第40話自覚のないヤバい4年目の彼女

 アブナイ撮影会をした後、俺と夏樹はさすがに寝た。

 で、お昼過ぎに起床し、夏樹と一緒にシャワーを浴びて、スマホで撮った映像を夏樹と一緒に確認している。

 スマホの小さな画面を肩を寄せ合って見ているが、俺と夏樹の顔は赤い。

 好きな人と深く交わっている自分の姿をみて、恥ずかしくないわけがない。

 夏樹は口でシテいる時の映像を見ながら、口元を手で隠しながらボソッと言う。


「……口でシテルときの私ってこんな顔なんだ」


「いや、まあ、可愛いぞ?」


「湊の変態」


「ちょっ、なんでだよ」


「ふつうはこんなアレな顔を可愛いって言わないし」


「言葉を選んだだけだ。いいのか、ありのままの言葉で言っても?」


「……やめて」

 夏樹は本当に言われたくなさそうだ。

 しかし、最近は夏樹にやられっぱなしなこともあり、仕返しと言わんばかりにオブラートに包まずに口でシテいる夏樹の感想を言う。


「ほんと、この時の夏樹ってエ、「ん゛~~!!!」

 オブラートを剥がそうとしたら、夏樹に殴られた。俺のために我慢できるとはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしいわけで、ぼこぼこと俺の肩を夏樹は殴ってくる。


「ちょっ、悪かったって」


「あほ、ばか!」


「てか、そんなに恥ずかしいなら動画も写真も消すか?」


「……べ、別に消さないでいい」


「いやいいのかよ……」


「撮られるのは恥ずかしいけど、悪くはないから……」

 夏樹は意味深に下腹部を触りながら言った。


「悪くないってなら、あとで動画送るか?」

 夏樹はやや俯いた状態で小さくコクンと頷いた。

 消さないで良いどころか、動画を欲しがるとかマジで新しい世界に足を踏み入れちゃった感じか……。

 にしても、こんな危ない映像がスマホにあるのはちょっと怖くなってきた。


「うかつにスマホを落とせなくなったな……」

 俺のスマホから夏樹のあられもない無修正の画像と動画が流出しようものなら、夏樹の人生は一気にハードになる。

 俺はそれを恐れて口にしたら、夏樹も神妙な面持ちで頷いた。


「わりと私の人生が終わるから気を付けてよ?」


「いっそのこと、お前と遊ぶのを撮る専用のカメラ買うか」

 俺は冗談のつもりだったが、夏樹は間に受けたようだ。


「家に使ってないビデオカメラと三脚あるから持ってくる」


「いや、冗談だから」


「撮りたくないの?」


「いやまあ、正直、撮りたいけどさぁ……」


「じゃ、ビデオカメラ持ってくる。私も湊の記録を付けたいし」


「お、俺の記録って?」


「後ろのに決まってるでしょ」


「……恥ずかしいから嫌だって言ったら?」


「隠し撮りする」

 俺の成長? 記録を残そうとする変態な彼女に苦笑いしていると、夏樹が口でしている動画の再生が終わった。

 撮ったモノを見るのはこのくらいでいいやと思い、スマホをポケットに仕舞おうとすると夏樹に阻止される。


「せっかくだし、湊のスマホに入ってるの写真見せてよ」


「あいよ」

 スマホを夏樹に渡した。

 夏樹は俺のスマホに保存さている写真を古い順にして見始める。

 そして、とある1枚の写真を見て呆れた顔をした。


「これ、盗撮でしょ?」

 夏樹の手を止めた写真は、図書室にある貸し出しカウンターの机で顔を突っ伏して居眠りしている夏樹の横顔だった。


「……はい」


「どんな気持ちで撮ったの?」


「可愛いな~って感じで。ちなみにその日の夜。罪悪感で死にそうになった。そして、消そうと思ったけど、消すに消せなくてな……」

 クラスメイトの寝顔を勝手に撮ってしまった。 

 その背徳感は凄まじくて、撮った日の夜は興奮と自己嫌悪が止まらなかったのを今でも容易に思い出せる。


「消せなかった理由は?」


「こんな可愛い子の写真を消すの勿体ないだろ。あと、今更だけど勝手に撮ってすみませんでした」


「……はいはい」

 夏樹はスマホに保存された写真をどんどん見ていく。

 ひとしきり見終わった後、夏樹はどこか嬉しそうだ。


「私の写真ばっかり。湊って、本当に私のこと好き過ぎない?」


「まあな。てか、そう言うお前こそどんな写真を撮ってるんだ?」

 どんな写真を夏樹が撮ってきたのかを見たくなった。

 夏樹のスマホを手に取ろうとしたが、ぺちっと手を叩かれた。


「友達の写真が多いからダメ」


「なら、俺に見せてもいい、とっておきの1枚を見せてくれ」


「ちょっと待ってて……」

 夏樹はスマホを俺に見えないような位置で弄る。

 数分経っても、まだまだ俺に見せる写真は決まらない。

 ちょっと痺れを切らして、俺は夏樹のスマホをのぞき込んでしまった。

 そして、俺はゾッとした。

 なにせ、夏樹のスマホには――

 とんでもない量の俺の寝顔写真が保存されていたのだから。


「あの~、夏樹さん?」


「……いいじゃん。彼氏のこと好きなんだから」


「いやまあ、いいんだけどさ。さすがに、その量はちょっと怖い」


「まあ、この写真を撮った時は湊と別れたくないけど、別れるんだろうなって思ってて、だけ病んでた時期だから」

 少し前まで、夏樹は半年も会えなくなるお前となんて恋人で居られないと、俺にフラれるのを覚悟していた。

 おびただしい量の俺の寝顔の写真は、そう思っていた時期に撮った写真らしい。


「お、おう」

 怖いのでこれ以上深堀するのはやめようと思った。

 だけど、夏樹は自ら病んでいた時期について話し出した。


「あの時、本当にヤバくてさ。湊のこと監禁して、私が留学に行っても別れないって約束させるってのも考えてたんだよね……」


「まあ、病んでるとそういうイケナイ考えも想像しちゃうよな」

 なんて面白い冗談を言うんだと俺は笑った。


「手足を縛る練習もしたっけ」

 夏樹はやけに手慣れた手つきで、成人男性である俺の手足を縛るなと思っていた。

 それは練習の賜物だったのか!?

 俺は焦りを隠しながら、夏樹と話を続ける。


「へ、へー、まあで監禁する気がなくても、ちょっとした練習をしたくなっちゃうよな。うん、わかる。わかるぞ」


「いや、冗談なんだけど。もしかして、私の言うこと信じそうになったの?」


「アハハ……、さすがに信じるわけないだろ」

 俺は乾いた笑いをしてしまった。

 どうやら、それが夏樹に不信感を抱かせたようだ。


「あのさ、彼氏を監禁するようなヤバい奴に私が見えるわけ?」


「この際だから言うけどさ、正直に言うと見えるぞ。最近の夏樹って本当にあれだし……」


「いやいや、私をからかわなくていいから」

 ふざけるのも大概にしろよ? という呆れた感じで夏樹は俺を見てきた。

 別に俺は夏樹をからかってないんだけど……。


「とんでもない奴になってきてる自覚がない……のか?」


「はいはい。深刻そうな雰囲気だして、私をからかおうとしなくていいから」

 夏樹は俺への愛を拗らせている自覚はないようだ。

 気が付けば、俺は苦笑いが止まらなくなっていた。

 




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