第2話 小沢さん紅葉狩りの不満

「田吾作よぉ。この前の紅葉狩りは大損だよ」


「なんで、楽しかったんでしょ?」


「車いす押すのが男なのがいけない、半損だよ」


「別に僕、女の人だって言って無いし」

 事業所からグループホームに向かう道すがら、相変わらず小沢さんの車いすを押している。五分ほどの道のり、送る担当になって小沢さんの話し相手としてせっせと働いている。


「で、今度の秋祭りはどうなるんだ?」

 移動支援の企画、移動支援というのはうちでは好評のハイキング行っている。希望の多い場所でのハイキングで汗を流してから、室内で月見団子を作って食べようというディサービスの様な企画だ。小沢さんも毎年上手く団子を丸め、女性ヘルパーから賛辞され、意気揚々と過ごしている。


「どうってどういうこと?」


「ヘルパーだよ。田吾作」


「だから田吾作じゃないって」


「そんな細かいことはいいんだ」


「ヘルパーはまだ決まってないよ」


「若いのか? 年寄りか?」

 今お世話になっている事業所の常勤、非常勤ヘルパーの年齢層は高めで、60歳くらいの女性が多い。ただたまにアルバイトの大学生が来ることもあり、男性利用者だけでなく、女性利用者も浮足立つ。


 小沢さんは大学生アルバイトが来るかと言っているのだ。


「若い人は野田さんと徳島さんが来るよ」

 野田さんは福祉系大学に通う女性の大学生、徳島さんは男性の社会人で休日は手伝いに来てくれる。


 ちなみにここだけの話、野田さんは小沢さんにセクハラを受け、NGが出ている。


「野田は俺のこと好きだからな」


「なんで分かるの?」


「優しいんだよ。あれは好きだな」


「へぇ」


「田吾作はどうなんだ。野田、可愛いだろ」


「可愛いとは思うよ」


「野田か……。今年の秋祭りは頑張るぞ」


「この調子で仕事も頑張ってね」


「おう望むところよ」

 小沢さんは夜、上手く寝ることが出来ないので、仕事中に寝てしまうことがある。


 そこは障害者の生活支援事業所としてフォローは万全なのだが、自分は事業所のエースだと思っているので、少し力を抜いて作業している他の男性利用者を見つけたら、揚げ足を取りまくる。


 だが、女性利用者がつまずいているとニコニコして近づいては職員から注意される。これをどう捉え、どう対応するかは人によって異なる大変難しいところである。

これが小沢さんの『仕事を頑張る』だ。


「ところで、仮に野田さん以外がついたらどうするの?」


「最近特に頑張っているから、野田がつくよ」

 もうそろそろグループホームに着く。あと数メートルで携帯電話が鳴った。


「お疲れ様です。はい、野田さんが来られない、はい、僕が代わりに、分かりました」

 野田さんの話が出たのが聞こえたようだ。小沢さんの落ち着きがなくなった。


「野田がなんて?」


「野田さん来られなくなったって」


「え?」


「あっ、ただいま」


「小沢さんおかえり」

 グループホームに着き、池波さんへの引継ぎが始まる。


「今日も元気に過ごされていました」


「で、ヘルパーは誰になるんだ。田吾作」


「じゃ後はこちらで」


「よろしくお願いします」


「田吾作、俺のヘルパーは誰だ」


「お疲れ様です。さよなら」


「おい田吾作、田吾作」

 小沢さんの呼びかけを笑顔で返し、帰路につく。制度上、ヘルパーが決まった後にチェンジは出来るし、グループホームに残ることも出来るのだが、さてどうなるかことやら……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る