第65話同棲準備
今日は久しぶりに夏樹とお出掛けする日。
あくまで、デートではなくお出掛けだ。
そう、今日の目的はお遊びではなく、夏樹と本格的に同棲を始めるにあたって、しっかりと家具やら日用品を新調するためなのだから。
イチャイチャして目的をそっちの気にしてしまうのは交通費が勿体ない。
そんなことを肝に銘じて、俺と夏樹が向かったのは大手家具店だ。
組み立て式かつ、売り場には商品の見本だけを置いて、物自体は陳列せずに番号で、どの商品を買うのかをレジで伝える方式のお店である。
さてと、お店にはついた。
会えなかったせいで甘えん坊になってしまい俺の手をぎゅっと繋いでいる夏樹にどうするのかを聞いてみる。
「夏樹は何を一番に新調したいんだ?」
「机は変えたいかな」
「あー、今の机は確かに二人で使うには小っちゃいもんな」
同棲とは空間を共有するということだ。
今現在、俺の部屋にある机は二人で使うには少し物足りない大きさをしている。
大学で出た課題やらレポートやらをするには窮屈だ。
机はマストで買い替えだなと思っていたら、夏樹は小さな声で俺に言う。
「炬燵でエッチしてる漫画とかあるけど、どうなんだろうね」
頭の中がピンク色な夏樹に俺は苦笑いしながら答えた。
「ただ単にしにくいだけだろうな」
「気にならない?」
「……とはいうけど、俺もお前も机の近くにいないからなぁ」
炬燵の機能がついたテーブルを買っても良い気もするが、俺は基本的にゲーミングデスクの前にいて、夏樹はベッドの上や床の上にクッションを置いて寝そべっているか俺にくっついているかだ。
まあ、冬の暖房代も馬鹿にならないし、新しい机を炬燵にするのはいい案だ。
それにしても、あれだな。
「夏樹は炬燵でするなんてのどこで知ったんだ?」
エッチな漫画でしか出てこないようなシチュエーション。
それをどこで知ったのか気になった。
プライドが高かったころの夏樹はもういない。
興味本位で聞いた俺の問いかけに夏樹はケロッとした顔つきで答えてくれる。
「成人向けの漫画で」
「……どこでみたんだよ」
「湊が読んでたやつを私も読んだだけだよ」
「そういや、お前って普通に俺の検索履歴とか見まくってるもんな……」
俺のプライバシーはどこに行ったんだか。
あまりにも知られ過ぎているのが恥ずかしくなった俺は夏樹に恐る恐る聞いた。
「俺も夏樹の検索履歴とか見てみたいです」
「家に帰ったら好きなだけ見せてあげるよ」
「お、おう。意外とすんなりだな」
「別に湊に隠し事なんてないし。で、炬燵の件は?」
すっかりと話が逸れていたので、俺は改めて新しい机について考えようと思ったのだが……。
夏樹の目はすでに炬燵にくぎ付けである。
おしゃれで少し高い机が欲しいとねだられたわけでもないしな。
「じゃ、新しい机は炬燵にしてみるか。値段的にも下手なガラス製とか木製とかよりも全然安いしな」
「別に私が欲しそうにしてるからって、遠慮しなくていいからね」
「いいや、してないって」
「そ、ならよかった」
といって、俺たちは新しい机を選んだ。
で、次に向かったのは……。
収納ボックスコーナーだ。
今は部屋にある備え付けのクローゼットに衣装棚をしまって使っているが、本格的に同棲を始めるとなると服の収納は絶対に足りない。
ゆえに衣類をしまえるような収納棚は必須である。
「私は安いのでいいよ」
「意外と家具にこだわりないよな。夏樹ってさ」
「そう?」
「理沙ちゃんとかめっちゃ悩むぞ」
身近な女子である義妹である理沙ちゃんの名前を出した。
するとまぁ、夏樹は対抗意識があるのだろうか不安そうな顔で俺に聞く。
「湊はカワイイとかオシャレをこだわってる女子の方が好き?」
「んー、別にどっちでも。あ、家具はそうでもないけど洋服とかおしゃれとかについてこだわってるのはマジで好きだな」
「なんで?」
「カワイイ彼女がいろんな洋服を着てる姿を見たいからな」
というと、夏樹はクスッと笑った。
いや、なんでだよ。と目で訴えると夏樹は笑いながらいう。
「そういや、こいつってコスプレしてもらうの好きだし、やっぱり服のオシャレに関してもうるさいんだって」
「……いや、まあ、それとこれはちょっと別なような」
「似たようなもんでしょ」
「あー、それで収納棚はどうするんだ?」
ちょっとからかわれたような気がして耳の赤くなった俺は急かす。
夏樹はそんな俺をかわいがるかのように透明度の高い収納棚を指さした。
「あれなら何が入ってるか分かりやすいんじゃない? ほら、私に着せたいコスプレ衣装を選ぶときとか便利でしょ?」
「そ、それはそれで部屋に人を呼べなくなるからやめてくれと言いたいが、別にこれからは誰かを部屋に呼ぶってのはなくなるだろうしな……」
夏樹と同棲を本格的に始めたら俺は部屋に誰も呼ぶ気はない。
さすがに二人で住めば生活感も凄く出るだろうし、何よりも夏樹の生々しい暮らしっぷりが出ている空間を他人に見せたくないのだから。
「じゃあ、透明のにしちゃう? どうせ、本当に見られちゃまずいものはクローゼットにある方の収納棚に入れればいいし」
「なんで、そんなに透明推しなんだよ」
やたらと透明の三段式収納ボックスを勧めてくる。
不思議に思っていると、夏樹は何食わぬ顔で俺に言う。
「透明なら隠すには向かないからね」
「隠すって?」
夏樹はちらっと周囲を見た後、少し恥ずかしそうに言った。
「……大人のおもちゃとか」
不満げそうな空気を漂わせる夏樹に俺は苦笑いした。
こいつ、まだ俺があのおもちゃに嫉妬してるし、俺が持っていたことを許しきれてないんだなと。
「にしても、あれだな。俺が何も隠せないように透明な収納ボックスを選ぶとなると、お前も隠せないぞ?」
隠し事はできなくなるのは俺だけじゃない。
夏樹にもちょっとは隠したい物はあるはずだ。
って言ったのはいいものの、今の夏樹はなんでもオープンにしちゃう子だったな……。
別に気になんてしない。
そうだろうと高をくくっていると、夏樹は少し後ろめたそうになる。
「お、何か隠したいものがあるのか?」
夏樹は何を隠したいのかちょっと気になってしまい、ウキウキとした気分で俺は聞いてしまう。
だがしかし、俺は一瞬で聞いたのを後悔した。
「湊が逃げないようにするための縄とか見つかったら困るなって」
怖い。
俺の彼女はかわいいけどなんかヤバいんですけど……。
愛する彼女がときたま見せるヤバい顔。
未然に被害を防ぐためにも俺は笑顔で夏樹に透明な収納ボックスを指さした。
「よし、あれで決まりだな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます