萌え成分100%の超『てぇてぇ』Vtuberコンビが裏でも仲良く『てぇてぇ』してるなんて思うなよ!? これはビジネス……そう、ビジネスフレンドなんだからなっ!
第5話 ジャージばっか着てるのが悪いなんて思うなよ!?
第5話 ジャージばっか着てるのが悪いなんて思うなよ!?
「──アンタ……そのジャージ以外の服、持ってたよね?」
「何よ、藪から棒に?」
──配信を終えてマネージャーさんにご奉仕されている途中、たまたま紫闇の全身が目に入った光はそんな事を呟いた。
現在の紫闇の姿は
そう、いつも通りではあるのだが、今日は特別に目を引かれる姿だった。
「どうしてそんなに寸の足りていないの?」
「そんなの中学の頃の体操服なんだから仕方がないじゃない。私、当時よりも身体大きくなってるから」
「……当時がどれだけ小さかったんだか。いや、アタシが言えた義理じゃないけど」
紫闇の身長は150cmとちょっとくらい、対して光は150cmに少し届かないくらい。
現在の身長を見ると光の方が小さいのだが、幼少期から一定の身長をキープして現在に至る光は当時であれば中間層ぐらいであった。
身長が伸びて今の大きさになった紫闇と幼少期の身長を比べれば、光に軍配が上がるだろう──だから何だという話ではあるのだが。
「何でそんなジャージを着ているのよ? アンタってジャージだけは無駄に持っているじゃない」
「そりゃ、スティーブ・ジョブズを目指してますから」
「何でそんなにドヤ顔をしているのか、さっぱり理由が分からないんだけど……」
スティーブ・ジョブズは毎日同じ服を着る事で、服を選ぶ時間と労力──無駄を削ぎ落として生産性を向上させていたという。
それと同じ理論で紫闇は何十着ものジャージを買い漁り、毎日それらを着回しているのだった。
ファッション大好きな光からしたらとても考えられない行動だが、何度言っても諦めていた。
とはいえ──
「アンタ、ちょっとクローゼットの中見せて」
「えぇ……面倒なんだけれど」
「良いから見せてっ! マーちゃんもう良いよ、ありがとう」
普段からジャージを着ている姿を見た事はあれども、紫闇のジャージコレクションを見たことはなかった。
だが光は何となく嫌な予感を感じて、くつろいでいた紫闇を立たせてクローゼットまで案内させた。
ファッションマスター光は一度深呼吸をして気分を落ち着かせると、一思いにその扉を開いた──
「……何これ?」
光は想像してた──クローゼットの中で無造作にハンガーに掛けられているジャージ達を。
そうであれば事前に気分を落ち着かせていた分、まだ良かった。
だが、光の視界に映っていたのは──『上着』『ズボン』と書かれた紙がそれぞれ貼られている二つの洗濯カゴがぽつんと置かれている光景だった。
その中にはそれぞれのラベルに沿ったものが煩雑に丸めて投げ込まれていた。
「何で畳んだり、ハンガーに掛けたりしていないの!?」
「ねぇねぇ、知ってる〜? ジャージってハンガーに掛けると伸びちゃうんだよぉ?」
「知らないわよ!」
流石のオシャレマスターもジャージをハンガー掛けしてはいけない事を知らなかったようだ──ハンガーに掛けたら伸びちゃうからねっ♪
豆でしばみたいな口調でそんなマメ知識を披露した紫闇に光はキレた……普段、ジャージに触れる機会がない光には分かれというのは無理な話なのである。
「……というのは言い訳で、単純に畳むのが面倒なだけなんだけど」
「でしょうね……上下でブランドが違う事がよくあったけど、この状況じゃ無理ないわ」
「えへへ〜っ、お恥ずかしい限りで」
「褒めてないけど」
ジャージ大好き紫闇ちゃんだが、ジャージでいるのが一番楽であるから好きなのであり、そのブランドとかには特に興味がない。
逆にブランドを気にしているような性格だったら、多少はファッションが好きであっただろう。
お洒落こそ女の命だと思っている光から半眼で
「それに運試しが出来るのよ? ちなみに今日は当たり」
「これだけ大量のジャージの中から上下ペアを合わせられれば、そりゃ当たりだわ」
洗濯カゴいっぱいに突っ込まれたジャージ達の種類は優に三十を超える。
現在洗濯を回している分を合わせればそれぞれ四十にもなるジャージの上下を、無作為に選んで揃えられる確率はそう高いものではない。
「──それでアンタ、ジャージ以外の服は?」
「……ぽえぽえぽえ〜?」
「はぁ……やっぱりないのね。今までそれでどうしてたのよ?」
「基本外出ないし? 本当に何かあったらスーツ着るし? おしゃんな服なんていらないし?」
シャチみたいなすっとぼけ声を出す紫闇に呆れの表情を隠しきれない光。
だが呆れられた彼女はジャージ以外の私服を、まるで親を殺した仇のように拒んだ。
その姿に光はため息を吐いて、もう一度クローゼットの中を見回した。
そこにはジャージカゴの他に──本来の役割を担えていないハンガー掛け、そしてそこに掛けられた唯一のスーツ……直前に紫闇が話していたものだ。
だが見た感じ、ここ最近で身につけた様子はなく、『ああ、外に出てないんだな』と光に直感させるのには十分だった。
だが。仕方ない。
彼女達
全てを悟った光は再び大きなため息を吐くと、紫闇の方を向いて言った。
「はぁ……。この後予定ないでしょ? 買い物行くよ?」
「えーっ。いかなーい、いらなーい」
「子供みたいな事を……! アタシはあんなの事を想って言ってあげてるってのに」
しばらく外出をしていないと悟った光が紫闇を外に連れ出そうと想った理由。
決して口に出すことはないその理由は──彼女が健康を害しないようにする為だった。
光は紫闇の配信関係以外の生活をほとんど知らないが、大方、ごろごろしながらオンラインクレーンゲームをして、お腹空いたらウーバーして……を繰り返しているのだろうと推測していた。
そんな生活していたら単純に太るし、変な病気にも罹ってしまうかもしれない。
──それは相方として好ましいものではなかった。
だが、口のしなければ何も伝わらない。
何も知らない紫闇は光の好意を
「ところで……さっきから私ばっかりに言ってるけど、もう一人言うべき人がいると思うのだけれど?」
「あ〜……まあ、ね」
反証材料をチラつかせるように、この部屋の向かいでパタパタと動き回って忙しそうにしている『とある存在』を見た。
とある存在とは、そう──マネージャーさんだ。
「けど、マーちゃんはいいよ」
「何でよっ! マネちゃんって、毎日ジーパン
「はぁ……じゃあ見てて──マーちゃーん! お洋服買いに行こー!」
「すみません……この後、先方と会議がありますので」
「そっか! じゃあまた今度ねっ☆」
申し訳なさそうに、しかしどこかの食い気味に彼女の提案を断った。
だというのに、光はすぐに引いて紫闇の元に帰ってきた。
「ほら」
「いやほらって何よ? なんで私に強要するみたいに最後まで食い下がりなさいよっ!」
自分との対応の差に怒る紫闇。
だが光は「チッチッチ」と指を振って説明した。
「まぁまぁ、お姉さん。ちょっと考えても見てくださいな」
「貴女の姉になった覚えはないのだけれど」
「それは良いとして──マーちゃんはアタシ達の『例の計画』の為に動いてくれてんだよ? そんな迷惑かけてる人に無理強いはダメでしょ」
「た、確かに……」
まだ『信者』達には言っていない秘密の計画、三人の中だけの秘密を持ち出されてしまったら納得せざるを得ない。
『じゃあ、仕方がないか』と思ったのも束の間──何かが引っかかったのか、紫闇はすぐに眉を顰めると矢継ぎ早に言った。
「って、私にもいつも迷惑かけてるのだから、無理強いしないでほ……!」
「──じゃあ、しゅっぱーつ!」
「あぁ……聞いてないわね」
──最後まで反論すら言わせてもらえないまま、光に引っ張られて自宅を出たのだった。
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