3話 わたしとお母さんとミミズク (前編)

 帰り学活が終わると綾は急いで教室を飛び出した。綾が学校に行っている間にあの子は目を覚ましているかもしれない。そう思うとなぜか早く会いたくて仕方がなかった。足取りがとても軽い。


 家にたどり着くと綾は家の鍵を出し開ける。そうしてドアを引く、はずだった。開かない。つまりは今綾は鍵をかけたということになる。ドアは空いていたのだ。


 そこで綾はあることを思い出す。両親は共働きであるが、お母さんの仕事はパートで毎週日曜と木曜は休みなのだ。そして今日は木曜日であった。


 綾は立ちすくんでしまった。冷たい汗が滲み出ては落ちていく。こめかみ、頬、顎下、首。体が少し震えてきた頃にはもう汗がどこを流れているかなどわからなかった。いや気にしている余裕さえないと言った方が正しいかもしれない。


 やはり昨日のうちにきちんと話していればよかったのかな、などと後悔してもすでに遅い。


 もう一度鍵を回し、勇気を持って家の中に入る。ここにいれば近所の子達も下校してくるだろう。いつまでもここにいるわけにはいかない。いっそ全てを話してしまった方が楽である。


 家に入るとお母さんはリビングで待っていた。やはりあのダンボールと共に。



「そ その段ボール、何か入ってるの?」


 リビングへ入った綾が発した一言目はそれだった。結局嘘をついてしまった。白々しい嘘である。証拠だって揃っているのに。


 きっと声は震えているし、目も泳いでいてる。お母さんにはとっくに嘘だとバレているだろう。でも、お母さんを目の前にしたわたしは咄嗟に嘘をついてしまった。


 だって、テレビでペットの特集とかが流れるとチャンネルを変えてしまうから。子どもは見てないようで見てるだよ、お母さん。


 そんなことを思いつつ話さない綾に、母はため息をつく。


「嘘を聞きたいんじゃないの。別に怒っているわけじゃないのよ。ただ、野良猫とかって病気を持っていたりするでしょ。一言相談して欲しかったの。」


 そう言われて母を見上げると、心配そうな顔でわたしのことを見つめていた。


「昨日のね おつかいの帰り道にね 見つけたの。」


「雨がね 降りそうだったから、 濡れたら 死んじゃうかもって 思ったから」


 綾はポツポツと小さな声で話し始めた。お母さんはそれをただ静かに聞いていた。


 その時だった。


「ゔぅ…」


 最初は唸り声のような音。


「ここどこだ。」


 次ははっきりと聞き取れた。


 でも聞こえたのは、綾の声でもお母さんの声でもなかった。



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