第54話やっぱり我慢できなかった4年目の彼女
筋トレを始めて3カ月が経った。
食事はなるべく低脂質で高たんぱくなモノに変えたり、運動負荷を強めなメニューを試したり、色々と試行錯誤しながら頑張っている。
その甲斐あってか、見た目の変化こそ少ないが体力はかなりはついてきた。
さらに、体を鍛えることは精神面にも変化を及ぼし始めている。
前よりも物事に集中できるようになり、前よりもポジティブに物事を捉えられるようになってきたのだ。
ちょっと調べて見たら、体を動かすとセロトニン? という脳内物質が分泌されることで、色々と精神面に良い影響を与えてくれるらしい。
とまあ、そんな俺の変化もあってか……。
ビデオ通話をしている夏樹に
『浮気してないよね?』
「してないって。にしても、最近は本当に俺を疑うよな」
『湊の顔が前に比べてイキイキしてるからね』
「それが浮気とどう関係するんだよ」
『男って彼女次第で色々と変わるって聞くし』
「別に新しい彼女に影響されて明るくなったとかそういうのじゃない。普通に筋トレしてたらなんか自信がついただけだ」
女の子と仲良くなり、何かしら影響を受けたわけじゃない。
そんな誤解を俺はしっかりと解くことにした。
ここで面倒くさがって雑に対処したら、夏樹は拗ねて1週間くらい電話してくれなくなりそうだし……。
いや、違うか。普通の彼女とはちょっと違う夏樹のことだ。俺に浮気する隙を与えまいと言わんばかりに、物凄い回数の電話を掛けてきたり、パソコンのWEBカメラを通して俺の生活を覗いてきたりするに違いない。
『本当に? 筋トレのおかげとか言ってるけど、すぐ男を褒めるような自己肯定感を高めて彼氏をコントロールしようとするアレな女の影響で……』
「ったく、心配性だな……」
面倒くさい夏樹を見て俺は笑ってしまった。
すると、夏樹はムッとした顔で俺にとんでもない事を言ってくる。
『スマホの通話履歴とメッセージのやり取り履歴を見せて』
「……ちょっと待ってくれ」
筋トレのおかげで少し行動が活発的になったとはいえ、交友関係が広がったわけではない。
俺は友達とやり取りするために使っているアプリのトーク履歴の画面をスクショに取って夏樹に送った。
『違うアプリでやり取りしてるんじゃない?』
「と言われると思って、スマホに入れてあるアプリの一覧のスクショも送った」
『……あー、ごめん』
やれやれと肩をすぼめていると、俺に申し訳なさそうに夏樹は謝って来た。
別に夏樹に疑われるのは気にしていない。
俺も夏樹に浮気を疑われてもおかしくないくらいに、色々と変わって来ている自覚があるのだから。
「というか、夏樹こそ俺に隠れて浮気してないだろうな?」
『してないし、そもそもできないし』
「できないって?」
『アソコの毛のお手入れしてないから、人に見せられる状態じゃないから……』
もじもじとした感じで夏樹は言った。
それが堪らなく俺の男心をくすぐってしまった。
「ぐ、具体的にはどんな感じなんだ?」
『……言いたくない』
むすっとした顔で夏樹は俺から目を逸らした。
うん、帰って来たときに見せて貰うのが本当に楽しみだ。
それにしてもあれだ。夏樹のことを馬鹿にデキない程、十分に俺も変態なのかもしれない。
「ま、帰って来たら見るから教えて貰わなくてもいいけどな」
『はいはい。てか、見たときに汚いって言ったら本当に蹴るからね?』
「わかってるって。何をそんな心配にしてるんだか……」
さてと、下の話はこれくらいにしておこう。
俺は話題をガラリと変えることにした。
「で、そろそろ年末だけど、夏樹は一時的に帰国とかする気はないのか?」
年末年始の予定を俺は聞いた。
まあ、夏樹の態度や口ぶりから何となくどうするのかは分かっているけどな。
『飛行機代がもったいないから日本には帰らないよ』
「はぁ……、クリスマスデートはお預けか……」
毎年のように俺と夏樹はクリスマスデートを一緒に楽しんでいた。
しかし、今年はそれができないとなると寂しくて悲しくてしょうがない。
『あと、初詣も今年は無理だね』
「……だな」
『あー、あれ。寂しいからとか言って、私に会いに来ないでよ?』
有り余る体力を消耗するために、バイトのシフトをガッツリと増やしたこともあり、貯金はそこそこ増えてきている。
それを使って夏樹に会いに海外へ行こうかなと思っていたのはお見通しのようだ。
「お金がもったいないもんな……」
『ちなみに私に会いにコッチに来たら、湊のアソコにデカいのツッコんでお仕置きするから』
「壊れちゃうからやめてください」
『じゃ、壊されたくなかったら私に会いに来ないでよ?』
「はい……」
金を掛けてまで会いに来るなと夏樹に釘を刺された。
まあ、しょうがないなと諦めかけたときのことだ。
夏樹がボソッと言う。
『湊に会ったら一緒に日本に帰りたくなっちゃう……』
もう3カ月も会っていない彼女の可愛い一言。
それを聞いた俺は嬉しくなった。
「夏樹って意外と寂しがり屋だよな」
『なに? 寂しがり屋で悪い?』
「全然、むしろ嬉しいくらいだ」
『……これ以上湊と話してると本当に会いたくなるから電話切るね』
そう言って、夏樹は俺との電話を切ってしまった。
しかし、すぐにまた電話が掛かってきた。
『やっぱり、まだ話したい』
夏樹は物欲しそうな声で頼んでくる。
俺もまだ話足りなかったので夏樹と話すことにした。
しかし、夏樹と話していると徐々に夏樹の鼻息と吐息が荒くなり、スマホを持っていない方の手を不自然にもぞもぞと動かしているのに気が付いてしまった。
「夏樹さん? もしかして、一人で弄ってるんじゃ……」
『んっ♡ 湊じゃあるまいし……、んあっっ♡ そんなことしてない……っつ♡』
「いや、顔を赤くして色っぽい声を出しながら言われても説得力ないんだけど……」
『ちがっ♡ これは、部屋が暑いだけだからっ……♡』
俺にバレないように弄っている夏樹。
それは堪らなく俺を奮い立たせる。
気が付けば、俺も夏樹と同じようにスマホを持っていない方の手で大事な部分を弄りだしていた。
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