第67話邪魔する彼女

 夏樹との同棲準備はあっという間に済んだ。

 こうして、本格的に同棲が始まったのだが……。

 夏樹がちょっとお疲れモードに入ってしまった。

 それもそのはずで、留学から帰ってきてから少し経った今、張り詰めていた糸が切れない方がおかしいくらいだしな。


 夕暮れ時、トイレとごはんの時以外はベッドにいた夏樹に言う。


「最近、怠け者だな。友達とかと遊びに行けばいいのに」

「留学して貯金もなくなったし、同棲準備でお金を使ったからね……。高校生みたく、ただただお金を使わないで駄弁るだけってのはできないし」

「夏樹の仲のいい友達ってゲームとかもしないし、本当に遊ぶってなるとお出かけかカラオケだもんな」


 小さい頃は遊びに行くのにはお金はかからなかった。

 だがしかし、年齢を重ねれば重ねるほど遊び=お金を使うになってしまった。

 それがなんかちょっと寂しいような気がした俺は夏樹に小さい頃のことを聞く。


「夏樹はさ小さい頃はどんな風に友達と遊んでたんだ?」

「小さい頃は普通にゲームしたり、見たアニメの話したり、なりきりごっこ遊びとか、人形でおままごと」

「ま、そんなもんだよな」

「湊はなんか友達としたくだらない遊びとかないの?」


 と言われたので、小さい頃に友達としたくだらない遊びを思い出す。

 その中でも一番くだらなかったのは……。

 ああ、あれだな。


「トイレに行こうとする友達を妨害する遊びだ。ちなみに、ガチで漏らした子が出て俺も含めた複数人がガチで怒られた」


 いまからしてみると割と最低な遊びだ。

 あの頃は本当に善悪の区別が曖昧だったなぁ……と反省しかない。

 ちなみに、別に面白い話でもないし夏樹の顔は普通そのものだった。


   ※


 だらだらと夏樹と過ごしていたときだった。

 ちょっとトイレに行こうかなと思っていたら、ベッドで寝ていた夏樹がいきなり俺に抱き着いてきた。


「どうかしたか?」

「別に甘えたくなっただけ」


 猫のように気まぐれに甘えてくる夏樹。

 夜はすごく甘えてくるが、それ以外は結構まばらな頻度である。

 ゆえに、甘えてきたらそれを可愛がらないというのはあり得ない。


「今日はスマホでずっと何を見てたんだ?」

「ヨーチューブショートの動画をひたすらに見てたかな」


 背後から俺に抱き着いてきた夏樹はひたすらに俺にべたべたと触れてくる。

 エッチなことをしたいといんじゃなくて、ただ単にぬくもりというか手持ち無沙汰を解消するかのように。

 こういうだるい絡まれ方は嫌いじゃないし、俺も夏樹にダル絡みすることにした。

 背後から抱き着く夏樹の脇腹をさわさわして見たり、夏樹の手をにぎにぎとしてみたり、そーっとくすぐるようにフェザータッチをして。

 で、程なくして俺に抱き着くのに飽きたのか、夏樹は俺から離れる。


「満足したか?」

「してないよ」


 といって、夏樹は今度は胡坐をかいて座っている俺の上に座り、俺に寄りかかる。

 そして、夏樹は俺に甘えながらスマホで動画を見始めた。

 前後交代か……。

 なんて思いながら、俺を椅子扱いする夏樹に軽くちょっかいをかけながら、夏樹が見ている動画を後ろから一緒に見る。

 

 で、20分くらいが経ったころだろうか。


 足がしびれてきたし、そういえばトイレに行こうと思っていたことを思い出す。

 もはや定位置と言わんばかりに胡坐をかいた俺に座っている夏樹をどけようとするも、夏樹はそれを拒んだ。


「私とくっついてるの嫌?」

「いやじゃないぞ」

「そ、ならよかった」


 といって、夏樹はさらにさらに俺に引っ付いてきた。

 だいぶ足もしびれてきたが、もう少しだけ付き合ってあげるか。

 で、5分後。

 さすがの俺も我慢の限界がやってきた。


「トイレ行かせてくれ」


 べったりとくっついてきている夏樹にそう言うも、夏樹は無視だ。

 全然、俺から離れようとしない。

 俺への好感度ゲージがマックスを振り切れて、俺の言うことをなんでも聞くようになったものの、ときたま戯れでこういう意地悪いところがあるのも夏樹の可愛いとこだよな。

 ニヤニヤしながらも、俺は夏樹をどけようとする。


「ほら、すぐ戻ってくるから」

「……ダメ」

「いやいや、ほんとだってば」


 まだ俺の顔は笑顔に溢れている。

 しかし、事態は一変した。


「トイレには行かせないよ」

「ん?」

「湊が小さい頃に友達をトイレに行かせない遊びしてたっていうから、私もしてみようかなって」

「……執拗に甘えてきた目的はそれか?」


 頬を引き攣らせながら夏樹に聞いた。

 俺に座っている夏樹は、俺に動くなと言わんばかりにぐりぐりとおしりを擦り体重をかける。


「くっ、ただ甘えてきて、彼氏がトイレ行くのもちょっと邪魔しちゃうようなカワイイ子だと思ってたのに性悪な魂胆が隠れてたとはな……」

「こういうの嫌いな感じ?」

「いいや、普通に小悪魔っぽくて好き。けど、あれだ、本当におトイレに行かせてほしい。マジで我慢の限界が近いからさ……」


 どうせ、夏樹のことだ。

 そう簡単には俺をトイレには行かせてくれないだろうが頼んでみた。

 しかし、俺の考え通りで夏樹は意地悪だ。


「それが人にものを頼む態度?」

「……はぁ。何がお望みで?」

「好きって言って」


 意地悪な彼女の要求は可愛らしかった。

 俺はニヤニヤとしながら、夏樹に正々堂々という。


「こういう意地悪いところとか本当に大好きだ」

「そ、私もこういうお遊びに乗ってくれるところ好きだよ」


 なんてイチャイチャしてるのだが、本当に膀胱の限界が近い。

 てか、あれだ。

 薬を飲んでるし、もうほぼ治ったも同然で痛みもないから忘れてたけど……。


「夏樹さん。俺、膀胱炎だったような気がするんですけど……」


 俺がトイレを我慢するのは体によくないのでは? と言った瞬間だった。

 夏樹は俺からすぐに離れる。


「変わり身凄いな……」


 俺の体調不良で最後まではしない程度に乳繰り合ってはいるものの、激しい夜のお遊びはお預け中だ。

 やっぱりそれは夏樹にとってはそれなりに嫌なことなようだ。

 さっきまで俺をトイレに行かせまいとしていたのに打って変わって、早くトイレに行けと言わんばかりな夏樹に苦笑いするのであった。




 

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