第5回 文章を考えてみよう(5)リーダビリティ篇

 今回は文章における漢字とひらがな、カタカナの比率の話を書きたいと思います。

 みなさんの原稿をまず見てみましょう。どんな日本語の小説でも漢字・ひらがな・カタカナ・記号で構成されていますよね? ですからこの比率の問題で可読性やリーダビリティを考えようというのが本稿の話題です。

 

 このへんの話は作家の京極夏彦先生がインタビューで語っている記事がインターネット上にはあるので気になる人はそこを参照してみるのがいいかもしれません。基本的に小説を読む際に一般的に知られていることは漢字の部分は読む速度感が落ちて、ひらがなの部分は読む速度感が上がるという点です。つまり文章が目に入り理解するときにそうした字によるタイムラグが存在するということです。

 

 このことから文体をコントロールしようという発想も自ずと出てくると思います。

 

 いきなり上級者テクニックのようなことを書いてしまいましたけれど、読者は無意識に文章から統合的なイメージを脳内で組み立てています。そのとき漢字は「読ませどころなんだ」と無意識に理解していると言えますし、ひらがな・カタカナはむしろ「読ませどころではない」と理解していると言っていいです。なので読んでいて読ませどころの勘が外れたとき読者は「つまんない」と思うと私は推測しています。

 

 では、さいしょから漢字とひらがな、カタカナ、記号の比率を計算しながら書くことはふつうの作者にはできません。推敲しながら何度も読むときに確認しながら書くのがいいですね。

 

 今回は手軽な方法でそういったリーダビリティを上げる方法を検討したいと思います。漢字でも表現できる言葉を、ひらがなで表記することを「漢字をひらく」といいます。この手段をまず取ってみるのがいいです。もちろんやりすぎになるのは問題ですが、まず例を挙げましょう。


「春は名のみの   風の寒さや

 谷の鴬      歌は思えど

 時にあらずと   声も立てず

 時にあらずと   声も立てず」

 

 中田章の早春賦です。この歌詞の文章の漢字をひらきます。


 「春は名のみの   風のさむさや

  谷のうぐいす   歌はおもえど

  時にあらずと   声も立てず

  時にあらずと   声も立てず」

 

 こんなふうに変えてみました。さらに続けます。


 「氷解け去り    葦は角ぐむ

  さては時ぞと   思うあやにく

  今日もきのうも  雪の空

  今日もきのうも  雪の空」


 この歌詞の文章の漢字をひらきます。


「氷とけさり    あしはつのぐむ

 さては時ぞと   思うあやにく

 きょうもきのうも ゆきの空

 きょうもきのうも ゆきの空」



 いかがでしょうか。こんなふうにひらくことだけで文章の印象がだいぶ違いますよね? 文章で遊びながら文章を磨いていきたいですね。


 (今回の歌詞の掲載に関しましては著作権切れの作品を掲載しています。権利者の権利を侵害しないようにみなさんもネットで歌詞をつかうときは気をつけましょう。)

 

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