第61話遅めのバレンタインチョコ
長めの休憩中をしているときのことだ。
夏樹はふと何かを思い出したかのように立ち上がり、大きめのバッグから何かを取り出して俺に渡してくる。
「ん、お土産」
「別にそんな気を使わなくてもいいのに……」
「まあ、一応ね」
夏樹がくれたお土産はチョコレートだった。
まあ、こんなもんだよなぁとか思っていたら、夏樹が可愛いことを言ってくる。
「今年は湊にバレンタインチョコをあげられなかったから」
「……だから、お土産にチョコなんだな」
「そういうこと」
早速、俺は貰ったばかりのチョコを食べることにした。
箱の中から取り出して食べようとする。
しかし、夏樹がじーっとこっちを見ているので食べにくい。
「どうかしたか?」
「やっぱり、遅れてでもいいから、バレンタインチョコをちゃんと作ってあげるべきだったかなって」
「いや、これでも十分嬉しいぞ? 今年は貰えないかと思ってたし」
大丈夫だというのに、夏樹は納得できなかったようだ。
俺の手からチョコレートを奪おうとしてくる。
「ちょっとだけ加工してくるから貸して?」
「い、いや、別にこれでいいって!」
夏樹にチョコを渡すまいと俺はより一層と手に力を込めた。
そう、俺は去年知ってしまった。
俺へのバレンタインチョコに、夏樹がナニかを仕込んでいるということを。
で、必死にチョコを守り続けていたら、夏樹はちょっと拗ねた。
「……もういい。私の手作りが嫌みたいだし、来年からずっと既製品にする」
「いや、そういうわけじゃ……。ただ、こう、ほら、チョコに唾液を混ぜられたりしてるのを知っちゃったから……」
「別にいいじゃん。ちょっとくらい混ぜても」
夏樹は自分の体液を混ぜることになんの疑問もないようだ。
まあ、唾液程度で止まってくれるなら俺も別に我慢はできる。
ただ、最近の夏樹は完璧に頭がおかしい。
唾液どころか、もっとヤバい液体を混ぜる可能性が非常に高い。
「ちなみに今日は何を混ぜる気だったんだ?」
「お「うん、やっぱり今日は手作りはやめような?」
『お』から始まるアレな液体を混ぜようとしていた。
正直なところ、ちょっとどころか、かなりドン引きである。
しかし、夏樹はやさぐれた感じで文句を言いだした。
「別に初めてじゃないのに……」
「え? まさか、すでに混ぜたことがあ、あるのか?」
「そ、去年のにね」
最近になって、夏樹は壊れたと思っていたけれども、俺が思っていたよりもずっと前から壊れていたようだ。
というか、よく4年も俺の前で化けの皮を被っていられたな……。
顔の引き攣りが止まらない俺に、夏樹は妖艶な笑みで迫ってくる。
「湊が何も知らずに私の手作りチョコを美味しそうに食べてるの見て、凄くドキドキしちゃった」
とんでもない趣味をお持ちな夏樹が怖くて俺は泣きそうになる。
こういうところも含めて愛すと決めたけれども、やっぱり怖いモノは怖い。
嫌とまではいかないが、もうちょっと加減をして欲しい。
「け、健康被害がある悪戯だけはマジでやめてくれよ?」
「大丈夫。湊に食べさせるものはちゃんと自分で毒見してるよ」
「……お、おう」
何かツッコミを入れるのにも疲れてきたな……。
気を抜いたその時だった。
チョコを加工する気満々な夏樹は、意気揚々と俺の手にあるチョコを奪う。
そして、笑いながら俺に言った。
「じゃあ、ちょっとだけ加工してくるから待っててね♡」
どこか楽し気な夏樹はキッチンへとチョコを加工しに行くのであった。
※
キッチンでチョコを加工している夏樹のことを、俺は背後から監視している。
今のところはいたって普通で、湯煎で固形になったチョコを溶かしているだけだ。
俺は何か変なモノを入れられないようにと目を凝らして見張る。
「あのさ、今日はさすがに混ぜないからね?」
警戒態勢の俺に夏樹は言った。
いいや、信じてたまるものか。
そうやって、俺を油断させてから、何かを仕込むんだろう?
「で、その湯煎したチョコをどうする気なんだ?」
「バニラエッセンスを入れる。あと、味見で食べたけど、カカオ比率が高くて甘さが弱いから砂糖も加えようかなって。で、味を調節したチョコを湊の部屋にあったクッキーに薄く塗る感じかな」
思った以上にちゃんとしたチョコ菓子に加工してくれようとしてくれている。
遅くなったが、しっかりとしたバレンタインチョコを夏樹は俺にくれようとしてくれているのが本当に嬉しい。
おっと、危ない危ない。まだ警戒を解くには早いぞ?
「俺が見てない間に何か入れるんだろ?」
「湊がうるさいし今日はいれないよ。」
「……まあ、それなら良いんだけどさ」
今日は手心を加えてくれるようだ。
ホッと一息を吐いていると、夏樹は湯煎して調味料足して味を調えたチョコをクッキーに塗り始めた。
で、無事にチョコをクッキーに塗り終えると、夏樹は固めるためにチョコ付きのクッキーを冷蔵庫へとしまった。
「ね? 今日は何も入れなかったでしょ?」
「いつもそうしてくれると助かる」
「……はいはい。てか、ちょっと余ったね」
ボウルに残った溶けたチョコ。
夏樹はどうしたものかと首を傾げて考え始めた。
それを尻目に俺は指でチョコを掬って舐めた。
バニラの香りがふんわりと鼻に抜ける感じが悪くない。
もう一口だけ舐めようと思い、指をチョコの入ったボウルにつける。
で、指についたチョコを舐めようとしたら、夏樹がチョコのついた俺の指をパクっと口に咥えて舐めてきた。
「……んっ、ちゅっ、じゅる♡」
夏樹は美味しそうに舐めている。
味のしなくなるまで俺の指をしゃぶった夏樹はとろんとした目で言った。
「いいこと思いついたかも……」
俺の目の前で夏樹は着ていたTシャツを脱いだ。
そして、胸にあるぷっくりとした突起物にチョコを塗りだした。
で、夏樹はチョコのついた胸を俺に突き付けてきた。
「ねえ、舐めて♡」
男の夢みたいなシチュエーション。
気が付けば、俺はチョコを舐めずにはいられなかった。
小ぶりな胸にあるぷっくらとした膨らみを覆い隠すチョコを舐める。
すると、夏樹はくすぐったそうに声をあげる。
「あっ♡ ちょっ、強く舐めすぎっ……♡」
こうして、俺は遅めのバレンタインチョコをしっかりと味わうのであった。
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