第43話しっかりと口を塞いでほしい4年目の彼女

 お風呂場で盛り上がった後のこと。

 濡れた髪を拭きながら夏樹が冷凍庫からアイスを取り出す。


「湊もいる?」

 いるというと、夏樹が俺に箱入りで売ってる棒アイスをくれた。

 封を開けて齧ると火照った体にアイスの冷たさが染みわたる。


「にしても、これでまだ1時間ちょっとか……」


「1発1時間で出したけど、湊は平気?」


「このペースだと死ぬからちょっとだけペースを落としてくれると助かる」

 馬鹿馬鹿しい会話をしながらアイスを食べる。

 すると、濡れた髪を拭き終わった夏樹が棒アイスを意味深に舐めだした。


「んっ、れろっ、じゅる……」


「何してんの?」


「うぉーみんぐあっふ」

 アイスを必死に舐める夏樹に俺は聞いてしまった。


「今お前がシテるみたいなことを、初めてシタ時はどんな気分だったんだ?」


「へんらい」

 アイスを咥えながら話す夏樹が俺の脇腹をつねってきた。

 練習とか言って。はしたなくアイスを食べるお前には言われたくないんだが?


「だって気になるじゃん……」


「はじめへしらときはすごくへんらきもちっらよ」

 アイスを咥えながら話しているせいで何も聞き取れない。

 俺は夏樹が咥える棒アイスを取り上げる。


「何言ってるか全然わからない」


「まあ、初めては凄く変な気持ちだったよって」


「変な気持ちか……。嫌とかそういうの?」


「嫌な気はしないかな。湊も舐めてくれるときはそんな嫌じゃないでしょ?」

 ずっと前から俺に舐められたかったという場所の近くを、夏樹は軽くゆびでトントン叩きながら言った。


「好きな人に汚いところはないってか?」

 夏樹は俺の言葉にこくりと頷いた。

 そして、そんな彼女は俺が持つ棒アイスを見ながらボソッと言う。


「……遠慮しないでもっと奥にいれていいよ」


「急にとんでもないこと言うな」


「だって、いつも遠慮してるでしょ?」


「夏樹を苦しめる趣味はないし、今の深さでも満足してるからなぁ……」


「そっか」

 素っ気ない感じで夏樹は言った。

 うん、わかった。


「本音は『して良いよ』じゃなくて『して欲しい』んだろ?」


「……強引にされるのも好きだし。どんな感じなのかな~って」

 体育座りをしている夏樹は顔を赤らめながら足の指をくねくねと動かしている。

 ふざけたこと言うなと、俺は夏樹が何を言ってるかよくわからなかったので、さっき夏樹の口から取り上げた棒アイスを夏樹の口に入れた。

 溶け始めていることもあり、夏樹は棒アイスをすぐに食べる。

 そして、食べ終わった後に物欲しそうな顔で俺のある部分に触れてきた。



「こっちのも食べていい?」


 

 夏樹は舐めてもなくならない不思議なアイスをご所望する。

 俺は意地悪で冷凍庫からアイスを取り出して夏樹に渡した。

 

「アイスが食べたいんだろ?」


「……ノリわる

 ちょっと拗ねた夏樹は文句を言いながらも、俺が持ってきたアイスを食べだした。

 とはいえ、2本は多かったようだ。

 俺にも食べてと、俺の方に棒アイスを傾けてきた。

 俺は夏樹が手に持つアイスをパクっと齧る。


「にしても、もっと奥かぁ……」


「普通なら、私じゃなくて湊の方がもっと奥に……って頼む側なのにね」


「夏樹がむせる姿を想像するだけでちょっと可哀そうでな……」


「どの口がいうの? 昨日は嫌がる私に無理矢理、栄養剤を飲ませてきたくせに」


「あれは、お前が口にした物をわざわざ口に含まされたのにさけけらて、イラっとしたからなわけで……」

 苦しめたくてやったんじゃなくて、イライラからの仕返し的なものだと伝えた。

 すると、夏樹は何かを思いついたような顔で俺に跨ってきた。

 

「イラついてたら私のことを激しくしてくれるんだ」

 俺の口に夏樹は指を入れてきた。

 指はどんどん奥に入って来て、俺は息苦しくなっていく。

 涙目になりながら俺はむせる。


「けほっ、げほっっ、おまえなぁ……」


「イラついた?」


「ああ、イラっとした。でも、まだ足りないな」

 苦しむ夏樹を無視して懲らしめてやるという気はまだ起きない。

 お前がされたいことなんてしてあげないとう強気な姿勢を見せつけた。

 だがしかし、夏樹はずる賢い。

 

「湊のお母さんに、湊が私に求めてくる回数が多くて困ってるって、それとなく注意してほしいってお願いしていい?」


「おまっ、なんて嘘を母さんに吹き込もうとしてるんだよ……」


「ほら、早く私の口を塞がないと変な事を周りに言いふらすかもよ?」


「正直にして欲しいって言えばいいのに……」


「そうしてもいいけど、たぶんそれだと、湊は可哀そうなお前を見る趣味はない……とか言って結局はしてくれないでしょ?」


「そうだけどさぁ……」


「とんでもないこと周りに言いふらされてもいいの?」

 と言って、夏樹はわざとらしく俺に大きく口を開けて見せつけてきた。

 さっきまで食べていた棒アイスのような物で塞げといわんばかりだ。


「わかった。わかったから……」

 俺は冷凍庫に10本入りの箱に入った棒アイスを取りに行った。

 そして、それで夏樹の口を塞ごうとしたら、

 シャク、シャク、シャクと良い音を鳴らして、あっという間に夏樹は棒アイスを完食してしまった。

 アイスを一気に食べたことで頭がキーンとしているのか、凄く眉間にしわが寄っている夏樹は俺を脅してくる。


「10、9、8、7、6、5………」

 夏樹はスマホを手に持ち意味深にカウントダウンを始めた。

 このまま口を塞がなかったら、本当に夏樹はとんでもないことを俺の周囲の人間に言いふらし始めるかもしれない。

 俺は口を塞がれたさそうな夏樹の口を塞ぐことにした。

 ちょうどいい所にあった溶けないで。

 口を塞がれた夏樹は上目遣いで口をもごもごとさせる。


「まら、しゃべれりゅけど?」


「……むせても文句言うなよ?」

 ずずっとより深く夏樹の口の中へ押し込んだ。

 苦しそうなので引こうとすると、夏樹はやめないでと首を振る。

 俺はさらにさらに押し進めた。

 すると、夏樹はくぐもった声をあげて、鼻息を荒げる。


「んぐっ、ん゛、んっっ、んあっ!?」

 次第に夏樹は苦しそうな顔になっていくのだが――

 なぜか幸せそうにも見える。


「……お前がやって良いって言ったんだからな」

 苦しめる度にどこか蠱惑的な表情を見せてくれる夏樹。

 気が付けば、俺は躊躇ちゅうちょなく夏樹を苦しめはじめていた。

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