第14話 女神さま事情談義+
―――そして気がつくと、神の世界にいた。
「………おぉう………」
光に満たされた世界。見渡す限り続く輝く雲海を足下に、陽の光よりも眩しい黄金色の光がどこからともなく降り注ぎ、空気そのものすら娟麗に煌めかせている。
なびく瑞雲は一筋はきらきらしい五色、もう一筋は輝かしい空間を典雅に引き締める紫色。その二筋の雲に挟まれた、雲が高台を形作っている場所に、一人の女性が立っている。
――まさに女神としか言いようのない圧倒的な美貌を歪め、またもどぼだぼ涙をこぼしながら。
「……あのー……」
ずかずかずか、とその女神――エベクレナは高台から駆け下り、反射的に逃げ腰になるロワの手をがっしと両手でつかんだ。そして、祈りを捧げるがごとく膝をついて伏し仰ぎながら、「うおぉぉおぉう!!」と全霊を込めた絶叫を上げる。
「うああぁぁあ! もぉぉお! 本当にもおぉぉ! ほんとそーいうとこ! そーいうとこですよガチで!」
「え、えぇと、どこのことでしょう……?」
「わかってますけど! そーいう人だってわかってますけど! むしろそーいう人だから推せるわけですけど! マジでこっちの情緒ぶん回すの、もうちょっと頻度控えめにしてもらえないですかマジで!」
「え……情緒?」
「だってねぇ! ピンチに立ち向かうのはいいですよ? 英霊召喚術式使うのもいいですよ? でもそこでなんでノータイムで『術式発動させる自信がないから亡霊に近づくために生命力術式につぎ込もう』っていう発想になるんですかマジで!」
「あっ……聞いてた、っていうか見てた、っていうか……すいません、女神さまだから、わかっちゃうんですよね……」
「そうですよ推しとその相手の行動のみならず心境までがっつりわかっちゃいますよ女神でよかった! うぉうぉぅおぅっ……!」
「え……よかった、んですか?」
「当たり前でしょうがっ、こんなもうめったくそな、マジで推したちが死ぬかもって大ピンチシチュで、推したちがなに考えてんのかちーともわかんないまま状況どんどん進んでくとかもう地獄でしかないですよ! いやそんな中でも推したちの心境を必死に読み取ろうとするのは推し活してる以上当然ですけどね、そういうのも楽しくもあるし……でも、それでもっ、辛いんですよぉマジで、うぅぅうぅっ」
「は、はぁ……」
「さておいて! 本当あなたのそーいう自分の命を紙より軽く考えてるとこ、マジでどうかと思いますよマジで! 大好きですけど!」
「は……はぁ、どうも……?」
「わかってない! 可愛い、大好き! そしてそーいう思考の下に、『生命力死にかけレベルまで使うのバレたくないからごまかすためにカティを使おう、魔力もいっぱい使えて倍お得』とか作戦立てて、誰にも気づかれないまま運よく実行しちゃうとかっ! 集中できなくて作戦がおじゃんになりそうな時に、相手がガチで死ぬ気振り絞りながら戦ってくれてるとこ見て自分も死にかけながら頑張っちゃうとかっ! もおぉぉ……ほんと、そーいうとこですよそーいうとこ! 大好きです!」
「あ……りがとう、ございます……?」
「うぅぅっ……うぅっ、うっうっ」
わけがわからないまま泣き崩れられて、ロワはどうしたもんだろうこの状況と頭を抱えたくなった。夢でこの場所に招かれるのは、これで三度目だったと思うが、確かここは神々(自称・神の眷属)にとっては、人間を招くための託宣の間、半ば公的な謁見室として使われている次元だったはず。
この前も、自分がなぜ突然、意図しないうちにエベクレナの部屋へ召喚されたのか調べるために、自分との会話はすべて監視されていると言っていたはずだ。今回もその可能性は高いだろうに、こうも荒れ狂って大丈夫なんだろうか。後から恥ずかしさのあまり、煩悶することにならないだろうか。確かこの前も、似たようなことをしていたと思うのに。
正直、この人には、あんまり恥ずかしい思いをしてほしくない。自分を、そして仲間を助けてくれた、
と、突然エベクレナはぱっと顔を上げ、きっとこちらを睨みつけてきた。
「あの、ですね。そういう……なんというか……こちらを夢女子にしてくるようなこと、言うの、じゃなくて思うの、やめてくれませんか?」
「はい……?」
「いやあのこういう言い方めっちゃ理不尽だってわかっちゃいるんですけどね! 思考にまで口出ししてくるとか何様だとしか言いようがないですし! 私だって正直こういう、サトリ妖怪的な能力フルオープンにしたまんまで
「はぁ……えっと……?」
「ただその……あなたには本当申し訳ないんですけど……神の眷属的な事情で、今後しばらく、何度かあなたをこういう風に、夢の中でこの場所に召喚させてもらうことになってまして、ですね。本当、こっちの勝手な事情で申し訳ないんですけども」
「え、そうなんですか?」
「はい。その、なんで私の部屋に突然召喚されたのかってことが、エンジニアの人たちがどれだけ調べても、よくわからなかったそうで……なので、何度かあなたをここにお呼びして、実験的にあれこれやってみて記録取って、その情報を精査する、みたいなことをしなくちゃならないみたいで。すいません本当に何度も、お手間取らせちゃって……」
「いえ、そんなのは別に気にする必要ないですけど」
深々と頭を下げてくるエベクレナに、ロワは首を振る。心の底から当たり前のようにそう思っているので、言葉にするのはまるで苦ではなかった。
「むしろ、どっちかっていうと、エベクレナさまに直接会ってお礼言う機会作ってもらって、ありがたいくらいですから。その……今回も、たぶん、ヒュノへの加護のために、自分で働いて稼いだ
「えっ、あ……の、それは」
「エベクレナさまは、自分がそうしたいからしてるだけだって、言ってましたけど。だからこそってわけでもないですけど、俺もあなたに、そうしたいと思うから、何度でもお礼が言いたいです。――ありがとうございます、エベクレナさま。俺たちのために、頑張ってくれて」
深々と頭を下げてから、言うべきことが言えたという満足の笑みを浮かべて顔を上げると、エベクレナのだばぁ、と滂沱の勢いで涙を流している瞳と目が合い、思わず反射的に身を引いた。
「あの、ちょ……エベクレナさま?」
「だからもう本当……そういうのやめてくれませんかねぇ……うぅぅっ、もうなんていうか本気でハートに効くんですけど……しかも言ってる本人にはまるで他意がないっていうのわかっちゃうからもう……うぅぅっ。なんかマジで夢女子になって攻略されてる気分っていうかもう……うぅぅ……」
「……あの、よくわからないんですけど。その……そういう気分になると、なにかまずいんですか?」
「当然でしょうが!! 妄想の進捗に重大な影響ありまくりですよ!! いや夢女を否定してるわけじゃ全然ないんですけどね、ぶっちゃけそういうのはそういうので楽しめますし私。ただなんというかですね、こうして推しとがっつり会話できる状態で夢女子化するとか、そっちの妄想がリアルすぎちゃって、私の本領的な妄想に悪影響が出る気しかしなくてですね……マジで痛い方向に驀進しちゃう気しかしないというかですね……わかります!? この恐怖!」
「………はぁ………」
いつものことではあるが、さっぱりわからなかった。
「じゃあ、やっぱり今回も、相当な額の
「あ~……まぁ……いやでもね、本当、今回はしょうがないですよ。だっていきなり邪鬼が十万も眷属かき集めて襲撃させてくるとか、普通ありえないですし。しかもそんな大群に対して、ヒュノくんが一人で突っ込むとか、ちょっと待てよ死ぬだろそれとしか言いようがない状況じゃないですか?」
「そうですよね……もともと少しでも数を削れれば御の字って話だったはずなのに、あいつがあそこまで無茶な突撃くり返してるとか、俺たちも正直予想外で……。すいません、俺たちの仲間がご迷惑を……」
「いや、まぁ、そのね、正直今回もシチュ的には相当キたので、私的にはいいっちゃあいいんですけどね。だってね、もうね、『その他大勢の命を救うために命を懸けることはできないけど、仲間を裏切らないためになら命を懸けられる』とかね。『あいつらに誇れるぐらいのことをしなけりゃ仲間として申し訳が立たない』とかね。もうほんっとなにこのクソデカ感情!? としか言いようのない想いがぼろぼろこぼれだしてですね!」
「え、その、本当にそんなこと言ってたんですか?」
「いや言ってたっていうか思ってたっていうか、無意識も含めた思念のほとばしりを私が意訳するとこういう感じだ、ってだけなんですけど。そんなこと思いながら死にそうな突撃するんですよ、そりゃもう持てる
「うちの仲間が本当にすいません……」
「いやいいんです。最推しを護るために剣を振るう推しのために
「本当にうちの仲間がすいません……」
心底申し訳ない気持ちで頭を下げると、エベクレナはふふっと笑って(そんな顔をするとさすがに女神さまだ、どんな姫君でもこうも精美ではなかろう、というくらいに可愛らしい)、手を振って否定してみせた。
「冗談ですって。本当に、眷属として本望だったって思ってますよ。推しがこんな大舞台で輝くために、その上で生き延びさせるために力を貸せるんですもん。これまで地道に働いて、
「エベクレナさま……」
この人は本当に、どこまで優しいんだろう、と半ば困ったような気分で見つめると、その気持ちを感じ取ってしまったのだろう、エベクレナは顔を赤くして話題を変えた。
「あ~、とですね。えっと、そう、あなたの仲間のみなさんが、全員女神の加護を与えられたのは、ご存知ですよね?」
「はい。ギュマゥネコーセさまと、ゾシュキアさまと、アーケイジュミンさまですよね」
「はいそうです。実はですねー、私彼女たちとは友達でして……」
「ええ。仲良さそうに話してましたよね」
「ええまぁそれなりに長い付き合いなもんで……って、ぇ? ぇえ!?」
突然まじまじと見つめられて、面食らってから先に言うべきことがあったのに気づく。
「あぁっと、その、言うのが遅れてすいません。実はですね、その加護を与えられる前日というか前夜に、俺、夢でまたエベクレナさまの部屋に行きまして……なんていうか、水晶の窓みたいなものに、他の女神さまたちの姿が浮かんで、楽しそうに話されてるところを見て……」
「………………」
「その時はよくわからなかったんですけど、あれって、俺の仲間たちに加護を与える気はないかって、誘われてたんですよね? 話の雰囲気からすると、そういう……加護を与えた奴周りに一緒に加護を与えないか、みたいに誘うのは、女神さまたちとしてもわりとあることなんですよね? まぁ、そういう気配は察しても、翌日仲間たちに本当に加護が与えられたのにはびっくりしましたけど……、エベクレナさま?」
まったく返事をする気配がなく固まっているエベクレナの様子をうかがうように見上げると(エベクレナはロワより少し背が高い)、エベクレナは固まったままぶるぶると震えだし――そして爆発したかのような勢いで絶叫した。
「ちょっとぉぉおぉぉぉ!!!」
「え、は、はい?」
「あなたちょっとあれ聞いてたんですか私たちの話聞いてたんですか!? どこから!? どこからどこまで!? あれですよね聞いたって言ってもさわりだけですよね! 具体的な推せるポイントとかの話までは聞いてませんよね!? そうだと言ってくださいお願いしますなんでもしますから!」
「えっ……どこからって言われても、半ば寝ぼけた状態で、気づいたらエベクレナさまの後ろにいたって感じなので、あんまりはっきりとは覚えてないんですけど……」
「マジで!? 覚えてないんですか!? 私許された!?」
「ええと、黒髪猫耳眼鏡とか、雑食とか、十八筋肉とか……同級生の友情的交流とか……?」
「がっつり聞かれてるじゃないですかぁぁぁ! もう絶望しかないッ!!」
倒れ伏し泣き叫ぶエベクレナに圧倒されつつ、ロワなりに懸命に慰める言葉を探す。
「ええと、どういうことを話してるのかまではよくわからなかったですけど、その、楽しそうだな、とは思いましたよ……?」
「一ミリも慰めになってないですその台詞! うあぁぁヤバい死にたいかなりガチで消えたいですあああ気づかなかった自分マジ呪われろぉぉ!」
「っ、いや、あのっ」
「っっっ………いや、いいです、すいません……いやいいですっていうか、こんな反応されてもあなたとしては困るだけですよね……こっちが呼びつけといてこういう反応とか、人として許されないですよね……すいません、本当、申し訳ないです……」
「え? いや、それは別に……というか、こちらがなにか」
「でもですねっ!? すいません言葉遮っちゃって申し訳ないですけどここは最後まで言わせてくださいッ! どうか、お願いですから、気づいたら私の部屋にいたとかいう状況に陥ったらっ! なによりもまず優先して、私に声かけてくれませんかっ!? 私にあなたの存在を認識させてくださいお願いですから! そうしないと私、マジで生きてられなくなるっていうか生活成り立たなくなりますんで! どうかっ! どうかぁあっ!」
「は、はい……わかり、ました……」
そうとしか答えられないロワに、エベクレナははぁぁぁと深々と息をつき、「ありがとうございます……」と一礼してから、がっくりとまたその場に倒れ伏す。全精神力を使い果たした、というその様子に、ロワは困惑しうろたえ、どうしようどう声をかければいいんだろう、と戸惑った。
この人にこんな顔はしてほしくない。いつも嬉しさや楽しさで満たされていてほしいとは言わないが(それはそれで精神的に辛い気がする)、苦痛や悲嘆に満たされた心でいてほしくはないと思う。この人は自分と仲間たちの恩人で、自分たちのために働いて貯めた貯金が削れても、本望だと笑って言ってくれる優しい人だから。
だからなんとかして慰めたいとおろおろしていると、エベクレナは「もぉぉぉ……」と呻き声を上げてきっとこちらを(赤い顔で)睨みつけてきた。
「ちょっと! だからそういう、天然全力の攻略ムーブやめてくれませんかって言ってるでしょ何度も!」
「え、すいません……攻略ムーブ……?」
「なんかもう本気でわざとやってんじゃないかって疑うレベルですよ! いや思ってることにケチつけられても困るっていう方が正論だと思いますけどね普通に! でもなんていうか何度言ってもそういう、その、優しいとか恩人とかなにかしてあげたいとかそういう、攻略対象がこっちを攻略してくるみたいな台詞脳内吹き出しで伝えてこられるとですね、本気でいい加減情緒が擦り切れると申しますか……!」
「え、あ、すいません。その……こういうこと思われるの、嫌ですか?」
「嫌っていうかですね……夢女子うんぬんというところをおいておくにしてもですね……私的には、フンフン鼻息荒くしながら煩悩丸出しで推し活してる時にですね、推しご本人さまから推し活に心からの感謝の意を表されるとかですね……なんかもう申し訳ございませんでしたぁ! と土下座するしかない気持ちというかですね……ファンサとかとは重みが違うというか……」
「はぁ……?」
「ううう……すいません、私が悪うございました、なんでもないです許してください……うぅっ」
「え、ちょ、ちょっと」
本気の泣き声を上げられ、ロワも思わず困惑と動転の声を上げる。だがエベクレナは倒れ伏して泣きじゃくる格好のまま、こちらを見上げる気配すらない。
どうしよう、これ本気でどうしようと慌てて戸惑いうろたえる――そこに、唐突にポーン! という音が鳴った。同時に目の前に突然ぶんっ、とエベクレナの部屋で他の女神たちを映していたような水晶の窓が現れ、そこにずらずらずらっ、と文章が並ぶ。
「え、なに……『今後の問題対策心得』……?」
1.神の眷属との不本意な邂逅の際には、まず早急に神の眷属と対話し、専門の技術者を呼んでもらうこと。
2.たとえ神の眷属がそちらの存在に気づいていなくてもそうすること。
3.技術者が到着するまでは、部屋の中の物には触らない、弄らない、できる限りなんにもしないようにすること。
4.神の眷属から不本意な扱いを受けた際は、エベクレナとの定期邂逅の際に報告すること。
5.けれどそちらからも変なことはしないこと。
……箇条書きの、やたらと長かったり逆に短かったり、内容がかぶっていたり、語調が妙に子供じみていたりする『心得』の列挙に戸惑っていると、エベクレナがすんすん鼻を鳴らしながらも体を起こし、顔を上げてくれた。
「あ、それ……エンジニアさんたちからの、今後この問題にどう対処していくかってことの、とりあえず考えられる対策……らしいです。今後また私の部屋に現れたり、他の神の部屋に現れたりとか、考えられるいろんな状況に陥った時に、あなたの方にはどう動いてほしいかっていう、心得的な。私が話進めるのに手間取ったせいで、痺れ切らしちゃったみたいですね……」
「……これはつまり、神々……エベクレナさま言うところの『神の眷族』が書かれたんですよね」
「はい、そうですけど……あの、文章力については文句つけないであげてくださいね? エンジニアの人たちって普通理系ですし、常識の違う相手にわかりやすく簡潔な文章で伝えるっていうのは、文系だって何気に難しい仕事ですし……」
「い、いや、文句をつけるつもりはないですけど」
神さまが書いたにしては拙い文章だな、とちらっと思ったのは事実だが。
……そして、以前から何度かちらちら頭をよぎった思考が、また頭をよぎってしまったのも事実だが。
女神そのものの神威でもって自分に接したのは最初だけで、あとは怒濤の勢いでぼろを出しまくってきたエベクレナ。それとさして変わらぬ調子でにぎやかにお喋りしていた三柱の女神。『エンジニア』と呼ばれる人々の記した文章。エベクレナが何度も繰り返し告げた、『自分たちは神ではなく神の眷属である』という言葉。
そういったものから、不遜な考えだと打ち消しはするものの、どうしても頭をよぎってしまうのが――
「……『人間そのものみたい』ですか?」
「っ」
思わずエベクレナを凝視すると、困ったような笑顔が返ってきた。これまで同様、女神の力で心が筒抜けになってしまったのだと理解する。
だが、その笑顔に、怒りや悲嘆の感情は見えなかった。困ったというのも、『心を盗み聞きしてしまって申し訳ないな』という罪悪感くらいからくる反応で、困り果てているというわけではないというのは顔を見ればわかる。
「すいません、横から。ただまぁ、これは一応エンジニアさんにも、私の上司……というか、私の担当区域を含むエリアの仕事の取りまとめをしてる人にも、話していいか念のために確認を取ってることなんで、まぁいい機会かな、と」
「じゃあ……」
「ええ、私たち神の眷属は、みんなごく普通の人間です。……というか、人間でした、ですね」
エベクレナはさらっと、言葉にろくな重みも載せないまま、そう告げた。ロワはどういう顔をすればいいのかさっぱりわからなかったが、とりあえずできるだけ真剣な顔を保って言葉を返す。
「人間、だった……ですか」
「はい。ただ、その……ざっくり言うと、この世界に生まれた人間じゃありません。なんというか……この世界の神の存在しない地というか……要はその、異世界から、死後にこの世界に呼ばれたんです。まぁ……異世界転生っちゃあ異世界転生のうちに入るんですかね?」
「い、せかい? ですか?」
突然出てきた意味の分からない言葉に一瞬戸惑う。だがそれよりも先に聞くべきことがある、とロワは真剣な顔のままエベクレナに向き直った。
「あの……ですね。まず……その、そんなことを、俺に教えてくれちゃってもよかったんですか? なんていうかその、神さまの威厳とかにも関わってくる話なんじゃ?」
「いえ、別に隠してることじゃないですから。服務規定にも『
てへっ、と照れ笑いしてみせるエベクレナに(そんなあざとい表情もおそろしく可愛く見えるのだから、美人というのは得だ)、思わず気圧されながらも、できる限りしゃんと顔を上げて聞くべきことを聞く。
「俺に話しても、神々の威厳が損なわれることはない、って神さまたちの上の方の人は考えられたってことですか?」
「というか……前にも話しましたけど、基本的に、
「そういうこと、確かに前エベクレナさまも言ってましたけど、本当にどんな神々もそう考えられてるんですね……」
「そうですね。もともと一般的な神の眷属たちにはそんな権限が与えられてない、っていうのも当然あるんですけど、モラルとしてそういう理念は一般化してると思います」
「……じゃあ、もう一個だけ、お訊ねしたいんですけど」
「はい」
真剣な視線をエベクレナの瞳にぶつけながら、できる限り自分の想いが伝わるようにと願いながら、心底全力の問いを投げかける。
「――あなたは、女神さまになって、よかったんですか」
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