第2話 巨乳こそが至高だなんて思うなよ!?

「──サマーカラーさん、スーパーチャットてんきゅ〜!」

「テンキュー!」


 スーパーチャット──WeTubeの配信中に視聴者が配信者に、投げ銭のようにお金をぶん投げる事が出来る機能。

 元々がどういう成り立ちか分からないが、スーパーチャット・・・・というのにチャットが付属品になっているアレだ。


 富豪とか石油王とかはそれを利用して大量にお金をぶつけまくり、配信者が慌てふためく様子を楽しむとかいう遊び・・が出来るものであるが……今回は違う。

 現在、あま天こと“あまのてらす”と天乃ルシファは過去の配信に投げられたスーパーチャットのお礼配信を行っていた。


「パープルさん、スパチャありがと!」

「ありがとうございま〜す!」

「あま天ガチ恋勢さん……おっ、これにはちゃんとメッセージが」


 チャットが付属品になってしまっていると言ったが、ちゃんとした・・・・・・チャットが届く事もある──ちゃんとしていないのもある。

 チャットがない──いわゆる無言スパチャや、別配信へのスーパーチャット故に別配信ついて触れている内容が書かれている時などは、基本的に名前と『ありがとう』の言葉だけ。


 だが、時として届くちゃんとしたメッセージが載ったスーパーチャットは別の対応。


「『てらすさん、ルシファさん、いつも配信お疲れ様です』──あたし達が頑張れるのはいつも『信者』達が見てくれているからだぞっ♡」

「『僕はお二人が本当に好きで、どれくらい好きかって言うと好き好き好き好き……って息継ぎなしで百回言えるくらい好きで……』──いや、息継ぎはして! 死んじゃうからっ!」


 ちゃんとした・・・・・・メッセージが付いている時は配信中にしっかり読み上げ、反応をする──それがあま天のお礼配信のやり方だった。


「『まあ百回は嘘なんですが』──って嘘かい!」

「『とにかくとっても好きなので、これからも応援しています』だって♪」


 “てらす”の軽快なツッコミをスルーして、ルシファはスパチャを読み終えた。

 すると、その場で走るみたいにバタバタ足を動かすと、胸の前に手を当てて言った。


「こんなに沢山好きって言ってもらえて、もう胸がいっぱいいっぱいだよっ!」

「“てらす”のおっぱい、ちょーちっちゃいからね♪ 入るものも入らないっ!」

「なんだと〜!? ルシファのと、ほとんど変わらないわい!」

「え〜? じゃあじゃあ、ちょっとこっちに立って?」

「ん……?」


 ルシファはぷんすか怒っている“てらす”の身体を引っ張ってカメラの真正面に立たせた……カメラに向かって身体を横にして。

 その後、彼女はニヤニヤとしながら“てらす”と同じ様に横向きで立った。


 すると──


「ほーら、“てらす”のおっぱいの方が小さ〜い♪」

「──それを見せる為だけに移動させられたの、あたし!?」


✧いや、ルシも小さいけど……

✧てらすはそれ以上にまな板なんだよなぁ

✧まな板vs極小丘、winnerルシファ


 視聴者──『信者』達はどんぐりの背比べに対して無慈悲にも決着を付けてしまった。

 しかし当然、その決着を受け入れられない者が居て……。


「じとぉ〜〜〜っ」


 敗北してしまった“てらす”はジト目でルシファの胸を見つめていた。

 自分の胸を凝視されている事にルシファは──


「何見てるんだよ、ぺったんこ〜っ!」

「ぁなんだとっ〜!!!」


 とある先駆者の言葉を借りて、“てらす”を煽った。

 それに対して憤慨した“てらす”はアニメのようにぽかぽかと相方を叩き出したのが……。


「──けど、そんな“てらす”も好きだよっ♪」

「……ルシファ!」

「「がしっ」」


✧ダチョウな倶楽部かな?

✧てぇてぇなぁ、お金ぽーい

✧便乗して赤をぽーい


 喧嘩状態からキス……ではないが、ハグを交わすあま天。

 下げてから上げる──喧嘩からのてぇてぇに『信者』達も満足なようでスパチャを投げ出した。


「あああっ! あとちょっとで全部だったのに〜。けどありがとっ!」

「ありがと〜。だけど、これはちょっと量が多いかも……」


 あと二、三個で終わりだった所に謎のスパチャ祭り。

 空気を戻そうとしたあま天からしたら完全に棚からぼたもちな状況だが……先駆者ドラゴンを彷彿とさせる程のスパチャの滝に二人は少々戸惑うのだった。


──結局、残り五分やそこらで終わるはずだった配信は追加で一時間伸びたのだった。



 ☀︎┈┈☽┈┈☀︎ ☽┈┈☀︎┈┈☽



「──ねぇ、貴女」

「ん〜?」


 スパチャのお礼配信を終えた“あまのてらす”と天乃ルシファ、もとい夜見紫闇と雷坂光。

 ヘッドマウントディスプレイHMD──VRゴーグルを外した際に崩れてしまった髪を直す光に向かって、紫闇は不満げな声で話しかけた。


「配信上のあれはどういう事よ?」

「あれって? 何かあったっけ?」

「あったわよ!」


 怒鳴り声に近い声を発しながら、髪を直す事に一生懸命で話半分な光のに指を突き立てた。


「──貴女の胸もぺったんこでしょ!?」

「……あ〜、そういう?」


 紫闇がキレている理由をようやく理解した光。

 だけど、やっぱり彼女の意識は髪の毛に行ってしまうらしく……。


「まあ、良いじゃん。ウケてたんだから」


──そうやって、テキトーな返答しか返さなかった。


 怒っている人というのは総じて、相手にされないと更に激昂するもの。

 それは紫闇にも当てはまり、小さな怒りの種火を大火へと変貌させた。


「──貴方のモデルの胸は偽乳ぎにゅーでしょ!」

「ギニュー特戦隊? ナメック星?」

「ちがぁう!」


 いつもであれば爆発する片方の怒りに乗せられて大喧嘩が発生する。

 だが、今日の光は冷静だった──自らの咄嗟の返しに「決まった……」とドヤ顔するくらいには。


「まあアタシのモデルは多少・・、盛ってるけど? そんなの、アンタもやれば良かったじゃん?」


 光の言うように、彼女のアバターは実際の胸AAより多少・・盛ってBカップとなっている。

 故に、リアルもアバターも同じくぺったんAAな紫闇は納得がいってないのである。


「私はやらないわよ。貴女みたいに詐欺したくないもの」

「詐欺じゃないけど〜? あくまで見栄えが良いからですけど〜?」


 『詐欺』と言われて流石に思うところがあったのか、今までの平静さを少し失って顳顬をピクピクとし出した光。

 その変化に勝機を見出したのか、紫闇はニヤリとすると追撃をかけるかのように尋ねた。


「本当は羨ましいんでしょ、大きいおっぱいが?」

「べっつに〜。小さい方が色んなコーデ出来るし? 別にアタシは気にしてなんか……」

「──嘘ね」

「……あ?」


 妙に自信を持ちながら光の返答を否定した紫闇。

 彼女は深く瞬きをすると、ビシッと指を指して言い放った──まるで犯人追い詰める探偵のように!


「だって貴女の家に──いっぱい『育乳グッズ』があるのを知っているのよ!」

「はっ?! 何で知って……いや! そそそ、そんな物はないけど?!」

「ふふっ、やっぱり・・・・そうだったのね」

「……カマかけたの!?」

「かかった方が悪い〜!」


 さっきまでの怒りは何処へやら、見事に光を嵌めた紫闇は大きくガッツポーズをした。

 そのまま、配信の時の恨みを晴らすかのように煽り態勢に移行して──


「隠れて大きくしようだなんて、やっぱり貴女も子供ね〜?」

「ぁなんだとぉ!? アンタとなんて一個しか変わらないけど!」

「その一個が大事なのよ?」

「くうぅぅぅ!」


 20歳と19歳の差であったら大きな差だが、22と23であったらそこまで大きな差ではないのでは……と思うが、平静を失った光では気付けない。

 悔しそうな声を上げながら地団駄を踏み出した。


 そんな様子を気分良さげに見る紫闇は挑発するように、言い返しようのなくなった光は怒った子供のように──


「ひんにゅ〜ちゃん?」

「このぺったん!」


 そう互いの事を言い──


「「──なんだと〜〜?!」」


 結局、二人で仲良くブチギレ合っていたとさ。

 その裏では、おっぱいの大きな・・・・・・・・『とある第三者』が喧嘩する二人を止められずに、今日もワタワタとしていたのだった……。

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