萌え成分100%の超『てぇてぇ』Vtuberコンビが裏でも仲良く『てぇてぇ』してるなんて思うなよ!? これはビジネス……そう、ビジネスフレンドなんだからなっ!

ゆみねこ

第1話 てぇてぇがこの世にあるなんて思うなよ!?

「「──今日も神のご加護があらんことを」」

「太陽神系Vtuberの“あまのてらす”とっ!」

「堕天使系Vtuberの天乃てんのルシファでーすっ!」


──バーチャルWeTuber、縮めてVtuber。


 ポケットなモンスターみたいな始まり方をするが、このコンテンツVtuberについて知っているだろうか?

 せっかくだからちょっと説明させてもらおう。


 インターネット系の超大企業が運営する世界最大の動画共有サービスで、そのユーザー数は約23億人を超えると言われているWeTube。


 そんな動画投稿サービス内で動画投稿を行う者を一般的にWeTuberという。

 その中でも生身ではなく、2Dもしくは3Dのアバターを通して動画投稿・配信活動を行う者達をVtuberと人々は呼んだ。


 ではどうして彼ら彼女らはアバターを被るのか──その理由をひとえには言えないが、アバターには夢と希望が込められているから。言い換えると、誰もが偶像的存在アイドルとなる事が出来るからだ。


 女児になれれば、男の娘にもなれる。シャチにもコヨーテにも天使にも悪魔にもなれる──彼ら彼女らは夢と希望というガワを身に纏り、WeTubeを介して夢と希望を届けているのだ。


 しかしこの夢と希望に満ち溢れたこの世界も、最初から世間に受け入れられていた訳ではない。

 四天王と呼ばれる五人の方々を始めとした、多くの先駆者達によってこの業界は社会に浸透・発展してきたのだ。


 彼ら彼女らの血と汗と涙の結晶は昇華され、今やVtuber界は戦乱の世。

 群雄割拠で戦国時代、先駆者達から夢と希望を受け取った者達が己の野望を果たす為、次から次へとVtuber界へ飛び込んでいった。


 そんな業界で大望を抱えて活動をしている、とある二人の女性Vtuberがいた。

 その名は──『あまのてらす』と『天乃ルシファ』。


──『あまのてらす』はその名の通り、天照大神をモチーフにした太陽神系Vtuber。


 陽光を思わせる金色のストレート髪に、それとは逆に夜を思わせるような瑠璃色の瞳。肩、足が露出している白のキトンに紅色のヒマティオンという想像上の神らしい服を身につけていて、足には靴や靴下はなく裸足で、その代わりミサンガが巻かれている。

 “てらす”の軌跡には光の粒が舞い、世界に希望の光をもたらす様である。


──『天乃てんのルシファ』はこれまた名の通り、ルシファーをモチーフにした堕天使系Vtuber。


 宵闇を思わせる青みの強いすみれ色ウルトラバイオレットのショートボブに、月を思わせる琥珀の瞳。所々破けているが、肩から足先までを隠すようにゴシックロリータ調の紫紺色のドレスと靴を身に纏っていて、左右で若干色の違う紫色のハイソックスを履いている。

 また背中からは破れかけの天使の羽が片方だけ生えていて、頭には漆黒の輪っかが付いている。さながら争いに負け堕天した天使のようである。


 両者ともに150cmに達するか達しないかという身長で、いわゆる幼児体型……ルシファの方は若干胸があるが。

 そんな二人は神と堕天使の異色のコンビ『あまてん』として、WeTubeを介して視聴者──ファンネーム『信者』にてぇてぇを届けているのだった。


「──今日は『愛してるゲーム』をやっちゃうよ〜! きゃ〜、恥ずかしっ!」

「いやいや、まだやってないからね?」

「何を言っているんだね、ルシファ君。我々はこうして話し合って居る最中にも『愛してる』を交信し合っているのだよ!」

「な、何だって〜っ!?」


 恥ずかしいのを隠すかのように手足をバタバタとさせる“てらす”や、驚いているとあからさまに示すように両手を顔の横で開いて身体をのけ反らせるルシファ。


 幼児のようなちんまりとした身体である利点を最大限に活かして、大きく身振り手振りをしてハイテンションで会話を交わす──これが二人の強みだった。

 可愛らしい容姿に元気な動き、これも夢と希望を届ける一つの形であるのだった。


「ルシファ……愛してる」

「ふ……ふふっ///」

「あっ、ルシファが照れた!」

「て、照れてないもんっ」

「じゃあもう一回──愛してるよ、ルシファ」

「〜〜〜〜〜っ、むり〜ッ!」


✧照れルシ最強最高

✧これはてぇてぇ

✧俺達も愛してるぜ〜!


 ぷるぷると震え出したルシファがぽっと顔を赤らめた瞬間、滝のようにコメントが流れ出した。

 そのコメント達はどれもその時その時のあま天の言動に反応している。


──つまり、これはライブ配信という事である。


 あま天のスタイルは配信メイン、勿論、動画を投稿する時もあるが、配信活動よりは断然少ない。

 それはリアルタイムで『信者』達と関わる事をあま天が大切にしているからであった──動画製作が出来る人が居ないという裏話もあるのだが……。


「もう一回! もう一回!」

「え〜、ルシファ弱いじゃ〜ん。もう一回やったところで……」

「──逆立ちしながら言われたら絶対に大丈夫だからっ!」

「……はい?」


✧逆w立wちw

✧逆立ちしながら告白は千年の恋も覚めるわw

✧ルシの天然ktkr


「それじゃあ……愛してる」

「もう一回っ!」

「愛してる……」

「気持ち込めてっ!」

「って、気持ちなんて込められるかあああ!」


 ルシファの指示に素直に従って逆立ちをしながら棒読みで「愛してる」と言っていた“てらす”だったが、突如としてブチギレて逆立ちしたまま足をブンブン振り回した。


「あはは〜、ごめんごめん。許して♡」

「うーん、可愛いし許す!」

「やったぁ! てらす大好きっ!」

「うごぉ……! 急に抱きついてこないでよ……///」


 立ち上がった直後に全力ハグを食らわせてきたルシファに対して、不満を抱いて居るように見せつつも頬を赤く染めた“てらす”。

 すると突如としてそこには『てぇてぇ』が形成された。


✧ぐはッ(尊死)

✧ごはッ(尊死)

✧ぼはッ(尊死)


 よく死ぬ『信者』達の死体がコメント欄に積み上がる。

 コメント欄は今日も阿鼻叫喚であえんびえんだ。


 あま天がてぇてぇを提供して、『信者』達が死ぬ──これがあま天の配信風景。

 夢と希望によって固められた偶像が映す泡沫の夢。理想が詰め込まれた幸せの世界。


 言い換えよう──これが表の『あまのてらす』と『天乃ルシファ』である。



 ☀︎┈┈☽┈┈☀︎ ☽┈┈☀︎┈┈☽



「──台本から大きく外れないでほしいって、何度も言ったと思うんだけど?」

「別に、これくらい許容範囲内でしょ。それにウケも良かったんだから結果的には良かったと思うけど?」


 配信が終わったスタジオ内には、配信上の明るくて高いテンションとは打って変わる剣呑な声が響いていた。

 この声の主は勿論、“てらす”とルシファ──正確には、声の主は『夜見紫闇よみしあん』と『来坂光らいさかひかり』であった。


「あのねぇ……私が逆立ち出来なかったらどうするつもりだったのよ?」

「それはまぁ、どうにかしてたでしょ。逆に面白い……みたいな感じで」

「はぁ……その考えなしに行動するところ、本当に直した方が良いと思うけど?」


 姉の様に怒っているのが“あまのてらす”の所謂中の人──夜見紫闇。

 “てらす”のアバターとは反対に、黒髪のボブカットに紺のジャージと神聖味のカケラもない地味系女子23歳。


「──アンダーマイニング効果って知ってる?」

「は? ブランチマイニング効果?」

「いやそれマイクラ……っじゃなくて、アンダーマイニング効果! やろうと思ってるのにやれって言われたらその気も失せるってやつ」

「だから? もしかして、自分は直そうとしてるとでも言いたいわけ?」

「そういうこと。だから黙っててくれない?」

「はぁ〜〜〜!?」


 チクチクと怒ってくる紫闇に反抗して執拗にキレさせているのが天乃ルシファの中の人──雷坂光。

 これまたルシファのアバターとは反対に鮮やかな金髪を真っ直ぐに伸ばしていて、服装はデニム地のショートパンツとTシャツ、そしてレザージャケットを肩に掛けているオシャレ女子22歳。


 たった一歳しか変わらない精神年齢が同じであるというのに、この二人の性格や特徴はまるで正反対だった。

 それ故にぶつかる事も多く──


「……貴女、その服に幾ら掛けているの?」

「え〜、スニーカーまで合わせたら3、4万くらい?」

「もったいなっ! 服にそんな掛けるだなんて、貴女の気が知れないわ」

「何言ってんの、全然勿体なくなんて無いんですけど。むしろ、年中ジャージで過ごせるアンタの気が知れないんですけど〜?」

「は?」

「は?」


 ヒートアップした紫闇と光の間でバチバチと火花が散る。

 唯一、二人の間に入る事が出来る『とある第三者』もどうすれば良いのかとワタワタしている。


 これが裏の“あまのてらす”と天乃ルシファ──夜見紫闇と雷坂光である。


 そう、これがアバター夢と希望というガワを脱いだ変えられぬ現実。

 現実世界に『てぇてぇ』なんて存在しない……虚構の存在なのである。


──現実になんて夢も希望もありゃしない。だからアバターを被るのである。

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