番外編 リズム篇の補講

 小説を始めたばかりの頃よりかずっと前から信仰に近いくらいに、文章の長さは短くしろと思い込んでいたふしがありました。それは短い文の特性にあるのだと理解したのはさいきんのことです。

 

 ワープロソフトの導入で自分の文章を客観的に見られるようになったのも大きいです。文字数のバランス感覚です。どのくらいの長さの文章を連ねているかがわかります。理想的な数字からみてわたしの文章は短すぎました。読みやすいとはいえません。ここのところ一ヶ月くらいは長い文章を打ってみることに専念しています。理想的な一文の文字数や理想的な句読点までの文字数の数値は決まっていますが、それに囚われる必要はないと思います。

 

 リズムという視点で見るとき大事なのは文章と文章の関係性なのだと理解すればいいのです。短い文章が悪いわけではありませんし長い文章が取り立てて良いわけでもありません。どの長さの文章も価値があると知った上で文章を連ねて構成するのが大切です。「名著から学ぶ創作入門」という本でも書かれています。短い文章が続くのは単調になりすぎます。短い文章は人の注意を引く特性があります。ですから何度も注意を求められるのは人によっては不快ですし良くないかもしれません。まるで壊れたレコードみたいです。


 耳は変化を求めていますから文章の長さを変えていきましょう。文章の長さを変えることで音楽を響かせるのです。旋律やリズムを、ドラムの連打、シンバル大音響を鳴らせて読者の耳を楽しませましょう。


 アーシュラ・K・ル=グィンという作家がいます。彼女はSFとファンタジーの作家として有名ですね。「ゲド戦記」の作家といえばピンとくるひとも多いでしょう。彼女は文章に対してこんな考えを持っていました。どんな文章にも独自のリズムがあり、そのリズムは作品全体のリズムの一部です。そのリズムは歌を鳴らし、馬を走らせ、物語を動かすものです。文章のリズムは当然ですが文の長さに左右されます。


 始めに戻りますがわたしは短い文章への信仰をやや緩めました。そうすることで文章の奥にある神秘にもういちど触れることになります。口や耳の感覚をふたたび蘇らせ原稿に向かってみましょう。なにも複雑なことは言っていません。ただ自然に体の感覚に戻ってみるのです。そうすることであなたの手元にある石は光り輝きだします。いちど歌うように文章を書いてごらんなさい。リズムがリズムを生み、旋律が溢れ出し、わたしたちを幽玄の旅へ誘います。わたしたちはそのとき文章の自由さを知るのです。

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