第41話明日に備える4年目の彼女

 夏樹の留学まで今日を含めて後4日。

 あと少しで夏樹は飛行機に乗って、遠い地へと旅立ってしまう。

 体調を整えて旅立つ方がいいし、本当に疲れる何かをするのなら、今日か明日くらいな方がいいわけで……。

 俺はちょっと身構えていた。

 限界までスル日が、今日か、明日か、それとも二日連続かと。

 そして、夏樹による審判の時がやって来た。


「今日はお休みで」


「な、なにが?」

 分かっていても聞き返さずにはいられなかった。


「恋人がするようなお遊びのこと」


「今日は休みってことは明日は……」


「朝から昼までする」


「朝から昼って、やっぱり夏樹も体調を万全にして旅立ちたいんだな」

 意外に短いプレイ時間を聞いて、俺はホッとした。

 しかし、夏樹の朝から昼と言うのは俺が思っていた朝から昼ではなかった。


「勘違いしてない? 朝からまでだから」


「……それ、普通に死なない?」


「ちょっと仮眠すれば平気でしょ」


「頑張るけど、途中で限界になったらごめんとだけ言っておく」

 体力お化けの夏樹と違って、夜の運動会でだいぶ体力が増えて来たものの、まだまだ俺はひょろくて弱っちい。

 先んじて俺は謝っておくことにした。

 すると、夏樹はそんな俺を大した気にしていない様子で俺に言う。


「だから、そうならないように今日はお休みにしたんでしょ?」


「そうだけどさぁ……」

 夏樹は液体を出すには出しているが、男である俺が出すソレとはかなり違う。

 男のソレは出せば出すほど、どんどん弱体化していくのだ。

 ぶっ通しでデキる自信なんて本当にない。

 そんな不安を浮かべている俺の大事な部分を夏樹は握りながら言う。


「元気を維持するためには出さなきゃいいんでしょ? それにまあ、前に比べて量も増えて来てるし、きっと平気でしょ」


「出さなきゃいい理論はわかるけど、量が増えて来てるって記録でもしてるのか?」


「してない。でも、目に見えて増えてると思うよ。湊は気が付いてないの?」


「量なんて気にするの無駄だから……」

 俺は遠い目をして言う。

 だって、増えたところでカラカラになるまで絞られるのだから、気にしたところでしょうがないのだから。


「まあ、湊以外のは見たことないから、私の感想でしかないけどね。ただ、絶対に普通の人より多いのは間違いないよ」

 ちなみに、量が増えた理由の心当たりはたくさんある。

 夏樹に絞られまくって体力が増えてきた。栄養バランスの良い食事を夏樹が作ってくれる。食が細いせいで体重が減るばかりなのでプロテインを飲むようになった。すっぽん&マムシエキス配合の栄養剤を飲むようになった。

 そりゃあ、量が増えるなんてことが起きてもおかしくはない。


「そういや体つきはどうだ?」

 プロテインを飲んでいるので、ちょっとは筋力が増えたかなと思って、腕に力こぶを作って見せたのだが……。

 夏樹に鼻で笑われた。


「ふっ……。あのさ、別に筋トレしてないんだから変わるわけないでしょ?」


「プロテインを飲めば筋肉が増えるんじゃ……」

 甘い幻想を打ち砕かれた俺はその場で落ち込んだ。

 そんな俺の腕を、夏樹は両手でもみもみとして触診してくる。


「まあ、この感じなら鍛えれば良い感じになるかもって感じではあるね」


「わかった。俺、お前がいない間に頑張る……」


「何で私が居ないとき?」


「毎日のようにお前に絞られ過ぎて、筋トレするだけの余力というか気力がない」

 今の俺は日々生き抜くことに精一杯で、体を鍛えるだけの余裕はないのだ。

 ちなみに、夏樹は俺の上で激しく暴れた後、ケロッとした顔で年間契約しているフィットネスジムに鍛えに行っている。

 正直に言うと、体力あり過ぎて人間じゃないのかと疑ってしまうくらいだ。


「じゃ、湊は私がいない間、頑張って鍛えるってことでいい?」


「もちろん」


「そっか。じゃあ、楽しみにしとく」

 夏樹は俺の弱っちい手首を握ってきた。帰って来たら、この細腕がどうなっているんだろうね? という期待感がこもっていそうな手つきで。


「え、あ、その……、そんなに期待されても」


「うん、期待してるよ?」


「だからその……」


「だからなに?」

 俺の細腕を夏樹はギュッと握ってきた。

 

「な、何でもないです……」

 帰国後の楽しみが増えた夏樹はほくほくとした顔で嬉しそう。

 俺が鍛えるのをサボったら大変な目に遭いそうだ。

 まあ、夏樹は海外で半年間頑張るんだ。俺も頑張るとしよう。

 

「にしても、ガチで明日は1日中するのか?」


「するよ。まあ、さすがにご飯とか適度に休憩は挟むけどね」


「そう聞くと耐えられる気がしてきた」


「飲まず食わずにするとでも思ってたわけ?」

 ちょっと思ってたと言ってしまったら、本当に試すという展開になってもおかしくないので俺は黙った。

 すると、俺の前に夏樹はいきなり袋をおいた。


「これは?」


「飲まず食わずでやるつもりがない証拠」

 ビニール袋の中を見ると、スポドリとカロリーバーが入っていた。

 俺はスポドリとカロリーバーを手に夏樹の顔を見ながら質問した。


「えっと、明日のご飯ってこれ?」


「そ、これならすぐに栄養になるでしょ?」


「ごめん。やっぱり耐えられないかも……」

 普通にご飯は食べれると思っていたけど、夏樹のいうご飯がアスリートが手っ取り早く栄養を補給するためのモノだとは思っていなかった。

 俺が想像している以上に、夏樹はストイックな戦いをするつもりらしい。

 一瞬でもご飯と休憩があるなら平気そうと思った俺が馬鹿だった。


「じゃあ、ちょっとでも耐えられるように飲んで」

 夏樹は冷蔵庫からお馴染みの栄養剤を取り出して俺の前に置いた。

 期限切れ間近のセールで買った商品なこともあり、すでに期限切れ。

 まあ、3日切れているだけだし、飲んでも特に問題はないと思われる。

 俺はグビっと飲んだ。


「今日は寝る前にも飲んでね」


「あー、そう言われると思ってた」

 飽きれた感じで振舞っていると、俺が持っている栄養剤の空き瓶を、夏樹がマジマジと見ていることに気が付いた。


「どうかしたか?」


「私も飲もうかなって。明日のために」


「……吐きそうになったのに?」


「今ならイケる気がする」

 夏樹は新しい栄養剤を手にして中身をグビっと煽った。

 また、ちょびっと口に含むのではなくて一気飲みだ。

 本当に懲りないやつめ……。

 そして、一気飲みした夏樹はというと――


「……んぶっ」

 この前と同じように飲みこめず、また口に含んだままの状態になった。


「学習しろよ……。さすがに今飲んだから、俺はもう飲まないからな」


「……ぺっ」

 夏樹は口に含んだ栄養剤を、机に置いてあった空のコップに吐き出した。

 そして、吐き出したモノが入ったコップを俺に押し付ける。


「だから、飲まないって」


「湊からの口移しならイケる気がする」


「……はぁ」

 馬鹿なこと言うなぁとか思いながら、夏樹が吐き出したコップの中身を見た。

 お世辞にも綺麗なモノではないし、口には含みたくはない。

 と思っていたのも過去の話だ。

 キスをたくさんして、食べものの口移しさえもされた。

 汚いとは思うけど、夏樹が吐き出したモノを口にすることへの抵抗感はそこまで感じなくなってしまっている。


「嫌がっても無理に流し込んで」


「別にやるって言ってないのにな……」

 とか言いつつも、俺は夏樹の言う通りに行動する。

 俺は夏樹の口を通してコップに移された液体を口にして、夏樹にキスを迫った。

 だが、俺がキスを迫ると夏樹は顔を逸らして逃げようとする。

 無言で俺が睨むと、夏樹は嫌そうな顔で頬を引き攣らせて笑う。


「やっぱ無理かも……」

 お前のために、お前が口から出したモノを口にしてるんだが?

 別にしたいから、しているわけじゃない。

 人にとんでもないことをさせておいて、その態度はなんだ。

 ちょっとした怒りを抱いた俺は、夏樹が口を開けているタイミングを見計らって、強引に激しいキスをした。



「ん゛ん゛ん゛~~~~~!!!!」



 キスされた夏樹は手足をジタバタとして悶え苦しむ。

 声にもならない声をあげ、必死に俺から逃げようとする。

 俺は口の端から液体を溢しながらも、夏樹が喉を鳴らすまでキスを続けた。

 

「んぐっ……んっ、んくっ……」

 液体を口移しで夏樹は飲んだ。

 口の中が空になったのを確認し、俺は口を離した。

 そして、夏樹の顔見る。


「おぇっ、うぇ……んぷっっ」

 キスのせいか、栄養剤が不味いせいか、どっちかのせいで夏樹の顔は赤い。

 そして、気持ち悪そうに嗚咽を漏らす夏樹は俺を恨めしい目で睨んでいる。



「いやいや、お前がやれって言ったんだからな?」



 無理にでも流し込んでと言ったのはお前だろ?

 親の仇でも見るかのような怖い目で睨んでくる夏樹が面白くて笑ってしまった。


 






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