第36話嫌なことでも彼氏のためなら我慢できる4年目の彼女

 繁華街でぶらぶらとした後、俺と夏樹は部屋に帰ってきた。

 夏樹はやたらと買い込んできた食料を冷蔵庫に仕舞う。

 今現在の時刻は20時ちょっとだ。

 夕食にはいい時間だなと思っていたら、夏樹は缶酎ハイを手に取って俺に向けた。


「たまには二人で飲まない?」


「珍しいな。家にいるとき、お酒を飲もうだなんて誘ってくるなんて」


「たまにはいいでしょ」


「で、酒は足りそうか?」


「大丈夫。この前、買ってきたから」

 と言って、キッチン下にある収納棚から夏樹はお酒を取り出した。

 缶酎ハイ、ウィスキー、割る用の炭酸、日本酒、などなど。

 大体3000~4000円分くらいありそうだ。


「よくそんなお金があったな」


「自炊でお金が浮いてるし、友達とのお出掛けもキャンセルになったからね」

 てな感じで、

 俺は夏樹と珍しくでお酒を楽しむことにした。


   ※


 適当におつまみを食べながら、お酒を楽しみ始めて1時間が経った頃のこと。

 夏樹は酔って来たのだろうか、イカを乾燥させたおつまみの、あたりめ(でかめ)を口に咥えて俺の方を見てきた。


「たべて」


「……普通、そういうのはポッキーでやるんじゃ?」


「いいから」

 俺は夏樹が咥えているデカいあたりめを口にした。

 しかしまぁ、ポッキーと違ってパクパクと食べられるものじゃない。咀嚼が追い付かず、口の中にどんどんあたりめが溜まっていく。

 口の中が一杯になったころ、俺と夏樹の口はゼロ距離になっていた。

 俺は軽く口づけをして、不毛なお遊びはやめようと思った。

 でも、夏樹が強引に俺にキスをしてくる。

 そして、自身の口の中に入っていたモノを俺の口に押し付けきた。


「んっっ!?」


 俺は体をのけぞらせて逃げようとした。

 しかし、夏樹は一心不乱に迫ってきて、俺の口にぐちゃぐちゃになった口の中のモノを押し付けるのをやめない。


「……んぐっ」

 結局、俺は抗いきれずに強引に口の中のモノを飲み込まされた。

 別にこんなことをする趣味のない俺は夏樹の方を睨むように見る。

 さすがにヤリ過ぎじゃないか? と。


「……ごめん」


「いや、悪いと思ってるなするな。次やったら、マジで怒るからな?」


「別れる?」


「いや、別れない。お前と同じでおしおきして反省をさせる」


「そっか」

 夏樹はでかめのから揚げを口に含んで、もごもごと咀嚼した。

 そして、咀嚼したモノを口に含んだまま俺にキスをしようとしてくる。


「……おまっ、ちょっ、マジでやめてくれって!」


「やら、もっろ食べさせる」

 口の中に食べ物が入っている夏樹は舌足らずにそう言った。


「あのなあ? いい加減にしろよ!」

 俺は強引に口移しで俺に食べさせようとしてくる夏樹を怒った。

 怒られた夏樹は一瞬ムスッとした顔になるも、嬉しそうにもじもじとし出した。


「湊に怒られた。なんか嬉しい……」


「嬉しいのかよ……」


「だって、湊は滅多に怒ってくれないじゃん」

 俺に怒られて嬉しがるとか、夏樹は相当酔っているのかもしれない。

 違うな。たぶん酔ってなくても俺に怒られたら嬉しがりそうな気がする。

 ただ単に酔ったから気が大きくなって、いつもより好き放題しているだけだ。


「彼氏に怒られたいって変わってるな」


「湊ってほとんど怒らないでしょ? だから、怒られるとなんか嬉しくなるんだよね。あ、怒ってくれるんだってかんじでさ」


「はいはい」

 夏樹の言うことがよくわからないので、俺は適当に話を流した。

 しかしまあ、俺に怒られると嬉しい彼女はというと……。

 俺に怒られたくて仕方がないのか、俺の胸にある突起物をつねってきた。


「痛い、痛いって」


「怒った?」

 と言われると、怒りたくなくなる。

 俺は気にしてないという顔で夏樹に言う。


「怒ってない」


「湊のケチ……」


「ったく、この酔っ払いめ」


「酔ってないし。私を好きなのに、私が酔ってるかどうかすらわかんないの?」


「いやいや、酔ってるから……」


「全然平気だし」

 頬を赤らめた夏樹は強がる。

 俺は夏樹の頬をつつきながら、さっきのことをからかった。


「夏樹ちゃんは可愛いですね~。彼氏に怒られたくて悪いコトしちゃうなんて」


「だって、怒った湊をわからせる方がたのしいし」


「怒ってない俺をしつけても面白くないと?」


「こう、怒ってたり、嫌がってたりする湊に無理やりしてのが楽しいんでしょ? だからまあ、後ろを責めるのは凄くいい。ちゃんと、湊が嫌がってくれてるし、ちゃんと怒ってるぽいから、凄く頑張れる……」

 夏樹の目はうっとりとしている。

 怖い、マジで怖いんだが? 後ろを夏樹ガッツリと弄られても、忌避感を抱かないようにじっくりと調教されそうで。


「お前がそうする気なら俺もお前の胸を弄りまくるぞ?」

 ちょっとデカくなったくらいで騒いだ夏樹に言った。

 嫌がることをされるのは嫌だろ? と。


「嫌だけど別にいいよ」


「嫌なのにいいの?」


「デカい方が好きって言ってたでしょ? 湊が良いなら別に我慢できる」


「あ、ああ。そうだな」

 気圧けおされながら俺は答えた。

 すると、夏樹はTシャツを脱いでブラを外して俺に胸を見せつけながら言う。




「だから、湊がしていいよ?」



 

 愛に狂う夏樹を見て、俺は冷や汗をかいた。

 この先どうなっていくんだ? と未来への不安を感じてしまうのだが……。

 しかし、それでも不安よりも興奮の方が上回っていた。


 俺のことが大好きで、何をされてもいいと言ってくれる可愛い女の子。


 そんな子が目の前に居たら、我慢できる男なんているわけがない。

 甘くて危ない香りのする夏樹の胸に手が伸びていく。

 ちょうど俺の手が夏樹の胸に触れたときだ。



「私、湊のためなら我慢できるからね?」



 好きな人になら何をされたって構わないと、夏樹は危なげに囁いた。

 


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