でどうやって倒せと? 相手の攻撃を受けてしのぎ、ヒュノの追撃までの時間を稼げるか? 確かにヒュノが数瞬前と同じような一撃をかませば敵は倒せるだろうが、ヒュノもその一撃に全力を集中したはずだ、そこからどうやって追撃を放つ態勢まで持っていけと? どう考えても自分が殺される方が早い。
八方ふさがり。万事休す。なにをどうやっても、自分には死ぬ未来しか見えない。目の前の邪神の眷属どもの攻撃をしのげず、殺される結末以外の道筋などどこにもない。
そんな、なんで、こんなことに、と惑乱し呆然とするカティフをよそに、持ち上げられた鎌首は、わずかな予備動作ののち、閃光の速さでカティフの頭蓋目掛け襲いかかる。そんな、なんで、なんで、とひたすらに繰り返すカティフの中で、一瞬ちらりと、別の思考がよぎった。
『英霊を憑けてもらっても、このざまか。まぁ、俺にはふさわしいかもしれねぇな』
その思考に、言葉に、カティフの心は勝手に深く納得をしてしまう。そうか、そうだな、そうだよな。しょせん俺はこの程度なんだ。英霊を憑けてもらってさえ、他の仲間たちには遠く及ばない程度の力しかないんだ。
どれだけ頑張っても、あがいても、結局のところはこの程度。最初からやらなければ、生まれてこなければよかった程度の雑魚戦士。いてもいなくてもどうでもいい、むしろものを喰う分邪魔扱いされるような、人間様とも呼べない代物。自分はずっとそうだった。故郷でも、流れた国々でも、この依頼の中でも。
だから、もういい。もうしかたない。もうどうしようもない。あきらめて投げ出して途中退場するしかない。だって自分はその程度の役でしかないんだから。世界の脇役にもなれない程度の能力しか、最初から与えられなかったんだから。だから、もう。
――そう脳裏にちらついた囁きに従い、カティフが力を抜きかかった瞬間、それとはまるで別の方向から、まるで別の囁きが脳裏に走った。
『……俺の、特別な相手との仲を、破局させるんじゃ、なかったのか?』
薄く、掠れた、力のない――そしていつも通りに淡々とした声。ロワの声だ、と心の方が勝手に悟る。ついさっき、自分を命懸けでかばう肉の盾になって、吹き飛ばされた、仲間の。
『―――っァぁあアぁ!!!』
絶叫と同時に、無理やり体に力を入れて必死によじる。力を抜きかかったのが逆に向こうに動きを読みきらせない働きをしたのか、五体の分割体は、それぞれ肩の肉を抉られたり、首の血管を斬られて血を噴出さされたり、腕をばっさりやられてほとんどちぎれかけの状態にされたりしながらも、生きていた。全員、かろうじて。
五体すべての心臓が破裂しそうに痛い。当然肩も首も腕も、どこもかしこも死ぬほど痛い。だがそれでも、戦う気力は再燃していた。
そうだ、自分はロワの恋路を破滅させてやるという大仕事がまだ残っている。このどうしようもない馬鹿を死ぬほど叱りつけて、そして頭を下げなくてはならないのだ。命懸けで自分をかばい、一方的に憤懣をぶつけられても怒りもせずに受け入れて、そんな状況じゃないというのに勝手にひたすら落ち込んでいる馬鹿に、真正面から話を聞こうとしてくれた、自分より年下の対等な仲間に。
こいつも自分同様、愚かで力のない世界の脇役だ。だがこいつは、自分のそんな役割に命を懸けた。本来ならまともに扱うことも難しいぐらいにしか習熟していない術式を死に物狂いで発動させ、自分のできることを必死に考えてカティフを助ける肉の盾にまでなった。自分と同様、どうしようもない人生を送ってきたというこいつが、それだけのことをやってのけたのだ。
それなのに自分が。俺が。助けられて護られた側が。途中であきらめて、投げ出して、あっさり退場していいわきゃねぇだろ………!
『うォおオオぉォッ!!』
ろくに力の入らない腕を必死に動かして剣を振るう。盾を押し込む。敵は最初の一撃をかわされたものの、外装からずるりと抜け出て本来の能力を発揮できる形態へ変わろうとしていた。向こうがどう動くにしろ、そのまま変わらせていいわけがない。攻撃を惹きつける精神操作術式を全開にして、血を吐きながら、あるいは反吐を吐きながら、少しでも相手の動きを妨害し、動きを止めることを試みた。
『シャアァァ―――ッ』
『ングゥィィ―――ッ』
敵は呻きながら肉の腕を振り回し、剣を、盾を捌いて受け流し、あるいは叩き返して、カティフの攻撃を跳ね返そうとする。カティフも今にも燃えそうなほど荒い呼吸を整え、目に生気と魔力を送り込み強化して、必死に相手の攻撃を読み、捌いて、攻撃を叩き込もうとあがく。
血と涎と汚物を垂れ流しながら、死に物狂いで相手の動きを抑え込もうとするカティフに、敵は揃って苛立ったように蠢いた。かと思うや、全身がぼんやりと光り始める。英霊の感覚を貸し与えられている今のカティフには、それが魔力を爆発させて広域破壊を行うための予備動作だ、と察しがついた。
広域破壊。避けられない。今からでは逃げようがない。――ロワを逃がすことも、できない。
思考が勝手にそこまで転がって、身体の方が先に反応した。一息に、そして全力で踏み込み、体ごと剣を突き入れる。
ぎゅんっ、とカティフの視界の外から、長く伸ばした敵の触手が、こちらの首めがけ襲いかかってくるのを、強化されたカティフの知覚は感知した。その攻撃速度は、血を流し疲労困憊してふらついたカティフの足での全力の踏み込みなど、話にもならないほどに速く鋭い。
引き延ばされた思考の中で、やられた、と理解する。広域破壊の予備動作で、こちらの防御を忘れた攻撃を誘い、うまくこちらが誘いに乗れば後ろから首を落として終わり。上手いというより、ごくありふれていると称すべき駆け引きだ。
だが、カティフは足を止めず、勢いを鈍らせもしないまま、剣をまっすぐ突き入れた。しっ、と静かに剣閃が空を滑る音が、背中の方で聞こえた気がした。
『ン、ン、ギィァァアァァ―――………』
呻く声は次第にかすれ、細り、空に溶け消えていく。外装だった眷族と合わせ、十体の邪神の眷族の身体が、同時にぼしゅっ、という音を立てて塵に還った。カティフの背後に迫り、延髄を貫かんとした直前に、カティフでない誰かの剣で斬り落とされた肉の触手も、同様に。
自分の剣の先から消えていく邪神の眷属たちを、カティフは呆然と眺める。と、五体のカティフの分割体がそれぞれ揺れ、像が歪んだかと思うや同時に空に溶け消えた――と思った次の瞬間、カティフは一体に戻っていた。さっきロワにかばわれたカティフが立っていたのと同じ場所に、だ。
「っ!! っ、~~~………っっ!!」
反射的に走り出しかけて、激痛がその足を止める。さっきまでの五体それぞれの怪我が一人に集約されたようで、全身が指先に針を差し込まれた時のような痛みを絶叫している。
とても立っていられず、ふらりと地面に倒れ込みかけた――ところを、ひょいと横合いから出てきた腕が支えた。
「ヒュ………ノ」
「おう」
「うっわ、カティすんげー怪我じゃん! 俺思いっきり治癒術式使いまくったのに、あのおばさんやっぱなんかヘマしてたんじゃねーの!?」
「だからお前は! そういうことを言うのをやめろと! 第一これはそもそも怪我の度合いが深刻すぎるんだ! ロワの方は僕がやるからお前はカティをなんとかしてくれ!」
「わ、わかった!」
ヒュノがそっとカティフを地面に横たえさせる間にも、ジルディンは幾度も治癒術式を発動させ、カティフの傷を癒していく。さっきまでも幾度も感じていた心地よい暖かさが、さっきまでよりも強くカティフの全身を包んだ。
「……治るじゃん。もーっ、さっきまで何度も何度もかけまくったのに治せてなかったっていうんで、なんか俺が失敗したんじゃねーかとか思ってたのに! やっぱこれ絶対あのおばさんがなんかヘマしてたんだって!」
「そうじゃねぇよ。これ、たぶん、カティに憑いてた英霊のおかげなんじゃねぇか。錬生術の中に、身体の耐久力っつぅか、斬られても殴られても、傷はついても身体に悪影響が出ねぇようにするっつー術式があんだけど、たぶんそれだ。それを桁外れの技術で使ったんだろ」
「え、ど、どーゆうこと?」
「んー、なんつーかな。人の体って普通、斬られたり突かれたりしたらあっさり死ぬよな? けど、鍛生術を使える奴は、ちょっとずつ身体の性能を上げて、ちょっとくらいの傷じゃどうともならない、っつーか簡単に傷がついたりもしないような身体にできるだろ? 俺らぐらいでも、ちっとくらいはさ」
「そりゃ知ってるけど……それって、長い時間かかるんだろ? 修行とか訓練とか、そーいうのもしなくちゃなんないし。っつか俺らもやらされたじゃん、あのおばさんたちにさー」
「ああ。んで、今回カティに憑いた英霊が使ったのは……まぁ、言っちまえば、身体の予備耐久力、みたいなもんをつけた感じっつーか」
「よびたいきゅうりょく……」
「錬生術で腕力とか足の速さとかを爆上げする代わりに……まぁちったぁそっちの錬生術も使ってたんだろうけど、傷つけられた時、身体がくらう損害を、ちょっとずつ請け負う耐久力の予備をつけたんじゃねぇかな。くらった攻撃のいくぶんかは、きっちり身体に渡す型の術式ってのがまたうまいっつーか。ちまちま損害振り分けて、予備耐久力の方は自前の術式で回復させて、治癒術式はカティの身体自体を治す効果に集中させたわけか。予備耐久力は術で生んだ力だから、回復簡単だもんな。そうでもしなきゃ五つの体の傷が一つの体に集中したら、英霊がいなくなったカティの体じゃ三回死んでもおつりがくるもんなぁ。なるほど、攻撃を惹きつけるのが仕事の英霊か。生き延びることの達人にもなるよな、そりゃ。大したもんだぜ……」
「……なんかよくわかんねーけど。俺、ちゃんと仕事できたの?」
「当たり前だろ? お前がいなきゃカティは死んでたよ。お前の術式の癒す力より、敵の攻撃の方が勝ってたんだからそりゃ満身創痍にゃなってるだろうが、癒す力がなかったらどうあがいても死んでるだろそれなら」
「そっかぁぁー……あーよかったぁ、ほっとしたぁぁ……カティ死なないでよかったぁぁー……」
「なんだよお前、心配してたのか? 珍しーな、お前が他人の心配するとか」
「だって今回カティ本気でヤバかったんじゃん! 死にかけてたじゃん! だったら心配するじゃん! しかもそれが俺がちゃんと仕事できてなかったからかもってなったら、本気でうろたえるじゃん! ヒュノそーじゃねーの!?」
「まー、俺もそんなには違わねぇかな? 最後カティを狙ってる腕の方斬った時は、判断間違えたらカティ死んでたしな。あとからだいぶ冷や汗出たわ」
「こっのやろー、しれっとした顔しやがってムッカつくなー! 言っとくけどお前だって、十万の敵相手にして普通に突っ込んでくとこ見せた時は、俺らからそーとー心配されてたんだかんな!?」
「お、そーなんか。ありがとよ」
「礼言えってんじゃねーから! ムカついてるって話してるから今!」
ぶっ、とカティフは噴き出した。身体の傷がじわじわと癒されてきたので、その程度の余裕はできたのだ。
自分たちから見ればはるか雲の上の天才さま同士でも、上だ下だと意識したり、生臭い感情を抱いたりというところから、完全に自由になれるわけではないらしい。まぁそんなことは最初から、わかってはいたことではあるのだが。
「んっだよカティ、笑う元気あんならちゃんと立てよー! いやいいやまだ完全に傷癒せてないから! もーちょい寝てろバーカ、なんでこんなに傷負って生きてんだバーカ!」
「お前に馬鹿とか言われっと、本気で人生に疑問抱いちまうからやめろ。……おい、ヒュノ」
「ん?」
「お前、最後……なんで、俺を攻撃しかけてる腕の方を斬ったんだ? さっきの口ぶりからして、意識的にやったんだろ、あれ」
英霊を憑けられたとしても、その能力を操るのは本人の意思。次元越しに五つの敵を一閃で斬り倒すのも、意識的に腕を狙うのも、英霊ができるからやってのけられたことではあるのだろうが、そうしようと決めたのは本人の判断のはずだ。
半ば試すつもりで言った言葉に、ヒュノはきょとんとした顔になって首を傾げた。
「へ? あれ、なんか俺の気づいてねぇまずいこととかあったか? 生き延びれたし、取り返しのつかない大怪我とかもしなかったんだよな?」
「そうじゃなくてだな。お前の腕なら、やろうと思えば、本体を一撃で斬り殺すことだってできたんじゃねぇのか?」
「や、できたはできたかもしんねぇけどさ、あの間合いだとカティが死んでただろ。斬り殺しても腕の勢いが止まるわけでもねぇし、あの時のカティ敵殺すことに集中してたから、捌くのはさすがに無理だっただろ?」
「…………」
「カティが本気で敵殺そうとしてんだったら、そっちのとどめは心配しなくていいだろうし。俺は敵の攻撃を弾くことにしたわけだけど……なんか問題あったのか?」
「え……いや、お前なに言ってんの?」
カティフは思わずぽかん、と口を開けて言ってしまっていた。いやだって、こいつはなにを言っているんだとしか言いようがないというか。
「へ? なにが?」
「いや……その……だからよ。なんで『とどめは心配しなくていい』とか言っちまえるんだ? だって俺だぞ? いっくら英霊に憑いてもらってたからって、俺だぞ? 英霊も五分の一の力しか出せなかったんだぞ? それでなんで俺の本気がどうとか……」
「いや、だってお前、本気になったら強ぇじゃん」
「………はぁ!? はぁぁ!? なに言ってんのお前!? なに抜かしてくれちゃってんの!? 本気もなにも、俺が強かったことなんざ、生まれてこの方一度だってないんですが!?」
「は? いやなに言ってんのってのはこっちの台詞だろ。強かったことがねぇって……んなこと言われたら、これまでお前に殺されてきた魔物やら人やらの立場ねぇだろ」
「いやだからってお前、だからって……俺がこれまでどんな扱いされてきたか知っててんなこと抜かしてんのかお前」
「? 周りがカティをどう扱うかと、カティが実際に強いか弱いかってのは全然別の話だろ?」
「い、いや、そりゃそうだが……俺がこれまでどんだけの相手に負けてきたと思ってんだ。それを知ってたら強いなんぞたぁ絶対……」
「だから『本気になったら』って言ったろ。カティって、なんでかは知らねぇけど、ギリギリもギリギリってくらいにまで追い込まれねぇと、本気になんねぇからな。本気、出さねぇのか出せねぇのかは知らねぇけど。第一、負け続けてきたからって弱いたぁ限らねぇだろ。それ以上に強ぇ奴とばっかやってきたのかもしんねぇし……カティみたく、どんな相手にも基本遠慮しちまう質なのかもわかんねぇしさ」
「え、遠慮、って……」
「自分で気づいてなかったのかよ? お前、俺と稽古する時だって、わりと腰引けてるじゃん。そんな状態で強ぇの弱ぇのなんぞ、言えるわけねぇだろ」
「……………」
ヒュノの言い分を、カティフはただひたすらに呆然と聞くしかなかった。無茶にもほどがある思考だと思ったし、そう言うべきだとも思った。こんな自分のことをそうも買っているのは、どう考えても仲間だから見る目が甘くなっている以外にない。それは曲がりなりにも冒険者として飯を食っている以上、直すべき部分だし性質だった。こいつがそんな性質を持ち続けるのは、いろんな意味で、こいつにとって悪い結果しかもたらさない。
だけど。でも。それはわかっている、けれど。
こいつがこんな風に当たり前の顔で。いつものごとく、本当のことを普通に口にしているだけ、という顔で。自分のことをそんな風に、強い、と、他の人間より優れている、と。当然のこととして口に出してくれているのは、本当に。本当に。
「っ………」
「わ、なに頭抱えてうつぶせになってんだよ!? 傷開いたらどーすんだっての! ってかなに突然……あそっか! カティ、ヒュノに褒められて嬉しくなったんだろー! カティってわりといつも自信なさげっつーか、自信悪い方向に満々なのに、ヒュノは同じ前衛なのにすっげーって羨ましがってるもんな! そんな相手に褒められて嬉しくなったんだ、ひゅーぅ!」
「お、そーなんか。だったらもっと早く言ってりゃよかったな」
「だからお前ら少しは奥ゆかしさってもんを学べや!? なんでもかんでもいつもいつでも口にすりゃいいってもんじゃねぇんだぞあぁ!?」
「照っれてやーんの、はっずかしー! っつかカティそれはいいから暴れんなよ、本気で傷が開いちまったらどーすんだっての」
「ああぁぁもぉぉ、こいつらはぁああ!!」
呻き喚き暴れそうになる手足を、さすがに今の状態で暴れたら命が危ない、という大人の判断で必死になだめて、こいつら本気で一回、いや二、三回殺してやる、と怨念をひたすらに増幅する。恨み、呪い、妬み、憎む心を掻き抱き、天才どもは凡人の心がわかりやがらねぇと心の中で呻き喚く。そうでもしなければ、忌々しいことに腹の立つことに、このクソ仲間どもの前で口元が笑ったり、目に涙をにじませたりしてしまいそうだった。
あいつはどうなんだろう、と心の中で、カティフを護るために命を張った仲間のことを考える。あいつにもこんな風に、仲間たちに認められていたことを知って、泣きそうになる時があったんだろうか。
そういう話をしてみたい、とちらりと思いつつも、いや駄目だ恥ずかしすぎるしそんなしょーもねぇ話して誰が得するってんだ、と心の中でぶんぶん首を振る。けれど、結局、正直なところを言ってしまえば、今の自分のこの気持ちを喋りたいと思うのは、参ったことに、自分と同じ目線に立ってくれた上で、自分を護るために命を張ってくれた、あのお人よしすぎる仲間しか、現在のところはいないのだった。
早く戻ってこい、と駆け出していったネーツェが見えなくなった方向を眺めて思う。想いを語るにしろ、実際的な行動に移るにしろ、今の自分たちにはやることが山ほどあるのだから。
――そんなことを考えていられたのはあと数
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