第42話掻きだして欲しい4年目の彼女

 栄養剤を飲んだり、軽いヨガをして血流をよくしたり、お風呂で体をしっかりと温めたり、元気の出そうな食事を食べた。

 体力が回復しそうなことをたくさんして向かえた次の日の朝。

 8時40分にセットしたアラームで俺は目を覚ました。

 うるさいアラームを止めると、すでに起きていた夏樹が俺に跨ってきた。


「いつ始める?」


 俺のお腹の上に跨る夏樹の目は若干血走っているように見える。

 栄養剤のプラシーボ効果で昨日の夜はとんでもなかったらしく、寝ようとしても眠れなくて、俺の横でもじもじと体をくねらせていた。

 とまあ、昨日の夜から欲を押さえつけていたこともあり、夏樹はもう限界寸前というわけだ。

 なんというか、夏樹の強すぎる欲求がちょっと不安になってきた。

 病院で問題がないか調べて貰った方がいいんじゃなかろうか……。

 少し心配していると、さっさと私の質問に答えろと言わんばかりな目で夏樹が俺を睨んできた。


「……お好きにどうぞ」

 夏樹は獲物を前にした肉食動物みたいにだらだらと、下のお口から俺のお腹によだれを垂らしてくる。

 待った。さすがにこの量おかしくね?


「あの、夏樹さんのよだれが服を貫通してきてお腹が冷たいんですけど……」


「そりゃあ湊が起きる前に仕込んだし」


「なんで?」


「私のだけじゃ長時間だと乾いちゃうでしょ?」


「あははは……」

 俺は苦笑いするしかなかった。

 長時間する場合、俺もそうだが夏樹にも負担がかかる。その負担を軽減するための準備を夏樹はしっかりとしていた。

 正直なところ、1日中スルといっても冗談だと思っていた。

 限界を向かえたら終わるんだろうなぁと高を括っていた。

 しかし、夏樹は冗談じゃなくてガチで長時間するつもりらしい。


「ちょっとトイレ行って来ていい?」

 お好きにどうぞと言ったが、一瞬にして俺は焦る。

 気持ちを落ち着けるべく、トイレに逃げ込もうとするも……。


「私も一緒に行く。一度、トイレでシテみたかったし」

 どうやら、1回戦の場所はトイレに決まったらしい。

 

  ※

 

 夏樹のやる気が凄すぎて、俺の方が先にバテるのは確実だ。

 バテたとしても、夏樹は遠慮なく責めてくるだろう。

 辛い時間はちょっとでも短い方がいい。

 どうにかこうにかして、出す回数を温存をするための時間を稼げないかと、俺は必死に頭を働かせた。


「早くしてほしいんだけど」

 トイレの便座に座ってやる気満々な彼女が足を広げて俺を誘ってくる。

 俺は時間稼ぎをするために変態なことを夏樹に頼む。


「夏樹がトイレで、し、シテるところみたいかも……」


「……別にいいけど」

 便座に座る夏樹は恥ずかしそうに俺から目を背けた。

 俺のために何でもできるとはいえ、恥ずかしいことは恥ずかしい。

 トイレの便座に座る彼女は、俺に良く見えるように少しだけ足を開いて用を足そうとするのだが……。

 しかし、一向に始まらない。


「どうかしたか?」


「見られてるとしにくい……」

 より一層と顔を赤らめて夏樹は言った。

 色んな趣味嗜好を凝らしていけば、絶対に時間は稼げると確信した。

 頑張り次第で地獄の責め苦が始まる時間は遅くできそうだ。

 俺はホッと胸を撫でおろした。

 だが、夏樹はそんな俺の様子を尻目ながらに見ていたらしい。


「もしかしてだけど、シテルところを見せて欲しいって時間稼ぎ?」


 顔の赤い夏樹は訝しげに俺を見てきた。


「なわけないだろ?」

 彼女がしているところをみたい変態と思われてもいい。

 俺は必死に動揺を隠した。


「いや、湊って別にノーマルもノーマルだし、私のシテルところを見たいとか全然思ってないでしょ?」


「み、見たいぞ?」


「ふーん。どのくらい?」


「もっと近くで見たいくらいだ」

 少しでも夏樹による超絶ハードな責めの時間は減らしたい。

 今日を生き延びるために、俺は嘘に嘘を塗り重ねた。

 それがいけなかった。


「近くで見たいなら場所変えよっか」


「え?」

 戸惑う俺の手を夏樹は引く。

 そして、俺が連れて来られたのは――


 お風呂場だった。


「夏樹さん? 何をするおつもりで?」


「ここならもっと近くで私のシテるとこ見れるでしょ?」

 夏樹はそう言って浴槽のヘリに座わる。

 そして、夏樹は笑った。


「……ねえ、本当はシテるとこなんて見たいと思ってないでしょ?」

 夏樹は浴槽のヘリに座って足を広げながら、冷ややかな声で俺に尋問する。


「いや、そんなことはないぞ」


「じゃあ、もっと顔を近づけていいよ?」


「これ以上近づけたら俺に掛かるんだけど……」


「で、本当に湊は私がするところ見たかったの?」


「いや、その……、すみませんでした」

 騙せそうになかったので俺は白状した。

 すると、夏樹は落ち着いた声で俺に言う。


「あのさ、恥ずかしいことは恥ずかしいって言わなかった? 私、湊のために頑張ってしようとしたんだよ? 湊のためならなんでも我慢できるとは言ったけどさ、さすがに私も湊に軽い気持ちでお願いされるのは嫌なんだけど?」

 見せて欲しいと言われたから、夏樹は我慢して俺に見せてくれようとした。

 それなのに俺の目的は見ることじゃなくて、時間稼ぎだったのだ。

 夏樹が怒るのも無理はない。


「ごめん」

 いくら何でも彼女の俺のためなら何でも我慢できるを軽んじ過ぎた。

 馬鹿なことをしたなぁと俺は後悔する。

 少し落ち込む俺に夏樹は柔らかい声で言う。


「湊のためなら何でも我慢できるよ。でも、私の気持ちも考えてね?」


「だな。夏樹は俺の人形じゃないもんな……」

 肩を落として俺は落ち込んだ。

 それから数十秒間ほど無言の時間が続く。

 そして、夏樹は――


「ぷっ、ちょっと待って。何この雰囲気……」


 笑った。

 クールで素っ気ない彼女にしては珍しく大笑いである。


「ああ、ほんとだよ。マジで笑えてくる。なんてことで喧嘩してるんだよ! って」

 俺も夏樹に釣られて笑ってしまった。

 夏樹と俺は馬鹿なことで言い争ったことを笑いあう。


「あははははっっ、ほんと馬鹿でしょ!!!」

 夏樹は体を震わせて激しく笑う。

 で、ちょっとした悲劇が起きた。


「きゃっっ!?」

 お風呂場にある浴槽のヘリに座っている夏樹は笑い過ぎて、つるんと体を滑らせて蓋をしていなかった浴槽の中へと落ちていく。


 バシャン!!! と音を立てて水が波打つ。


 幸いなことに浴槽には水が入っている状態であり、体を強く打ち付けるなんてことはなかった。


「大丈夫か?」

 可愛い声をあげて浴槽の中に落ちた夏樹に手を差し伸ばした。

 夏樹は俺の手を取り、苦笑いして俺にこう言うのだ。



「ちょっと入れすぎたみたい」



 一瞬、ワケがわからなかった。

 でも、ワケがわかってしまい俺は笑ってしまう。

 浴槽のヘリに座っている夏樹が体を滑らせて転んだのは――


 俺との長時間なプレイに備えて乾きすぎないようにと、あらかじめ仕込んだ大量の潤滑油が漏れ出たせいだ。


 俺は夏樹が座っていた浴槽のヘリを触って確認する。

 うん、凄いぬるぬるしてる。

 

「俺の部屋をローションまみれにしないでくれよ?」


「……あー、ごめん」


「おい、ごめんってなんだ?」


「さっき廊下でちょっと垂らした」

 浴槽の中に落ちてびしょびしょになった夏樹は気まずそうに言った。

 クールで素っ気ない彼女のちょっとお馬鹿なやらかし。

 俺はそれを見て笑わずにはいられなかった。


「どんだけ入れたんだよ……」

 俺がそう言うと夏樹はそろそろ本当にシタくてしょうがないのだろう。

 指で液体を入れたところを広げて俺を挑発してくる。



「じゃあ、き出してみる?」



 夏樹からの魅力的なお誘いを俺は断ることなんて出来なかった。


 


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