第41話 愛神の選考基準
「ごっめんねぇ、ロワくーん。エベっちゃんってキレるとけっこーめんどくさくってさー」
「い、いえその、そんなことは、ないと……」
「まー上の人直々の命令で拘束されたわけだから、安心してよ。基本アレやられたら、どんな神の眷族だろうが、ガチでまともに動けないしさー」
「は、はぁ………」
「ふぎゅぅうぅぅ!! ふぎぃ、ふぐっ、ふぐぅぅぅう!!」
全身を椅子に拘束されて、猿ぐつわまでされて、身動きのできない状態からも、エベクレナは必死に呻いて暴れて激しく意見を主張する。アーケイジュミンが呼吸するように繰り出してくる下世話な話題の数々に、エベクレナが本気で怒り狂いだすや、以前他の神々(エベクレナと自分の諸問題に対処しているという)から伝言が送られてきた時と同じように、自分たちの目の前に水晶の窓が現れ、つらつらと文章を表示しはじめたのだ。
その文章は要約すると、『情報を得たいのでアーケイジュミンに自由に喋らせるように』という意味のもので、エベクレナは断固としてそれに反駁し、『未成年の人権』やら『未成年を情報の押しつけから保護する義務』やら、謎の言葉を持ち出して真っ向から反論しまくったのだが、『人事部』とやらいう部署に問題解決を取り計らってもらった結果、『我々の法において未成年の人権は保障されるべきではあるが、
それでもエベクレナはあくまで頑なに、アーケイジュミンが下世話な話題を持ち出すことに反発し、結果どこからともなく湧いて出てきた、ゾシュキアの時に使われていたのと同じ椅子と柔らかそうな白い布に、体中をぐるぐる巻きにされてしまったというわけだ。
正直、ロワとしては、アーケイジュミンとの会話がどうこうよりも、エベクレナの様子の方が気になってしかたがなかった。エベクレナが不自由な状態に追いやられているのを見させられるだけでも、充分精神衛生上よくないのに、アーケイジュミンが下世話な話をしようとするたびに、エベクレナが拘束されながらも荒れ狂い、自分たちの間に割り込もうと死力を尽くして暴れ出すのだ。
エベクレナの神としての上司に睨まれたりしないか、という不安もあったし、なにより見ていて気が揉めてしかたがない。エベクレナの体が傷つかないか、とかエベクレナが苦しくないか、とか。そんな状況でのんびりお話する気にはなれず、アーケイジュミンのかけてくる言葉に生返事を返しながら、ちらちらエベクレナの様子をうかがっていたのだが、なぜかアーケイジュミンは唐突に笑い出した。というか、笑うのを必死に堪えながらも、抑えきれない時のような声を漏らした。
「んっぶ! ぶふっ、ぅぶぶっ……ぶっふ、ぶふ、ぶふふっ……」
「……あの、アーケイジュミンさま、なにがそんなにおかしいんですか?」
ぶふぶふ言いながら水晶の窓の向こうで体をくねらせるアーケイジュミンは、そんな姿でもやはり、数々の女神の例に漏れず、美しく麗しくそして色っぽかったが、ロワが声をかけると「ぶっふ!」とひときわ大きな呻き笑いを漏らしたのち、喉の奥で笑い声を噛み殺しながら、真正面からロワと向き合って告げてくる。
「あー、っふ、ごめんねぇ、みっともないとこ見せて? ぶふっ、でも別におかしくて笑ってるんじゃないよ? なんていうか、ぶっふ、エベっちゃんってばもーガチで夢女じゃーん、クッソ可愛いわ、って思っちゃっただけで。ぶふっ」
「ふぎぃっ、ふぐぅっ、ふぎゅうぅっ!! ふぐっ、ふぐっ、ふぐぅぅっ!!」
「……可愛いんですか?」
「うん、マジ可愛い。普段エベっちゃんってそゆとこきっぱりしてるっていうか、
「ふぎゅぎぃぃぃぃ!!!」
「す、好き……ってことはさすがにないと思いますけど」
「あっは、まぁ人間関係に他所から口出すなんて野暮な真似はしないけどさ。まぁ、こんだけ可愛いとこ見せられちゃったら、さすがにちょっとあたしも考慮しないわけにはいかないなー、みたいな?」
「え、ええと……?」
「今回は、エベっちゃん的に下世話な話はできるだけ回避する方向でおしゃべりしよーねってこと。まーあたし的にはぶっちゃけそれちょっとつまんないんだけどさ、この状況でエベっちゃんの心を抉りまくるのもさすがに気が咎めるっていうか」
「ふぐ……」
「そう、ですか。……よかったです」
思わず息を吐きながらそう呟くと、アーケイジュミンはまた「ぶっふ!」と呻き笑いを漏らした。
「いっや、もう、なにもー、ガチだね! いやま、今の段階で冷やかしまくるとか無粋な真似はせんけども! あたし的にはもうお互い素直になってとっととラブってほしい印象!」
「ふぎゅぐぅあぁぁ!!!」
「……? あの、おっしゃってることの意味が、よく」
「いやいやノープロノープロ、気にしないでいいよぉ。とりま、今日は二人でちゃんとおしゃべりしよっか。なんか君からあたしに聞きたいこととかある?」
「えっ……と、そう、ですね……」
そういう風に訊ねられると、答えはもう決まっているのだが。
「じゃあ、あの。言いたくなかったらいいんですけど……カティに、なんで加護を与えようって思ったのか、教えていただけると嬉しいんですけど?」
「へ? ヘタレ筋肉だったからだけど」
『……………』
「は、はい?」
「え、ヘタレ筋肉、わかんない? ほら筋肉にもいろいろ種類あんでしょ? ガチゴリマッチョとか、ガチムチおっさんとか、イケメンマッチョとか、童顔マッチョとか、スポ系スジ筋とか。で、あたし筋肉だったらおおむねどんなのも好きなんだけど、ヘタレ筋肉はそん中でもかなり高ランクにつけてんだよね。わりと周囲からないがしろにされがちで、なにをしても裏目に出がちな、不遇系筋肉兄貴? みたいなとこ?」
「は、はぁ……?」
「ふぎゅ……」
「まぁヘタレ筋肉っつっても、カティくんの筋肉ぶっちゃけまだまだなんだけどさ。あたし的にはヘタレ筋肉って育てたい系筋肉だから、そこらへんはわりとオッケーっていうか。なによりヘタレ筋肉としてのヘタレ具合がよくってさぁ! 一生懸命頑張ってるのにあんまり報われなくて、女子にもモテないし周囲からも下に見られがちだし、仲間は優しいけどみんな才能がすげーからむしろ負い目ばっか感じちゃうし、ってんで自分って駄目だよな的卑屈スパイラルにガンガン入ってくとこが、もう、ドヘタレとしか言いようないっていうか!」
「はぁ……」
「そんでも筋肉兄貴としてみんなを支えようと頑張っちゃうわけよ。ヘタレなのにちゃんと筋肉しようとしてるわけよ。も、このクッソ健気なとこがたまらんそそるっていうかさぁ! これもう筋肉バリッバリに鍛えまくって、性格の根本的なヘタレさ健気さは変わらないままに、心も体もガチマッチョにしてあげるしかないっつーか! みんなを支えられる最強筋肉でかつヘタレという、ステキ兄貴にしてあげたいわけよ!」
「は、はぁ……。はぁ………?」
「んでま、そんな筋肉に育ってくれたあとに、腹筋ぶち破る勢いで凌辱されてほしいっ! ってあたしとしては心底思って」
「ふぎゅぅぁあがぁあ!」
「っと、はいはい! わかったわかったって、言わない言わない。……今回は」
「ふぎゅぎぃぃいぃぃ!」
椅子が揺れる勢いでどっすんばったん暴れるエベクレナをはらはらしながら見守りつつ、ロワは考える。つまり、アーケイジュミンとしては、カティフの育て甲斐があるところを買った、わけなのだろうか。
確かにカティフには気弱というか、繊細というわけではないのに押しが弱いというか、自分の価値を低く見がちなところがある。アーケイジュミンの言うように、パーティの面子が(自分をのぞき)全員才能豊かだから、気後れしてしまうのはわからなくもないのだが。
そんなカティフの心と体を強くして、カティフの人の好さを失わせることなく、パーティを支えられる戦士にしたい、ということか。ゾシュキアの話を聞く限りでは、加護を与える対象への育成欲というか、『自分が加護を与えることで相手を世界を救えるほど強くさせることができる』という可能性は、神々が加護を与える際の、中心となる意欲のひとつのようだから、神としてはごく一般的な思考、と言えるのかもしれない。
やたら『筋肉』に言及しまくるのはよくわからないが。少なくとも、アーケイジュミンは、本気でカティフに加護を与えようとしている、ということはわかった、と思う。
「ありがとうございます。表層的な理解で申し訳ありませんが、とりあえず、納得できました」
「えー、いや別に、表層的な理解もなにも、そんな深い話してないけど……まー筋肉って極めようと思ったらすんごい奥深い、ってのはわかってるんだけどさ、あたしそこまで求道的に筋肉と向き合ってないし……」
「そ、そう、なんですか」
「そうそう! だってこれ趣味の話じゃん? 趣味って楽しんでなんぼでしょ? 自己満足で大オッケー、自分だけしか楽しくなくて全然オッケーでしょ。違う?」
「え、えっと、女神さまの趣味の在り方の是非っていうのは、さすがにわかる自信ないですけど……」
まぁ趣味というのは、確かにそういうものなのかもしれない。今ロワは趣味らしい趣味を持っていないのでわからないが、幼子の頃に意味もなく形が気に入った石を集めていたようなもので……いや、それと一緒にするのはさすがに申し訳ないが。
世界を正しく運行するのは神としての仕事、人間に個人的に加護を与えるのは神の趣味。趣味だから自分が楽しいことを優先する、というのなら、それに対してどうこう言うのは筋違い、という気はする。
「で、他にはない? あたしに質問? できればもう二、三個あると嬉しいんだけど」
「え……なんで、ですか? 俺の質問が、なにか……?」
「いや、エベっちゃんの気持ちを尊重するっつったでしょ? そーいう系の話禁止されちゃったら、話題あんま思いつかなくってさー。君のケツのラインとか太腿の肉感とかうっすら割れた腹筋とか戦士にしちゃ細いのにむちっとした質感のある上腕筋とかだったら、相当語れる自信あるんだけど」
「ふぐぅぅ! ふぎゅぅぅ!」
「……って反応になるじゃん? それ系がダメとなると、どんな話題振っても地雷踏みそうだし、君に話のネタ提供してもらった方がいいかなーって。とりあえず、今日はエンジニアの人たちがオッケー出すまで喋っててくれって言われてるし」
「はあ……」
なんでエベクレナがそこまで嫌がるのかは、わからないが。たぶんエベクレナなりに、自分のことを考えてのことなのだろう、とは思う。なのでロワとしても、アーケイジュミンの意見に反論する気はない。
ただ、これが初対面の相手に、そういくつも質問が思いつくかというと。ゾシュキアの時に、邪鬼やら邪神やらについて、情報を引き出すのは難しい(というより神々自身ですらその情報を持っていない)というのはわかったし。なにか、エベクレナを怒らせないような、それでいて役に立つ質問は――
と眉を寄せつつ考えてから、思いついた。そういえば、このアーケイジュミンという女神さまは、確かこんなことを言っていた気がする。
「あの……それじゃあ、アーケイジュミンさま。ひとつ、うかがいたいことがあるんですけど」
「どうぞぉ?」
「神々が、人間に与えていた加護を止める時って、どういう理由があるんでしょう?」
ロワの質問に、アーケイジュミンはきょとんと目を瞬かせた。
「え……どゆこと?」
「えっと、その、すいません。俺がそんなつもりないのに、エベクレナさまの部屋にやってきちゃった時の話なんですけど。エベクレナさまと、ご友人の女神さまたち……アーケイジュミンさまや、ギュマゥネコーセさま、ゾシュキアさまが話されてたのを、うっかり聞いちゃったことがあって」
「それは聞いてるけど?」
「はい。で、そのお話の中で、アーケイジュミンさまがおっしゃってたことで……その、あんまりはっきり覚えてるわけじゃないんですけど。確か、アーケイジュミンさまは、『加護を与えていた相手が天寿を全うした』って、おっしゃってたような気がして」
「あー……あーあーあー、そういえば言ってた……かなぁ? まぁ、それ、事実ではあるし、たぶん言ってたんだと思うけど」
「それで……ちょっと気になったんです。エベクレナさまとか、ギュマゥネコーセさまも、英霊として呼ばれるような、人間たちに『神の眷族』として扱われる存在は、基本的には、かつて神々から加護を与えられてきて、強い力を得ながら命を失った人間だ、っておっしゃってましたし」
「え、それと質問がどう繋がってるのかわかんないんだけど」
「あ、すいません。その、なんていうか……神々から加護を受けた人間の、終わりってどんなものなのか、っていうのが知りたくて。天寿を全うできる場合ばっかりじゃないと思いますし、与えられてきた加護を取り上げられる、っていう話も聞いたことがある気がしたんで……」
「あー、それでその質問か。なるなる、わかったわかった。まー君にとっちゃ他人事じゃないもんね?」
「はい」
にっこり笑顔で言ってきたアーケイジュミンに、素直にうなずく。少なくとも自分は、ヒュノやネーツェやジルディンやカティフが、ろくでもない終わりを迎えるところなんて見たくはない。
「おー、そこで即うなずくかぁ……ほぉん、ふむ……なるほどね。うん、筋肉兄貴のぶち込み先として、かなり高ポイントな素直っ子だわ」
「え?」
「ぎゅぐぅぅぅ!! ぎゅぎぃぃぅ!!」
「あっごめん、わかったわかった悪かったって。えっと、そーだな。あたしらが加護を止める時、か」
アーケイジュミンは少し考えてから、もの思わしげに首を傾げつつ(そして強烈な色気を周囲に発散しつつ)話し出した。
「まぁ、基本的には、加護って与えるのも取り上げるのも、自由ではあるんだよね。神の眷族の個人的な活動、ってことになってるから。神の眷族としての仕事とは関係ないし。プライベートに口出しするのとかおかしいって、フツーの常識が、
「はい」
「だから、加護を与えてた子が、なんかその神の眷族の、気に入らないことをした、っていうんで加護を取り上げるのは、フツーにあるとは思うよ。だけどなんていうか……その神の眷族が、まともな心と頭持ち合わせてたら、気軽にできることでも、していいと思うことでもない、とも思うかな」
「……神々にとっても、一大事ってことですか?」
「そーだね。だってさぁ、神の眷族っつっても、もともと人間だったんだよ? で、神の眷族になってからは精神面でも肉体面でも老化が止まってるわけっしょ? つまり前世の、人間だった頃の記憶って、普通に鮮明なわけよ。若くして死んだ、みたいなのだったら、子供の頃の思い出もはっきり実感込みで思い出せる、なんてのも少なくないし。最低でも、人間の常識、ってのは……まぁ世界によって常識ってのは違うからさ、ある程度のブレとかズレはあるけど……まぁ自分の嫌なことは人にはしない、みたいな良識は身に沁みて? 痛感できて? るわけよ。
「はい」
「だからね、フツーに、加護を与えられてた人間から、それが奪われるのが、どんだけ人生変えるか、ってのもちゃんと理解できちゃうわけよ。まーフツーに考えて、ズタボロになるよね? 人生。加護を奪われるってのが、
「はい」
「まー、推しが変わるってことは普通にあるし、熱が冷めるっつーのもそりゃあるよ? 心って、変わるのが当たり前の代物なんだからさ。けど、それと加護を奪うってのはイコールじゃない、かな。フツーは推しが変わったって熱が冷めたって、好きだったことさえ消し去りたくなるほど嫌いになる、とかないし。好みが変わるってことはあるだろうけど、好きだった思い出もなんもかんもぶっちぎってなかったことにする、ってのは相当、その推しのやったことが許せない、とかじゃないと。基本、
「………はい」
「気に入らないことがあったら一方的に切っちゃえる、みたいな勘違いできるほど考え幼い神の眷族って、少なくともあたしは会ったことないかな。基本、神の眷族って一回人生終わるまで生きてるわけだから。まー推し欲ってのは理屈じゃないし、燃え上がってた気持ちが落ち着いちゃうことはあるけど、それでもフツーは加護を減らすことはあっても、一方的に打ち切るってことはあんまないと思う。まーあたしらの財源にも限りあるからさ、使える
「そう……なんですか」
「うんうん。基本、加護ある子たちだって、何百年とか生きるまで鍛えまくるってパターンレアなんだしさ。天寿全うするぐらいまで見守っても、あんま負担にはなんないってーか。……まれに、クッソ不本意だけど、自分の推しへの愛が足らなかったのかって慟哭するしかない流れだけど、突然死するパターンだってないわけじゃないしね! マジでもー泣くしかないけど! 不慮の事故的なのだろうがどーしようもない強敵相手だろうが誰かのために命を捨てる的展開だろうがもー、ガチで、マジで、慟哭するしかないけど!」
「そ、そう、ですか……」
やはり基本飄々としたアーケイジュミンも、エベクレナたちに通じるところがないわけではないらしい。それこそ血涙を流すかのような表情に思わず気圧されたが、それだけに納得するだけの説得力はあった。
加護を与えている人間の終わりは、幸福で平和なものであってほしい、というのは神々にとってこそ強く願われることなのだろう。正直、少し、ほっとした。
「ん? なになに? 仲間たちが無事ハピエン迎えられそうでほっとしちゃった? 愛しちゃってるから? 愛する筋肉兄貴たちが幸せに生きられそうで安心しちゃった?」
「ふぎぃぃぃ!!! ふぎゅぃぃィィィ!!!」
「うおっ、エベっちゃん、顔怖い、顔怖い! なんかさっきまでとはまた別方向のすんごい気迫キてんだけど!?」
「え、ええと、幸せに生きられそう、っていうか……まぁ、はい、そうですね。無事生き延びられる確率が、そんなに低くなさそう、って思ったっていうか」
『…………』
「ちょっとさぁ、ロワくんさぁ。君なんか、『無事生き延びられる』対象ん中に自分入れてなくない? 仲間さえ生き延びられれば自分なんてどうでもいい、とか思ってない?」
「え、いや……別にそんなことは、思ってないですけど」
「ほんとにー? いや一応嘘ついてないのはわかんだけどさぁ、なんか無意識に自分は死んでも別にいい、とか思ってそーで怖いんですけど! 言っとくけどエベっちゃんの推しは君なんだかんね、ヒュノくんが生き延びても君が死んだら、エベっちゃんガチ落ち込み確定だかんね! 二人そろって生き延びてくんなきゃ泣くよ絶対!」
「ふぎゅっ! ふぎゅっ!」
アーケイジュミンが口早にまくしたてる言葉に、エベクレナが猿ぐつわされながらも勢いよく、力を込めて幾度もうなずく。その眼差しが真剣で、ロワは一瞬戸惑い、それからどう反応すればいいのか迷って惑乱し、顔をかぁっと熱くした。
「っつか、パーティ全員生き延びてもらわないと困るかんね! エベっちゃんだけじゃなく、あたしら全員そう思ってるし! こんな序盤から仲間死亡とかマジ勘弁だから! いや序盤だろうが終盤だろうが断固拒否、全力で
「は、はい……あ、りがとう、ございます……頑張り、ます」
「お、なに、マジ照れ? うっわやっばこっちまで照れんじゃーん、やっぱ若い子の照れ顔とか推してなくても破壊力あるわー」
「ふぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅ!」
「え、なに、エベっちゃん、羨ましーの? 心配しないでいーよ、あとでちゃんと画像あげるから♪」
「ふぎゅっ!」
「ま、それでも今この瞬間照れ顔向けられてんのあたしだけどね!」
「ふぎゅぎがぁぁぁ!!」
美しい女神たち(片方は猿ぐつわされて椅子に縛りつけられてはいるものの、それでも十二分に美しい)のやり取りに、それこそ照れくさく恥ずかしくなりながらロワは小さくなっていたが、『パーティ全員生き延びて』という言葉に、ふと次の質問を思いついた。女神さまにするべき質問か、というと首を傾げてしまうが、正直意見を聞けるものなら聞きたい問題ではあるのだ。
「あ、あの、すみません、アーケイジュミンさま。次の質問、いいでしょうか?」
「お、なになに? どうぞどうぞ?」
「えっと、こういう質問が不適切だったら、そう言ってくださってかまわないんですが……その、女神の方々は、俺たちの行動……というか、今日どんなことをやったかとか、どんなことを話したか、とか、ご覧になってるわけですよね?」
「うん、バリバリ見てるけど? ログは取ってるけど、やっぱ推してるからには生で見たいし。あー、もちろんプライバシーっつーか、風呂とかトイレとか一人」
「ふぎゅぎゅぎゅぎゅぎぃぐぅ!!」
「……っと、えっと、とにかく君らが『人に見られたくない』って思うようなシーンは、基本見れないようになってるけどさ」
「あ、はい。あの、じゃあ、その、俺たちが話し合ってたこととかも、ご覧になってました?」
「え、話し合ってたって……あ、作戦会議のこと? うんうん、ちょこちょこ見てた。カティくんのヘタレ筋肉兄貴っぷりがっつり出ててよかったよぉ?」
「ええと、カティがどうか、ってことはともかく。作戦会議が、ろくに進展しなかったことも、ご存知なんですよね?」
「へ? うん、まぁ、そうだけど……」
「その、質問というか、相談みたいな形になっちゃうんですけど……できれば、お教え願えませんか。俺たちが、英雄の方々に命じられた条件を満たす作戦って、どんなものがあるんでしょう?」
真剣に見つめながらそう訊ねる――と、アーケイジュミンは「えっ………」と小さく声を漏らしたきり、押し黙った。
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