萌え成分100%の超『てぇてぇ』Vtuberコンビが裏でも仲良く『てぇてぇ』してるなんて思うなよ!? これはビジネス……そう、ビジネスフレンドなんだからなっ!
第4話 V全員に前世があるなんて思うなよ!?
第4話 V全員に前世があるなんて思うなよ!?
エゴサーチ──インターネットで自らの評判を調べるその行為は、極楽への門であり地獄の門である。
応援コメントが目に入れば胸を震わせ今後も邁進しようと奮起出来るが、一方、批判コメントが目に入ってしまったら、その心を抉られ大きな傷が出来てしまう。
人間というものはとても弱い存在であり、百の応援コメントよりも一の批判コメントの方が圧倒的に心を揺らす。
諸刃の剣……どころか持ち手まで刃で出来ている、使い手を傷つける事のみを是とする悪鬼の得物。
だが、それでも現在の自分を客観視して、今後の成長の糧とする為に刃絶対に避けられぬ道であり、あらゆる業界でのし上がろうとする者達はこの行為を行う。
──そんな自傷行為にも等しい、百害あって三利くらいしかない行為を行う者達がここにも居た。
「──そっちはどう?」
「うーんと……概ね大丈夫かな。ちょっと、批判というか中傷コメが付いてるけど」
「あ〜、いつもの人ね。まあ放置で良いわね」
その中で
「う〜〜んっ! こんな所かな〜?」
「もう終わったの? ちゃんと見たのでしょうね?」
「あったりまえでしょ。アタシが『信者』達の言葉を逃す事なんてないって」
スマホとパソコンの画面を行ったり来たりしていた光は、一段落ついたのか大きく伸びをして深呼吸をした。
あまりの作業終了の早さに紫闇は『テキトーにやったのではないか』と疑いをかけたが、そんな事はなかった。
「もうすぐアンタと組んで一年、アタシも大分慣れたってこと」
光は何をしていたのか。それは──コメントのメモだった。
応援批判に関わらず、誰がどんなコメントをしたのかを出来る範囲でまとめていくという事であった。
「貴女、最初の頃なんてキータッチは遅いわ、名前を覚えるのは物凄く苦手だわで大変だったものね」
「う、うるさいっ! こちとら中卒ぞ?」
「ドヤ顔するならそれ相応のセリフを用意してほしかったのだけれど……」
コメントを整理して保存する習慣を持ち込んだのは紫闇、彼女が
その目的は視聴者の名前を覚えることから始まり、自らの改善ポイントのリストアップ、果ては視聴者の『愛』を確認する為であった──愛と言っては漠然としているが、自分の事をどう思っているのか、そのイメージがどう変化していったのかを追う為と言うと分かりやすいかもしれない。
とはいえ、あま天は今やチャンネル登録者数30万人を超える大物コンビ。
その全てに目を向ける事が出来ないのが心苦しいが、それでも止めずに続けているのであった。
「──それで、アンタの方は何か収穫が?」
「あったわよ。また新しいまとめサイトが出来てたわ」
その役割は主にブラウザーで『あま天』や『あまのてらす』、『天乃ルシファ』と検索して新たな情報がないか調査する事だった。
紫闇はその中で見つけた新しいまとめサイトを、ノートパソコンごと光の近くに寄って見せた。
「ん〜っと……『人気上昇中のVtuberコンビ『あま天』の前世は? 年齢は? 徹底解剖!』?」
「まぁ、いつも通りなやつだわ。ある事ない事パラダイス」
紫闇がサイトをクリックすると、そこには非常に沢山の情報が書かれていた。
収入予想から始まり、身長体重などの公開しているもの、そして最後に前世候補として何人か挙げられていた。
──因みに前世とは……あれだ。今のボディを手に入れる前とかそういう……察しの良い方ならこれで分かるよね?
そんなまとめサイトに一通り目を通した光は言った。
「アタシの年齢が30代前半ってどういう事!? こちとら花のティーンネイジャーぞ?」
「いや、ティーンネイジャーって十代だから……。貴女、22でしょ?」
「10も22も変わらんでしょ!」
「いや、大分変わるわよ……」
まだ自分がピチピチの女子であるという自覚と自信を持っている光からしたら、年齢が十も上に間違われているのは我慢ならなかったらしい。
「折角コメント出来るようにしてくれてるし、抗議のメッセージを……」
「──やめなさい。自ら実年齢を晒すなんてバカじゃないの?」
「ん? 今オレにバカって言ったか?」
「オレ……?」
「築地で三代目やってる人のネットミームだよ。それくらい分かってよ」
光のボケに気付けなかった紫闇は小首を傾げた。
それに対して光は怒っていたが、Vtuberに関してであればそこそこの知識があるが、その他のオタク系文化には疎い紫闇には厳しいものだった。
「というか……、三十代って言われている理由は貴女のそういう所が原因じゃない……」
「そういう所?」
「ネタの時代を考えないボケをかます所為ってこと。このサイト、貴女の発言から年齢を割り出しているみたいだもの」
紫闇がスクロールしてまとめサイトの真ん中辺りを表示すると、“てらす”とルシファの発言が纏められていた。
それを見てみると、とてもじゃないが22歳であるとは考えられない──明らかに、一個前の世代に生きていた人間である。
その原因は長きに渡る引きこもり生活で、色々なネタをその頭に吸収しまくっていた所為なのだが……アバターを隔てて触れ合っている視聴者達には分からない。
「それに私達のアバターの年齢設定は人外なんだから、何でもいいじゃない」
「良くない!」
『あまのてらす』と『天乃ルシファ』は天照大神と堕天使ルシファーをモチーフにしている。どちらも神話の存在であり、そこから年齢はうん千歳という事になっている。
故に、大分若く思われているというのは良い事では、と紫闇思ったのだが。どうやら光からしたら違うようだった。
「そもそも、アタシ達に前世なんかないっつーの。世界さんと初めましてだっつーの」
「まあ、私は良いけれどね。前世候補で有名声優さんの名前がちらほらあるし……私の声が良いってことよね?」
「何その
「……こちらもボケたのだからマジレスしないでほしいのだけれど」
光の声優愛が強すぎるが故に、紫闇のボケはマジレスに押しつぶされてしまった。
さっきは自分のボケを理解されなくて怒ったのに──全く、噛み合わないものである。
「あー、イライラするっ! 配信やるよっ!」
「えぇ……こんな時間にゲリラ配信するの? まあ、良いけれど……何をするのよ?」
「ボクシングゲー! マーちゃん、準備お願いっ!」
「しょっ、承知しましたっ!」
今はとにかく身体を動かしたい気分の光は、配信予定なんてなかったのに突然そんな事を言い出した。
そして了承を得てからの行動の速さたるや、普段大きい声を出さないマネージャーさんが思わず大きく返事をしてしまっていた。
「なっぐる〜なっぐる〜、殴り飛ばす〜♪」
配信用の着替えを引っ張り出して、物騒な歌を歌いながら部屋を出ていった光。
それに続いてマネージャーさんも配信の枠を立てたり、3Dトラッキング用のカメラを起動したりと配信の準備をする為に出ていった。
最後に部屋に残された紫闇は、未だに物騒な歌を歌ながらルンルン気分の光を眺めて呟いた。
「──まったく、仕方がないんだから」
表面上は肩をすくめていそうな言葉。
だが、彼女の表情には──不思議と笑みが溢れていたのだった。
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