第66話彼女の実家に寄り道

 同棲準備のために色々と買った後のことだ。

 重いものは後日郵送という形をとったので手にはほぼ荷物といった荷物はなく、日が暮れるまでは結構時間が残っている。

 近くにこれといって見て回れそうなお店もないし夏樹の実家に寄り、俺の部屋に必要な自分達で運べそうな荷物を運ぶことにした。

 

 で、彼女の実家にやってきたのだが……。


 家には親こそいなかったものの、今日は遊びに行ってていないと言っていたはずの夏樹の妹がいた。

 夏樹は俺と妹を別に会わせる気はなかったので、地味に顔を合わせたのは初めて。

 で、俺の顔を見るなりに妹さんはとんでもないことをぼそっと言い出した。


「あ、糞ヤバお姉ちゃんの彼氏?」


 ……なんだろう。

 俺の聞き間違えだろうか?

 とんでもないことを言われたような気がする。

 耳を疑っていると、一緒に横にいた夏樹が妹に軽くデコピンして注意した。


「あんまり変な事を言わないで」


 と、怒られた夏樹の妹は悪びれもしない。

 それどころか、夏樹に歯向かいだした。


「綺麗だけど超面倒くさい地雷なお姉ちゃん。そんな彼氏にはお礼を言わないとダメに決まってるでしょうに」

「私のどこがヤバいわけ?」

「怒ってないけど、なんかツンツンしててよくわかんない変に気難しいところとか」

「……はいはい」


 自覚があるのかそんなに強く言い返せなかった夏樹。

 そんな彼女の妹に俺は話しかける。


「どうもお邪魔します」

「えっと、私は皆城みなしろ智花ともかって言います」

「あ、御手洗みたらいみなとです。お姉さんにはいつもお世話になってます」

「いえいえ。ところで、今日は何の御用でうちに?」

 

 と言われたので、同棲準備のために夏樹の部屋から運べそうなものを取りに来たとざっと説明した。

 するとまぁ、智花ちゃんは夏樹ににやにやとしながら肘でつつく。


「お姉ちゃんの勝負下着コレクションを彼氏さんに見られちゃうんじゃない?」

「いや、別にいいし」

「……ほう」

「なに?」


 夏樹が睨みを利かせると、智花ちゃんは俺の方を見てニコっと笑った。


「湊さんの前ではプライド高いお姉ちゃんも隠し事なんてしないんですね」

「去年までは色々とツンツンしてたけど、ここにきて一気にデレた」

「……糞地雷お姉ちゃんのことですから超デレデレになるなんて、ちゃんと将来の責任を取るとか、そういう感じで口説いたわけですね!」


 うん、姉のことをよく知っていることで。

 なんだかんだでガチで責任を取ると約束したあたりから、夏樹の態度が一気に変わったもんな。

 なんて風に過去を懐かしんでいると、自分のことをとやかく言われて恥ずかしくなった夏樹は俺の脇腹をつねってきた。


「ほら、智花に構ってないでさっさと私の部屋に行くよ」

「わかったって。んじゃ、ちょっとの間お邪魔させてもらいます」


 智花ちゃんは年下だが将来的には親族になるお方。

 俺は礼儀正しく挨拶を済ませるのであった。


   ※


 親のいない日にちょくちょく夏樹の部屋にはお邪魔させてもらっていた。

 俺が一人暮らしを始めてからはほとんどやって来てはいなかったので、本当に久しぶりに入った気がする。

 特にこれといって、前と変わったところはなく以前来た時とそう変わりない。

 ただまぁ、匂いはちょっと違った。


「部屋に置いてあるアロマ変えたんだな」

「定期的に変えてる。今日は柑橘系っぽい匂いにしてある」

「さてと、俺の部屋には何を持ってく?」

「下着と服。とりあえず、春物と夏物を持っていって、秋冬はまた今度で」


 同棲するとはいえ、夏樹が今暮らしている実家の部屋においてある家具類はそのままにする予定だ。

 となれば、夏樹の言う通り俺の部屋に持ってくるものは服と下着類がほとんどだ。

 ただまぁ、もちろん下着類以外も持ってくる気はあるようで……。

 夏樹は収納ボックスの中から、何か入っているきんちゃく袋を取り出した。


「それは?」

「大事なものをすぐに持ち出せるようにまとめてある巾着袋」

「へー、見てもいいやつ?」


 夏樹を見るに別に見てもいいけどと言わんばかりなので、渡された巾着袋の中に手を突っ込んで中に入っていたものの一つを取り出した。


「……化粧品のごみ?」


 巾着袋から出てきたのは中身の入っていない化粧品のゴミ。

 こんなものをどうして大事にしまってあったのかと不思議に思っていたら、夏樹が少し恥ずかしそうに俺の手から化粧品の箱を奪った。


「湊からもらったやつだからね。記念に取っておいた」

「……お、おう」


 こう、俺があげた化粧品の箱を思い出として大事に取っておいてくれた。

 それはまぁ、なんというか凄く嬉しくなる。

 気分が良くなった俺は巾着袋の中身をさらに漁った。

 どんどん出てくる俺があげたプレゼントの外箱。

 そして、それとは別に小さなジップロックに入った髪の毛が出てきた。


「……あの、これは?」

「前髪がちょっと伸びて気になるって言われてさ、切ってあげたことあるでしょ?」

「ああ、俺たちが高校3年生、いや2年生の時だったっけか?」


 いつしてもらったのかは覚えてはいないが、少し伸びた前髪を夏樹に軽く整えてもらったことは覚えている。

 どうやら、ジップロックに入った髪の毛はその時のモノらしい。


「……へー、って。こえーよ!」


 俺の髪の毛を保管していた夏樹に恐怖を覚えた。

 俺は改めて思った。こいつ、留学前は俺と別れるとか言ってたけど……。

 なんだかんだで絶対に最後は別れないとか言いだしそうだったよな。

 こう、夏樹が俺に隠していたヤバい行動を知れば知るほどそうとしか思えないほど、俺への執着というか俺の扱いが重すぎるんだよな……。


「そんな引かなくてもいいでしょ。好きな人の体の一部って、なんか良くない?」

「お、おう?」

 

 夏樹のことがよくわからないので俺は首を傾げた。

 てか、巾着袋の中身をこれ以上漁るのが怖くなってきたな……。

 しかし、鬼が出るか蛇が出るか分からない神秘の袋に興味は尽きない。

 恐る恐る、俺は袋の中から棒っぽい形状の何かを取り出した。


「大人のおもちゃ?」


 出てきたのは普通サイズくらいのシリコン製の棒。

 一人でするときはおもちゃを基本的に使ってないと言っていたが……。

 やばめな欲求を持ってる夏樹はやっぱり道具に頼らざるを得なかったのか?

 勝手に結論を出そうとしていると、夏樹は何とも言えない顔で俺の手にある棒について説明しだした。


「あー、それは湊に突っ込む用に買ったんだけど……。まあ、あれ、最初から太めなのを見せちゃったら、絶対にダメってNG出されそうだったから隠してた」

「おい」

「で、あれ。それ使っても平気?」


 どこか妖艶な目つきで夏樹は俺を見てくる。

 俺はぶんぶんと激し目に首を横に振って、こんなのを俺に突っ込もうとするなと拒否をするのであった。

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